《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

2-2.魔術師の罪

「おい、見ろよ」「火だ?」「ウソだろ」「あいつは?」「魔術師だ」「呪われた一族の末裔だ」「じゃあついに火を?」「魔神召喚に成功したのか?」「よせ、関わるなよ」……といったヤリトリが聞こえてきた。


 街道。
 暗闇のなかを、プロメテは進む。


 炎を持っているのはプロメテだけなので、おのずとプロメテの周囲だけが明るくなっていた。


 街道を行き交っていた人たちは、プロメテを認めると、あからさまに嫌悪感をしめしていた。


 距離を取る者。怒ったように睨みつけてくる者。怯えたように荷馬車の陰に身をひそめる者。なかには剣を構えて、いまにも襲いかかってきそうな者たちもいた。


 その剣なのだが、刀身が緑色の奇妙な形状をしていた。火がないと言うからには、武具も鉄を溶かして作っているわけではないのだろう。


「なんか、ずいぶんと嫌われてるみたいだな」


「厭なお気持ちになられたのなら、申し訳ありません。しばし辛抱してください」


「オレはべつに構わんが」


 プロメテは下唇を噛みしめて、眉間にシワを寄せていた。それでも顔を伏せることなく、街道をまっすぐ進んで行く。


 もう上機嫌に歌をくちずさむ様子はなかった。


 プロメテが、どういう少女なのか、オレにはまだ良くわからない。


 もしかすると過去に、これだけ嫌われるような何かをしてしまったのかもしれない。


 オレと接してきた感じでは、厭な印象はなかった。なので、周囲がプロメテに向ける悪意には、不可解なものがあった。


「止まれ。魔術師」
 と、都市の出入り口である城門棟にたどりついた。


 見張っていた2人の騎士が、プロメテの歩みを止めた。


「プロメテです。1000年の罪を償うためにまいりました。魔神アラストルさまの召喚に成功したので、こちらの都市の聖火台に、火を灯しにまいりました」


「ほぉっ。たしかに、これは間違いなく、火、だな」
 と、騎士がオレのことを覗きこんできた。
 そんなにマジマジと見られたら、気まずい。


 オレの気持ちを察したかして、プロメテはオレのことを引っ込めた。


「こちらは魔神アラストルさまです。そんなに見つめたら無礼ですよ」


 プロメテに注意されて、ムッとしたような顔をしていた。だが、納得したのか、べつに何も言い返しては来なかった。


 騎士は革の鎧レザー・アーマーと思われるものを装備していた。頭にも革の帽子をかぶっていた。


 奇妙なのは、背中から、キノコのようなものを背負っていることだ。雨を凌ぐためのものなのだろう。つまり、傘だ。その傘もまた、さきほど見かけた剣と同じく緑色をしていた。おそらく同じ材質によるものだ。


「入れ。ついて来い」
 と、その騎士は、都市のなかへ入った。


 プロメテはオレのことを胸元に寄せるようにして、その騎士の後ろへとつづいた。


 都市に入ってからも、人々の反応は同じだった。プロメテを見ると、怖れるなり、睨むなりといった、悪感情を向けてくる者ばかりだった。


 プロメテに向かって手を振る子供がいたけれど、大人がすぐに注意していた。


「都市も、暗いな」


 周囲を見回して、あらためてそう思う。


 火がない代わりに、《輝光石》とやらを照明にしていると言っていたが、なんとも頼りない光である。
 石そのものが光っているだけで、あたりを照らすほどの効果はないに等しいようだ。


 都市のなかでも、オレの存在がイチバン明るかった。


「やはり魔神さまか。しゃべる火とはな」
 と、先導していた騎士が振り返って続けた。


「魔神さまの明かりに比べれば、《輝光石》の明かりなど、足元にもおよびませんよ。それでも、みんなこの明かりを頼りにして、生活してるんですよ」


 どうやらこの騎士も、オレのことを魔神だと思っているようだ。


 はたしてオレは、ホントウに魔神と呼ばれるような存在なのだろうか。そういう認識で良いんだろうか。まだ良くわからない。


 暗くて瞭然とはしなかったが、どうやらそこに城があるらしかった。わずかに輪郭を看て取ることが出来た。


 ここは城へと続く橋前らしかった。門があって、跳ね橋と思われるものがおろされていた。


「よし、ここで待て。その火を盗まれないようにしておけよ。ここ数日、窃盗事件が起きているからな」
 と、騎士はプロメテにそう言うと、城のほうへと歩き去って行った。


「ふぅ」
 と、プロメテは脱力したような、ため息を吐き落としていた。


「緊張していたのか?」


「都市に入るときは、いつも緊張してしまいます。申し訳ないのです。魔神さまの前でため息なんて」


「いや、それは一向に構わないよ。そんなに恐縮することはない。まぁ、こんな姿をしているオレが言うのもなんだけど、友達みたいな感覚で接してくれたら良いよ」


 逐一、恐縮されていては、なんだか申し訳なくなる。


「そんな……。私みたいなのが、魔神さまとお友達だなんて、恐れ多いのですよ」
 と、プロメテは激しく頭を振っていた。


 その挙措から、どことなく自虐めいた感情がにじんでいるように見えた。


「みんなから、ずいぶんと嫌われてるみたいだな」


 こうして城前で待っているいまも、遠巻きで見ている連中がいた。火が珍しいのもあるだろうが、歓迎してくれているといった様子ではない。


「魔術師、ですから」
 へへ――と、プロメテはムリに笑おうとしたが、失敗して泣きそうな表情になっていた。


「魔術師は、嫌われるか?」


「原初の魔術師はかつて、神のチカラを盗み取ったのです。それが魔法と呼ばれるチカラです」


「プロメテが盗んだのか?」


「いえ。たぶん1000年前の御先祖さまが」


 1000年。
 この世界に雨が降りはじめたのも、1000年前だと言っていた。


「それで、なんでみんなから嫌われるんだ?」


「魔法を盗まれて、怒った神さまは、世界を雲でおおってしまったのです」
 と、プロメテは葉っぱの傘を揺らした。
 傘にたまっていた水滴が落ちてきた。


 プロメテは右手で傘を持って、左手でオレを持っている。そのため、あまり腕を自由に動かせないようだ。


「ずいぶんと短気な神さまだな」


「いえ。魔法を盗んだ魔術師が悪かったのですよ。ですから、こうして世界が暗闇で満ちているのは――」


 魔術師のせいなのです、とプロメテは言った。


 報い――。
 たしかそう言っていた。
 なるほど。
 合点がいった。


 この世界が暗闇に満ちているのは、魔術師が神さまから、魔法を盗み出した。その報い、という意味だ。


「魔法で火は起こせないのか?」


「はい。この雨は、魔法の火すらも禁じてしまいます」


「そうか」


 愚問だったな。
 魔法で火が出せるならば、わざわざオレを召喚したりはしないというものだ。


 ポツポツポツ……。
 豪雨というほどではない。けれど、着実にその水滴は、プロメテの傘をかいくぐり、セッカク乾かしたプロメテの服を濡らしていた。


 傘をしているのに、ずいぶんと濡れてしまっている。それはプロメテが、オレを濡らさないように傘を前に傾けているからだった。


「オレは濡れても消えないんだろ」


「ですが、魔神さまを濡らしてしまうわけにはいきませんので」


「あんまり気を使わせると、申し訳なくなるよ。自分が濡れないように気を付けなさい」
 と、あえて諭すような口調で言った。


 強く言わないと気を使って、プロメテは自分を濡らしてしまうことだろう。


「はい」
 と、プロメテは傾けていた、葉っぱの傘を頭上に向けた。


「御先祖さまが、神さまから魔法を盗んだ。でも、それは先祖の話であって、プロメテがやったわけじゃないんだろ。だったら別に、気にすることないだろうに」


 プロメテがやっていることは、ご先祖さまの尻拭いだ。


「ですが、ヤッパリほかの人たちは、そういう目で見るのです。特に私はオルフェス最後の魔術師なので」


「そうか。じゃあそのケガは……」


 理解してしまった。
 プロメテのカラダにある傷や痣。あれは、民衆から嫌われて出来てしまったものなのだ。


 ここに来る道中でも、いまにも殴りかかって来ようとしている人の姿があった。魔術師。それは神を怒らせた、憎悪の対象というわけだ。


「……申し訳ないのです。気を使わせてしまって」


「いや」


 プロメテはその小さなカラダよりも、ずっと大きなものを背負おうとしているように思えた。


「ですが、もう報われました」
 と、今度はプロメテは上手に笑って見せた。


「何が?」


「魔神アラストルさまを召喚すること。この世界にふたたび火炎を取り戻すこと。それは私たち魔術師が1000年かけて費やしてきた贖罪なのです」


「贖罪――か」


 でもべつにそれは、プロメテが背負うべき罪ではない。


「父も母も、魔神さまを召喚することだけに注力してきました。私の世代で、ようやくこの贖罪が達成されるのですから。これでようやく、みんなから許してもらえると思うのです」


「そうか」


 プロメテの笑顔は、なぜかオレの胸を痛ませた。いや。オレに胸なんてない。そういう感覚になった――というだけだ。

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