《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
5-3.このあたりは、宗教色が薄く
「ここが、私たちの村だ」
と、レイアが足を止めた。
平原の途中に、その村はあった。
オレの明かりが届くかぎり、村の様子を見てとることが出来た。
石造りの家が、まばらに建ち並んでいた。牛やニワトリと思われる動物たちを飼っている様子もあった。
この村も、都市と同様に《輝光石》の輝きが見受けられた。
「建物は、石造りなんだな」
「木造や藁の家なんかは、この雨ですぐにダメになっちまうからな」
と、レイアが傘をゆすった。
「なるほど。それでも、盗賊の拠点って感じはしないけど」
「そりゃ、いかにも盗賊でござい――って見た目をしてるわけないだろ。いちおう普通の村を装ってるよ」
「そりゃそうか」
お頭ぁ――と、スキンヘッドの大男が駆け寄ってきた。
図体が大きいうえに、いかつい顔をしている。しかも腰にはファルシオンと思われる剣をたずさえている。もちろんその剣も、鉄鋼樹脂とやらで出来ているのだろう。
その風体に、オレは怯んでしまったほどだ。
「よぉ。ガリアン。無事にやってたかよ」
と、レイアが気安く言う。
「お頭、そ、その明かりは……」
そのスキンヘッドの大男が言う「お頭」と言うのは、どうやらレイアのことを言っているらしかった。
「ああ。火だ。こちらは魔神アラストルさまと、それを召喚したオルフェス最後の魔術師だ」
と、レイアは誇らしげに、オレたちのことを紹介した。
「そ、その女が、オルフェス最後の魔術師……」
と、ガリアンと呼ばれた大男は、プロメテに軽侮するような目を向けた。
そういう目に当てられ続けてきただけあって、プロメテは敏感なのだろう。身をすくめていた。
レイアがそんなプロメテを庇うようにして立った。
「おいおい、ガリアン。この娘を、そんな目で見るんじゃないよ」
「ですがお頭。魔術師と言うのは、その……この世界が暗くなってしまった原因であってですね……」
「ウルセェ。それは1000年前の話だろうが。この娘は関係ねェだろ。それに、私たちはこの娘に感謝しなくちゃならねェんだぜ」
と、レイアは声は張った。
盗賊のくせに良いことを言う。
そう言えば、レイアはもとから、プロメテにたいして差別するような見方をしてはいなかった。
「どういう意味です。それは?」
「私を見て、何か気づかないかい。ガリアン」
と、レイアはみずからの顔を指差して言った。
「お頭……。その顔は?」
「気づいたかい。そう。私は暗闇症候群を治したのさ。この魔術師の嬢ちゃんが召喚した、魔神さまのチカラで治ったんだ」
おおっ、とガリアンは声をあげ、眼を見開いていた。
レイアはくるっと振り返って、オレのことを凝視してきた。
その紅色の凛とした目で見つめられると、迫力を感じさせられた。怖い顔をしていた。何かしでかすのか……。身構えた。
不意に――。
レイアはその場にひれ伏した。
真っ赤な髪が、地面に垂れていた。
「この通りだ。私の仲間《紅蓮党》のほとんどが、クロイにやられて、暗闇症候群になっちまってる。どうか、治してやってくれ」
「お頭、なにあたまなんて下げてんだよ」
と、ガリアンがレイアの頭を起こそうとしていた。が、逆に、
「てめェも、お願いするんだよ」
と、レイアに、そのスキンヘッドの頭を押さえつけられていた。
「そう畏まらないでください。私はもともと、レイアさんたちを治療するために、こちらに来たのですから」
と、プロメテが慌てたように言っていた。
あまりに慌てていたのか、両手をブンブン降っていた。それに合わせて、鳥籠に入っていたオレも左右に揺られた。
あわわ、申し訳ないのです、と揺すったことにプロメテはオレにも謝った。
「治してくれるかい? みんな盗賊だけど、悪いヤツじゃないんだ」
「魔神さまさえ、了承してくだされば」
鳥籠に入っているオレを、プロメテが覗きこんできた。
むろん――オレに異論はない。
そう応えた。
「ありがてぇ」
と、頭を下げていたレイアは跳ね起きた。そのヒザは泥で汚れていた。
ガリアンに仲間を集めるように、レイアが指示を出していた。
指示を受けたガリアンは、その巨体を揺らして村のほうに戻って行った。
「まさか、盗賊のリーダーだったとはな」
レイアの年齢は判然としないが、組織の頭になるのはすこし若すぎる気もした。
「言っただろ」
「そうだったか?」
言っていたような気もするが、あまり正確には覚えていなかった。
「私の父が《紅蓮党》のリーダーだったんだけど、若くして死んじまった。だから、私が若頭として《紅蓮党》を継ぐことになったのさ」
そんなことより、こっちに来てくれ――と、レイアに連れられて、オレとプロメテの2人も村に入った。
村の中。
案内された先には、ひときわ大きな石造りの建物があった。ほかの建物とは雰囲気が違っている。小さな城のようなたたずまいであった。本棟のとなりには鐘楼もついていた。
「この建物は?」
「ああ。それは《光神教》の教会だ。いや。教会だった場所――って言うべきかね。そこの神父はすでにクロイになっちまって、行方知れずだし」
「《光神教》?」
「このオルフェスで広く信仰されてる宗派だよ。天界だとか、神さまだとか、天使だとか――そういうヤツ。現実にいる神を信仰してる宗派さ。魔神さまはホントに世間知らずだなぁ」
「悪かったな」
地球の宗教とはわけが違うのだ。このオルフェスという世界には、神が実在しているのだ。
そう言うオレだって、魔神扱いである。神がいるのならば、それを敬う人もいるというわけだ。
「中に入ってくれ。濡れるだろ」
と、レイアがその教会の古びた両開きのトビラを開けた。
そのトビラは、緑がかっていた。おそらく鉄鋼樹脂とやらで出来たトビラなのだろう。
トビラは、ぎぃぃ、と女の悲鳴のような音できしんでいた。
レイアが教会のトビラを開けても、プロメテは呆然とした様子で、その教会を見つめていた。
「どうかしたか?」
と、いつまでも動こうとしないプロメテに、オレは尋ねた。
「あ、いえ、なんでもありません」
と、プロメテはかぶりを振った。
「《光神教》は、天界の神々を信仰している連中だ。すなわち、魔術師を目の仇にしている連中だ。オルフェス最後の魔術師である嬢ちゃんには、気になるところがあるんだろう」
図星だったのか、
「はぁ」
と、プロメテは曖昧にうなずいていた。
「気にすることはねェよ。《光神教》の教会だった――ってだけで、いまは機能してないからな。神父もいなけりゃ、天使だって、神さまだって、ここにはいやしねェ。このあたりの領土は、宗教色が薄いからな」
レイアはそう言うと、中へ入って行く。
プロメテもそれにつづいた。
教会。内装は、プロメテが住んでいた場所と似ていた。
懺悔室と思われる箱が置かれている。長椅子がいくつも並べられている。
しかし、プロメテのいた教会とは大きく違っている点が1カ所あった。
石像である。
剣を天にかかげ、両翼を広げた男の像があった。
「すげぇ石像だな」
と、オレは、その石像を見あげた。
翼には、1枚1枚の細かい羽を彫りこまれていた。教会の天井は高いのだが、その天井に届きそうなほどの大きさがあった。
「あれが、《光神教》の崇拝する主神ティリリウスだ。私は見たことねェけど、天界にいる神の親玉だそうだ」
「これが、神の親玉……」
こちらをヘイゲイしてくるその目には、なにか特殊なチカラが宿っているようにも感ぜられた。
「とは言っても、ただの石像だ。気にすることはない」
と、レイアはそう言って、石像の足のうえに腰かけた。
「罰当たりじゃないのか?」
「なに言ってンだ。この神は、魔術師を目の仇にしてやがるんだ。罰当たりもヘッタクレもねぇよ」
「そう……か」
するとこの主神は、プロメテの敵、ということになるのだろうか。プロメテにとっては敵対心がなくとも、向こうは魔法を奪われたことを根に持っているのだ。
根に持っているから、世界を闇で閉ざしているのだ。じゃあ、神さまはプロメテのことを、敵として認識していることになる。
「それに宗派も違うしな。私は《光神教》なんて信じちゃいねェ」
と、レイアはコブシで乱暴に、その石像の足を叩いた。
「信じるも何も、実在してるんだろ、この神は」
「実在していても、助けてくれねェだろ。私を助けてくれたのは、魔神アラストルさまだったからな」
と、レイアは自分の顔を指差して言った。暗闇症候群のことを言っているのだろう。
「あらたまって言われると、照れるな」
「仲間たちのことも、よろしくお願いします」
と、レイアはまた頭を下げた。
呼んできましたぜェ――と、ガリアンが教会にやって来た。
ガリアンが引き連れてきた物たちは、みんな身体のどこかしらに包帯を巻きつけているのだった。
と、レイアが足を止めた。
平原の途中に、その村はあった。
オレの明かりが届くかぎり、村の様子を見てとることが出来た。
石造りの家が、まばらに建ち並んでいた。牛やニワトリと思われる動物たちを飼っている様子もあった。
この村も、都市と同様に《輝光石》の輝きが見受けられた。
「建物は、石造りなんだな」
「木造や藁の家なんかは、この雨ですぐにダメになっちまうからな」
と、レイアが傘をゆすった。
「なるほど。それでも、盗賊の拠点って感じはしないけど」
「そりゃ、いかにも盗賊でござい――って見た目をしてるわけないだろ。いちおう普通の村を装ってるよ」
「そりゃそうか」
お頭ぁ――と、スキンヘッドの大男が駆け寄ってきた。
図体が大きいうえに、いかつい顔をしている。しかも腰にはファルシオンと思われる剣をたずさえている。もちろんその剣も、鉄鋼樹脂とやらで出来ているのだろう。
その風体に、オレは怯んでしまったほどだ。
「よぉ。ガリアン。無事にやってたかよ」
と、レイアが気安く言う。
「お頭、そ、その明かりは……」
そのスキンヘッドの大男が言う「お頭」と言うのは、どうやらレイアのことを言っているらしかった。
「ああ。火だ。こちらは魔神アラストルさまと、それを召喚したオルフェス最後の魔術師だ」
と、レイアは誇らしげに、オレたちのことを紹介した。
「そ、その女が、オルフェス最後の魔術師……」
と、ガリアンと呼ばれた大男は、プロメテに軽侮するような目を向けた。
そういう目に当てられ続けてきただけあって、プロメテは敏感なのだろう。身をすくめていた。
レイアがそんなプロメテを庇うようにして立った。
「おいおい、ガリアン。この娘を、そんな目で見るんじゃないよ」
「ですがお頭。魔術師と言うのは、その……この世界が暗くなってしまった原因であってですね……」
「ウルセェ。それは1000年前の話だろうが。この娘は関係ねェだろ。それに、私たちはこの娘に感謝しなくちゃならねェんだぜ」
と、レイアは声は張った。
盗賊のくせに良いことを言う。
そう言えば、レイアはもとから、プロメテにたいして差別するような見方をしてはいなかった。
「どういう意味です。それは?」
「私を見て、何か気づかないかい。ガリアン」
と、レイアはみずからの顔を指差して言った。
「お頭……。その顔は?」
「気づいたかい。そう。私は暗闇症候群を治したのさ。この魔術師の嬢ちゃんが召喚した、魔神さまのチカラで治ったんだ」
おおっ、とガリアンは声をあげ、眼を見開いていた。
レイアはくるっと振り返って、オレのことを凝視してきた。
その紅色の凛とした目で見つめられると、迫力を感じさせられた。怖い顔をしていた。何かしでかすのか……。身構えた。
不意に――。
レイアはその場にひれ伏した。
真っ赤な髪が、地面に垂れていた。
「この通りだ。私の仲間《紅蓮党》のほとんどが、クロイにやられて、暗闇症候群になっちまってる。どうか、治してやってくれ」
「お頭、なにあたまなんて下げてんだよ」
と、ガリアンがレイアの頭を起こそうとしていた。が、逆に、
「てめェも、お願いするんだよ」
と、レイアに、そのスキンヘッドの頭を押さえつけられていた。
「そう畏まらないでください。私はもともと、レイアさんたちを治療するために、こちらに来たのですから」
と、プロメテが慌てたように言っていた。
あまりに慌てていたのか、両手をブンブン降っていた。それに合わせて、鳥籠に入っていたオレも左右に揺られた。
あわわ、申し訳ないのです、と揺すったことにプロメテはオレにも謝った。
「治してくれるかい? みんな盗賊だけど、悪いヤツじゃないんだ」
「魔神さまさえ、了承してくだされば」
鳥籠に入っているオレを、プロメテが覗きこんできた。
むろん――オレに異論はない。
そう応えた。
「ありがてぇ」
と、頭を下げていたレイアは跳ね起きた。そのヒザは泥で汚れていた。
ガリアンに仲間を集めるように、レイアが指示を出していた。
指示を受けたガリアンは、その巨体を揺らして村のほうに戻って行った。
「まさか、盗賊のリーダーだったとはな」
レイアの年齢は判然としないが、組織の頭になるのはすこし若すぎる気もした。
「言っただろ」
「そうだったか?」
言っていたような気もするが、あまり正確には覚えていなかった。
「私の父が《紅蓮党》のリーダーだったんだけど、若くして死んじまった。だから、私が若頭として《紅蓮党》を継ぐことになったのさ」
そんなことより、こっちに来てくれ――と、レイアに連れられて、オレとプロメテの2人も村に入った。
村の中。
案内された先には、ひときわ大きな石造りの建物があった。ほかの建物とは雰囲気が違っている。小さな城のようなたたずまいであった。本棟のとなりには鐘楼もついていた。
「この建物は?」
「ああ。それは《光神教》の教会だ。いや。教会だった場所――って言うべきかね。そこの神父はすでにクロイになっちまって、行方知れずだし」
「《光神教》?」
「このオルフェスで広く信仰されてる宗派だよ。天界だとか、神さまだとか、天使だとか――そういうヤツ。現実にいる神を信仰してる宗派さ。魔神さまはホントに世間知らずだなぁ」
「悪かったな」
地球の宗教とはわけが違うのだ。このオルフェスという世界には、神が実在しているのだ。
そう言うオレだって、魔神扱いである。神がいるのならば、それを敬う人もいるというわけだ。
「中に入ってくれ。濡れるだろ」
と、レイアがその教会の古びた両開きのトビラを開けた。
そのトビラは、緑がかっていた。おそらく鉄鋼樹脂とやらで出来たトビラなのだろう。
トビラは、ぎぃぃ、と女の悲鳴のような音できしんでいた。
レイアが教会のトビラを開けても、プロメテは呆然とした様子で、その教会を見つめていた。
「どうかしたか?」
と、いつまでも動こうとしないプロメテに、オレは尋ねた。
「あ、いえ、なんでもありません」
と、プロメテはかぶりを振った。
「《光神教》は、天界の神々を信仰している連中だ。すなわち、魔術師を目の仇にしている連中だ。オルフェス最後の魔術師である嬢ちゃんには、気になるところがあるんだろう」
図星だったのか、
「はぁ」
と、プロメテは曖昧にうなずいていた。
「気にすることはねェよ。《光神教》の教会だった――ってだけで、いまは機能してないからな。神父もいなけりゃ、天使だって、神さまだって、ここにはいやしねェ。このあたりの領土は、宗教色が薄いからな」
レイアはそう言うと、中へ入って行く。
プロメテもそれにつづいた。
教会。内装は、プロメテが住んでいた場所と似ていた。
懺悔室と思われる箱が置かれている。長椅子がいくつも並べられている。
しかし、プロメテのいた教会とは大きく違っている点が1カ所あった。
石像である。
剣を天にかかげ、両翼を広げた男の像があった。
「すげぇ石像だな」
と、オレは、その石像を見あげた。
翼には、1枚1枚の細かい羽を彫りこまれていた。教会の天井は高いのだが、その天井に届きそうなほどの大きさがあった。
「あれが、《光神教》の崇拝する主神ティリリウスだ。私は見たことねェけど、天界にいる神の親玉だそうだ」
「これが、神の親玉……」
こちらをヘイゲイしてくるその目には、なにか特殊なチカラが宿っているようにも感ぜられた。
「とは言っても、ただの石像だ。気にすることはない」
と、レイアはそう言って、石像の足のうえに腰かけた。
「罰当たりじゃないのか?」
「なに言ってンだ。この神は、魔術師を目の仇にしてやがるんだ。罰当たりもヘッタクレもねぇよ」
「そう……か」
するとこの主神は、プロメテの敵、ということになるのだろうか。プロメテにとっては敵対心がなくとも、向こうは魔法を奪われたことを根に持っているのだ。
根に持っているから、世界を闇で閉ざしているのだ。じゃあ、神さまはプロメテのことを、敵として認識していることになる。
「それに宗派も違うしな。私は《光神教》なんて信じちゃいねェ」
と、レイアはコブシで乱暴に、その石像の足を叩いた。
「信じるも何も、実在してるんだろ、この神は」
「実在していても、助けてくれねェだろ。私を助けてくれたのは、魔神アラストルさまだったからな」
と、レイアは自分の顔を指差して言った。暗闇症候群のことを言っているのだろう。
「あらたまって言われると、照れるな」
「仲間たちのことも、よろしくお願いします」
と、レイアはまた頭を下げた。
呼んできましたぜェ――と、ガリアンが教会にやって来た。
ガリアンが引き連れてきた物たちは、みんな身体のどこかしらに包帯を巻きつけているのだった。
コメント