《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

6-2.神の資格

『この村はすでに包囲されている! 大人しく魔神アラストルと、オルフェス最後の魔術師の身柄を差し出せ。さもなくば、貴様らを皆殺しにするぞ』


 そう声が響いた。
 聞き覚えのある声だった。
 これは――。
 ロードリ公爵自身の声だ。どうやら領主じきじきにご登場のようである。


 ずいぶんと陳腐な脅し文句ではあるが、たしかにけっこうな数の兵隊を連れて来ているようで、それなりに迫力はあった。


 雑兵たちの威嚇の声が、あたりを震わせていた。


「地下通路がある。そこから逃げな」


 主神ティリリウスの石像の裏。石の床板が敷かれていた。レイアはそれを鈎針のようなもので持ち上げた。すると地下へと続く階段が現われたのだった。


「ずいぶんと都合の良いものがあるな」


「ここは盗賊の村だぜ。隠し通路の1つやふたつは用意してるんだよ」


「それもそうか」


「って、言っても、教会にもともとあったものを、利用してるだけだがな」
 と、レイアはつづける。


「出来るだけ時間を稼ぐが、どれだけ稼げるかはわからねェ。下りたら左右の道にはそれずに、真っ直ぐ走れ」


 レイアさんはどうするのですか――と、プロメテが尋ねた。


「私はここで時間を稼ぐ。無事だったら、シューパルトの村で落ち合おう。場所はわかるか?」


 オレはわからなかったが、プロメテにはわかったようだ。


「どうか御無事で」


「ああ。崇拝するべき魔神さまを守れるんだ。信者としては光栄なことだよ」


「命を粗末にしないでくださいね。もしかすると、あの方々は、私たちを殺しにかかってくるかもしれません。もし命の危険を感じたら投降も――」


「嬢ちゃんは、余計な心配しなくても良いんだよ」
 と、レイアは強引にプロメテの背中を押して、地下へと続く石段を歩ませたのだった。


 プロメテが石段を下ると、「達者でな。ありがとう」と言い残して、レイアは床板を閉めた。


 床板が閉まると、すぐに怒号と騒乱が聞こえてきた。


「レイアさんは、無事に逃げられるでしょうか?」


「さあな。オレにもわからん。意外と、兵隊連中を返り討ちにしちまってるかもしれんしな」


 プロメテのことを励まそうと思って、あえて軽い口調でそう言った。


現実がそう甘くはないだろうということは、オレにもわかっている。レイアは「返り討ち」ではなくて「時間稼ぎ」と言ったのだ。


 兵隊に突破される前提である。


 プロメテは閉ざされた床板を、いつまでも見上げていた。


 未練があるのだろう。セッカク《紅蓮教団》という仲間たちを得たのだ。ずっと孤独だったプロメテにとっては、容易には捨てがたいものだろう。


 しかし今は――。
「逃げるぞ。プロメテ」
 と、急かした。


 プロメテが助からなければ、レイアが時間を稼いでくれていることもムダになってしまう。


「そうですね。レイアさんたちが無事であることを祈りましょう」
 と、プロメテは足を進めはじめた。


 プロメテは何気なく言ったのだろうが、祈る、という言葉はオレに無力感をあたえた。


 プロメテは何に祈るというのか。神か? プロメテは神から見放された魔術師である。プロメテが祈る神は、オレしかいない。


 しかし今は、プロメテの祈りに応えてやることが出来そうになかった。


 この地下通路は、どうやらずいぶんと長く伸びているようだ。水路の役目も果たしているようだった。中央に水が流れていて、プロメテはその脇の道を進んでいるのだった。


「ずいぶんと立派な水路だな」


「ここはもともと《光神教》の教会につながっていましたから、《光神教》の者が、ずっと昔に配備したのでしょう」


「いちおう雨に対抗して、水の循環技術は優れたものがあるみたいだな」


 レイアに言われたように、プロメテはひたすら前へと進んで行く。途中で左右にわかれる道があったけれど、すべて無視して進んだ。


「……ふぅ……ふぅ……」
 と、プロメテは呼気を荒げていた。


 プロメテの吐息は白くけぶって、頬は赤らんでいた。ずいぶんと苦しそうである。


「どうした? 疲れたか?」


「いえ。すこし足が……」


「痛むのか?」


「申し訳ありません」


「いや。謝ることはない。すこし休もう」


「ですが、レイアさんは、真っ直ぐ走れと、おっしゃっていました」


「無茶はいけない」


 たしかにレイアは急げと言っていたが、この地下通路がそう簡単に見つかるとは思わなかった。


 レイアたちが時間を稼いでくれているし、逃げる時間はあるはずだ。


 歩くのが辛かったのか、壁を背にして、プロメテは座り込んだ。


 通路の中央に流れている水を、プロメテは見つめていた。小脇に置かれたオレもまた、その水の流れを見つめていた。


 ザーッ 
 水路に沿って水の流れる音が、ひびいていた。


 やがて、
「うっ……うっ……」
 と、プロメテは身を震わせて泣きはじめた。


「どうした? そんなに痛いのか?」


「いえ。痛いのではなく、悲しいのです」


「レイアたちのことなら、いまは無事を祈るしかない」


「きっと、神さまは私に罰を当てたのです」


「どういう意味だ?」


「私はオルフェス最後の魔術師です。天界より魔法を盗み出した一族の末裔です」


「ああ」


「天界の神々は、私が幸せになることなど許してはくれなかったのでしょう。だから、レイアさんたちは襲われることになったのです。私と関わってしまったから……」
 と、膝をかかえて、プロメテは顔をうずめた。


「そう卑屈になることはない」
 と、オレが言うと、プロメテは顔を上げた。その目元は赤く腫れてしまっていた。


「ですが……」


「あの教会にあった石像、主神ティリリウスとかいったか。あれが《光神教》の信じる神なんだろう」


「はい。ほかにも天界に神さまはいますが、あの方が主神だそうです」


「プロメテは、あれを崇めているのか?」


「いえ。崇めているわけではありません。ですが、主神ティリリウスさまは存在しておられますし。世間の多くは、《光神教》を崇めておられます」


「君の神は、オレだ。違うか?」


「も、もちろん、魔神さまへの崇拝心は持っております」
 と、プロメテはあわてたように言った。


「責めてるわけじゃない。君が信じるべき神は、主神ティリリウスなどというヤツではない。魔法を盗まれたぐらいで怒るような神など、崇拝してなにになるか」


 ずいぶんと器の小さい神である。
 よくそれで神を名乗れるものだ。


 プロメテの苦労は、すべてその神の責任だと思うと、だんだん腹が立ってきた。


「ですが……」


「君の神は、オレだ。なら――」


 君に罰を与えられるのは、オレだけだ、とオレは断言した。


 プロメテを励ましたいがためのセリフではない。これは自分への鼓舞でもあった。


 魔神と呼ばれるからには、信徒の1人を守れるぐらいのチカラが欲しい。
 助けてやれない神などに、神を名乗る資格はない。


 もし手があるなら握りこぶしを固めていたことだろう。


「そうですね。挫けてはいけませんね。私はこの世界に火を取り戻すと決めたのですから」
 と、プロメテの目に光が戻ったのだった。

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