《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

3-1.期待を裏切る暴力

「心配した。セッカクの火を盗まれてしまったのかと思った」
 騎士のひとりがそう言った。
 その騎士は、みずからを小隊長だと名乗った。


 奪われたオレを取り返すべく、騎士小隊を編成していたようだった。


「いえ。盗まれたわけではありません。チャント返してくださいましたから」
 と、プロメテはかぶりを振った。


「よく注意しておくことだ。この魔神さまを狙う輩はきっと多いのだからな」


 そう言うのなら、お前らもすこしは警戒しておけよ、と言いたい。まぁ、盗まれた当人が言えることでもないし、オレは黙っていた。


 騎士たちも、物珍しげにオレのことを見つめてきた。「すこし分けてくれよ」「貰い火ぐらい良いだろ」と言ってきた。


 べつにオレは構わなかったのだが、小隊長がそれをはばんだ。


「よせよせ。領主さまの許可がおりてからだ。まずは領主さまに許可をいただき、聖火台に火を灯す。話はそれからだ」
 とのことだ。


 オレに群がってきた騎士たちは、しぶしぶといった様子で身を引いていた。


「申し訳ありません」
 と、なぜかプロメテが恐縮していた。


「さあ。こっちへ来るんだ。領主さまが、魔神の火をご覧になりたいそうだ。失礼のないようにな」
 と、小隊長によってオレたちは、城のなかへと導かれることになったのだ。


 跳ね橋を通り、中庭を抜けた。
 そして城の中に入る。


 城の通路には、等間隔で《輝光石》が配置されていた。オレがいないときは、その明かりを頼りに歩くのだろう。


「しかし、すごいな。魔神の火は。ずっと暗闇で生きてきたオレにとっては、明るすぎるぐらいだ」
 と、小隊長は言った。


 べつに会話がはずむことなく、小隊長は速足で進んだ。足が速いというか、大股なのだ。


 プロメテは小走りで、それに付いて行った。小走りでも、カンテラがあまり揺れないように配慮してくれた。


「チョット気になったんだが」
 と、オレは小声でプロメテに尋ねた。


「なんでしょうか」


「あの小隊長さんの腰にある剣は、どういう素材なんだ? 火がないなら、剣とか防具も作れないと思うんだが」


 あの小隊長だけではない。騎士たちは、腰に剣をさしていた。


「昔は、鍛冶によって武具を製造していたそうですが、火がなくなってから、それが出来なくなりました」


「だろうな」


「剣や防具、それに食器なんかは、植物で作ります」


「植物でできるのか?」


「鉄鋼樹脂と呼ばれるものがあります。樹脂から武具が作れるのです。あ、魔神さまの入っておられるカンテラも、同じ材質のものなのです」


「なるほど」


 窓ガラスもそうだが、緑がかったものが多いと思っていた。どうやらこれは鉄鋼樹脂と呼ばれる材質のようだ。


 環境が変わることによって、世界もそれに合わせて、いろいろと変化を起こしているのかもしれない。


 あるいは異世界だから――だろうか。鉄の樹脂に、光る鉱石。どちらもオレには馴染のないものである。


「なにをコソコソと話しているか」
 と、小隊長が鋭い声を飛ばしてきた。


 プロメテは怖がるように肩をすくめていた。話を切り出したのはオレだったので、申し訳ない気持ちになった。


 ほかにも色々と気になることがあったのだけれど、また注意されるかもしれない。迂闊に質問できなかった。


「ここだ」
 と、廊下の突き当たりにあったトビラを、小隊長が開けた。アゴをしゃくって、中に入るように促してきた。


 プロメテはそれに従って、部屋に入った。


 部屋――というか物置のようだった。木箱やら木樽が摘まれていた。そこに5人の男たちがいた。みんな騎士なのだろう。


 オレたちを先導してくれていた小隊長は、部屋に入るとそのトビラを閉めた。部屋にいた5人の騎士は、プロメテのことを取り囲んだ。


 何か――。
 不穏な感じがした。


「えっと、えっと……」
 と、プロメテは困惑していた。


「油断するなよ。ガキに見えるが、これでもオルフェス最後の魔術師だ」
 小隊長がそう言った。


 騎士のひとりが、棒でプロメテの脇腹を打った。それはあまりに躊躇のない一撃だった。プロメテは「うっ」とうめくと、オレを手放した。


 カンテラに入れられたオレは床に転がり落ちたけれど、すぐに騎士のひとりに持ち上げられた。


「おい、なにをしている!」
 と、オレは怒鳴った。


 騎士たちは寄ってたかって、プロメテのことを打ち据えていた。
 プロメテはうずくまってしまっている。


「おっと、魔神さまはこちらに」


 オレの入っているカンテラは、小隊長によって、その部屋から運び出されることになった。


 プロメテが残された物置部屋からは、肉の打つ音がひびいていた。


「これは、どういうことだ?」


「見ての通りですよ。魔神さまのおチカラは必要ですが、あの魔術師は必要ないですからね」


「なに? プロメテが必要ない?」


 不意の暴力に、オレの理解が追いつかなかった。


「おそらくすぐに理解してもらえますよ。さあさあ、魔神さまは領主さまのもとに」


「おい、よせ。それ以上プロメテに手出ししたら、オレが許さんぞ」


 許さん、と言っても、オレに何が出来るのか。 ただのコケオドシである。


「心配ありません。すこし打ち据えただけ、殺すつもりはありませんよ」

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