《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

1-1.魔神転生

「えっと……魔神さま……お目覚めでしょうか?」
 怖れるような、あるいは機嫌をうかがうような声がした。その声に誘われるようにして、オレは目を開いた。


「お、おわっ」


 ビックリして、声が出た。
 オレの正面に、少女の顔があったのだ。
 白銀の髪に、白銀の目をした少女だった。


「あわわっ」
 と、なぜか少女のほうも驚いたようで、シリモチをついていた。信じられないようなものを見たような表情で、オレを凝視していた。


「ゴメン。驚かせて」


 少女が酷くビックリしたようだったので、オレは思わず謝辞を述べていた。


 少女はしばらくシリモチをついたまま、その白銀の目をくりくりと動かせていた。オレのことを見分しているようだった。対して、オレも少女のことを見定めた。


 歳はまだ幼いと言って良いほどだ。髪や目の白銀はうつくしいけれど、手入れがされていない様子だった。泥のようなものが、髪に付着しているのが見て取れた。法衣のようなものを着ているのだが、それも酷く汚れていた。


「ま、魔神さまの召喚に、ホントウに成功してしまいました」


「魔神――さま?」


「お初にお目にかかります。プロメテと申します。えっと、えっと……オルフェス最後の魔術師です」


 少女――プロメテは軽快に跳ね起きると、今度は土下座をするような姿勢になった。長く伸びた白銀の髪が、床に垂れていた。


 いまいち、ピンと来ない。いったい魔神とは何のことか? 誰にたいして頭を下げているのか。不可解だった。すぐにその疑問は氷解されることとなった。どう見てもプロメテは、オレにたいして頭を下げているのである。


「オレが、魔神?」


「アラストルさまですよね?」


「え、いや……」


 なんだその仰々しい名前は。
 キラキラネームか?


「しかし意志を持った炎。そのお姿は間違いなく、魔法書に記載されているアラストルさまに違いないのです」
 と、少女は面をあげると、すぐ近くに置かれていた書籍を開けて見せた。ずいぶんと分厚い本である。辞書でもそんなに分厚くない。


「意志を持った炎――」
 オレはバカみたいに、オウム返しをしていた。


 自分の姿を見た。
 眼前に少女の顔があったときよりも、おおきな驚愕が、オレのなかに駆け巡った。


 オレは――炎だった。
 石造りの台のようなものの上に乗っている。その上にて、オレのカラダは赤々と燃えているのだ。


 一瞬、オレの五体が炎上しているのかとも思った。が、熱くはない。それにオレのカラダは人ほどの大きさもなかった。人の頭ほどの大きさしかない火炎なのだ。自分のカラダがゆらゆらと揺らめき、バチバチと火の粉が爆ぜていた。


「ええぇぇぇ――っ」
 と、思わず大声を発してしまったほどだ。


「な、何か、お気に召しませんでしたか? えっと、薪でも持ってきますね」


 プロメテは跳ね上がると、部屋の隅に置かれていたクローゼットを漁っていた。そこから「うんしょ、うんしょ」と薪を抱きかかえるようにして運んできた。プロメテのカラダが小さいため、見ていて危なっかしい。


「どうぞ」
 と、薪の1本を、オレに差し出してきた。うわぁ、薪だぁ――。じゃない。いったい、これはどういうことなのか。


「状況がよくわからないんだけど、ここはどこなんだろ?」


 石造りの部屋になっている。長椅子がオレに向かうようにして並べられている。教会――か何かだろうか。


 しかし、それにしてもボロい。


 窓が割れているし、天井も一部、穴が開いてしまっている。その穴から、雨が降り注いでいた。


 よくよく見てみると、あちこちに蜘蛛の巣が張られているし、小さな蛾と思われる虫も飛んでいた。蛾が明かりに誘われたのか、オレへ近づいて来ようとしている。うっとうしい。


「あ、ご説明が遅れました。ここは魔術師の教会です」


「魔術師の教会……?」


「魔神さまは、私によって急に召喚されてしまったのです。状況がわからなくてもムリはないのです。わからないことがあれば、なんでも説明するのですよ」


 そんなこと言われても、わからないことしかない。


「ふーっ」
 と、プロメテは手をすり合わせると、みずからの手のひらをさすっていた。寒いようだ。オレのカラダはポカポカとしているのだが、それは火炎だからなのだろうか。


「寒いなら、オレで温まれば良いよ」


「よろしいのですか? 無礼ではありませんか?」


「いや。気にしないけど」


 むしろ寒そうにしていられるほうが、見ていて痛ましい気持ちになる。


「それでは失礼するのです」


 プロメテはそう言うと、膝立ちになってすり寄ってきた。小さな5指が広げられて、オレに向けられることになった。不思議な手をしていた。小さな手なのに、肉付きは悪く、切り傷やすり傷にまみれていた。


「温かいか?」


「はい。火に当たるなんて、はじめてのことですから。魔神さまのおカラダは、とても温かいのです」


 火に当たっているせいか、プロメテの白い頬が赤く染まりはじめていた。
 どうやらオレはホントウに、火になってしまったようである。夢のような曖昧なものではない。シッカリとした感覚が、ここにあった。いくら信じられないと言っても、この感覚を騙すことはできない。


「でも残念だけど、オレはその――アラストルとかいう魔神じゃないよ」


 いいえ、とプロメテは頭をふった。
 白銀の毛が揺れて、火であぶられそうだった。オレはあわててカラダを引っ込めた。どうやらこのカラダ、ある程度は融通がきくようである。


「あなたさまは、間違いなく、アラストルさまであられます」


「なにを根拠に、そんな……」


「だってこの世界には、他に火が存在しないですから。たった今、ここにおられる魔神さまだけが、この世界にとって唯一の火炎なのです。そしてそれこそ、アラストルである証拠になります」


「ここは、地球――じゃないのか」


「ここはオルフェスという星なのですよ。永遠の暗闇に閉ざされた世界なのです」


 これはつまり、異世界召喚――否、異世界転生というヤツだな、とオレはしばしの時間を要して、理解におよんだのだった。


 そのとき。
 バンッ、と勢いよく教会のトビラが開けられた。あまりに勢いが強く、トビラが吹き飛ばされていた。


 巨大な黒い生物が、こちらを覗きこんでいた。―――なんだ、あれは?

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