《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
1-1.魔神転生
「えっと……魔神さま……お目覚めでしょうか?」
怖れるような、あるいは機嫌をうかがうような声がした。その声に誘われるようにして、オレは目を開いた。
「お、おわっ」
ビックリして、声が出た。
オレの正面に、少女の顔があったのだ。
白銀の髪に、白銀の目をした少女だった。
「あわわっ」
と、なぜか少女のほうも驚いたようで、シリモチをついていた。信じられないようなものを見たような表情で、オレを凝視していた。
「ゴメン。驚かせて」
少女が酷くビックリしたようだったので、オレは思わず謝辞を述べていた。
少女はしばらくシリモチをついたまま、その白銀の目をくりくりと動かせていた。オレのことを見分しているようだった。対して、オレも少女のことを見定めた。
歳はまだ幼いと言って良いほどだ。髪や目の白銀はうつくしいけれど、手入れがされていない様子だった。泥のようなものが、髪に付着しているのが見て取れた。法衣のようなものを着ているのだが、それも酷く汚れていた。
「ま、魔神さまの召喚に、ホントウに成功してしまいました」
「魔神――さま?」
「お初にお目にかかります。プロメテと申します。えっと、えっと……オルフェス最後の魔術師です」
少女――プロメテは軽快に跳ね起きると、今度は土下座をするような姿勢になった。長く伸びた白銀の髪が、床に垂れていた。
いまいち、ピンと来ない。いったい魔神とは何のことか? 誰にたいして頭を下げているのか。不可解だった。すぐにその疑問は氷解されることとなった。どう見てもプロメテは、オレにたいして頭を下げているのである。
「オレが、魔神?」
「アラストルさまですよね?」
「え、いや……」
なんだその仰々しい名前は。
キラキラネームか?
「しかし意志を持った炎。そのお姿は間違いなく、魔法書に記載されているアラストルさまに違いないのです」
と、少女は面をあげると、すぐ近くに置かれていた書籍を開けて見せた。ずいぶんと分厚い本である。辞書でもそんなに分厚くない。
「意志を持った炎――」
オレはバカみたいに、オウム返しをしていた。
自分の姿を見た。
眼前に少女の顔があったときよりも、おおきな驚愕が、オレのなかに駆け巡った。
オレは――炎だった。
石造りの台のようなものの上に乗っている。その上にて、オレのカラダは赤々と燃えているのだ。
一瞬、オレの五体が炎上しているのかとも思った。が、熱くはない。それにオレのカラダは人ほどの大きさもなかった。人の頭ほどの大きさしかない火炎なのだ。自分のカラダがゆらゆらと揺らめき、バチバチと火の粉が爆ぜていた。
「ええぇぇぇ――っ」
と、思わず大声を発してしまったほどだ。
「な、何か、お気に召しませんでしたか? えっと、薪でも持ってきますね」
プロメテは跳ね上がると、部屋の隅に置かれていたクローゼットを漁っていた。そこから「うんしょ、うんしょ」と薪を抱きかかえるようにして運んできた。プロメテのカラダが小さいため、見ていて危なっかしい。
「どうぞ」
と、薪の1本を、オレに差し出してきた。うわぁ、薪だぁ――。じゃない。いったい、これはどういうことなのか。
「状況がよくわからないんだけど、ここはどこなんだろ?」
石造りの部屋になっている。長椅子がオレに向かうようにして並べられている。教会――か何かだろうか。
しかし、それにしてもボロい。
窓が割れているし、天井も一部、穴が開いてしまっている。その穴から、雨が降り注いでいた。
よくよく見てみると、あちこちに蜘蛛の巣が張られているし、小さな蛾と思われる虫も飛んでいた。蛾が明かりに誘われたのか、オレへ近づいて来ようとしている。うっとうしい。
「あ、ご説明が遅れました。ここは魔術師の教会です」
「魔術師の教会……?」
「魔神さまは、私によって急に召喚されてしまったのです。状況がわからなくてもムリはないのです。わからないことがあれば、なんでも説明するのですよ」
そんなこと言われても、わからないことしかない。
「ふーっ」
と、プロメテは手をすり合わせると、みずからの手のひらをさすっていた。寒いようだ。オレのカラダはポカポカとしているのだが、それは火炎だからなのだろうか。
「寒いなら、オレで温まれば良いよ」
「よろしいのですか? 無礼ではありませんか?」
「いや。気にしないけど」
むしろ寒そうにしていられるほうが、見ていて痛ましい気持ちになる。
「それでは失礼するのです」
プロメテはそう言うと、膝立ちになってすり寄ってきた。小さな5指が広げられて、オレに向けられることになった。不思議な手をしていた。小さな手なのに、肉付きは悪く、切り傷やすり傷にまみれていた。
「温かいか?」
「はい。火に当たるなんて、はじめてのことですから。魔神さまのおカラダは、とても温かいのです」
火に当たっているせいか、プロメテの白い頬が赤く染まりはじめていた。
どうやらオレはホントウに、火になってしまったようである。夢のような曖昧なものではない。シッカリとした感覚が、ここにあった。いくら信じられないと言っても、この感覚を騙すことはできない。
「でも残念だけど、オレはその――アラストルとかいう魔神じゃないよ」
いいえ、とプロメテは頭をふった。
白銀の毛が揺れて、火であぶられそうだった。オレはあわててカラダを引っ込めた。どうやらこのカラダ、ある程度は融通がきくようである。
「あなたさまは、間違いなく、アラストルさまであられます」
「なにを根拠に、そんな……」
「だってこの世界には、他に火が存在しないですから。たった今、ここにおられる魔神さまだけが、この世界にとって唯一の火炎なのです。そしてそれこそ、アラストルである証拠になります」
「ここは、地球――じゃないのか」
「ここはオルフェスという星なのですよ。永遠の暗闇に閉ざされた世界なのです」
これはつまり、異世界召喚――否、異世界転生というヤツだな、とオレはしばしの時間を要して、理解におよんだのだった。
そのとき。
バンッ、と勢いよく教会のトビラが開けられた。あまりに勢いが強く、トビラが吹き飛ばされていた。
巨大な黒い生物が、こちらを覗きこんでいた。―――なんだ、あれは?
怖れるような、あるいは機嫌をうかがうような声がした。その声に誘われるようにして、オレは目を開いた。
「お、おわっ」
ビックリして、声が出た。
オレの正面に、少女の顔があったのだ。
白銀の髪に、白銀の目をした少女だった。
「あわわっ」
と、なぜか少女のほうも驚いたようで、シリモチをついていた。信じられないようなものを見たような表情で、オレを凝視していた。
「ゴメン。驚かせて」
少女が酷くビックリしたようだったので、オレは思わず謝辞を述べていた。
少女はしばらくシリモチをついたまま、その白銀の目をくりくりと動かせていた。オレのことを見分しているようだった。対して、オレも少女のことを見定めた。
歳はまだ幼いと言って良いほどだ。髪や目の白銀はうつくしいけれど、手入れがされていない様子だった。泥のようなものが、髪に付着しているのが見て取れた。法衣のようなものを着ているのだが、それも酷く汚れていた。
「ま、魔神さまの召喚に、ホントウに成功してしまいました」
「魔神――さま?」
「お初にお目にかかります。プロメテと申します。えっと、えっと……オルフェス最後の魔術師です」
少女――プロメテは軽快に跳ね起きると、今度は土下座をするような姿勢になった。長く伸びた白銀の髪が、床に垂れていた。
いまいち、ピンと来ない。いったい魔神とは何のことか? 誰にたいして頭を下げているのか。不可解だった。すぐにその疑問は氷解されることとなった。どう見てもプロメテは、オレにたいして頭を下げているのである。
「オレが、魔神?」
「アラストルさまですよね?」
「え、いや……」
なんだその仰々しい名前は。
キラキラネームか?
「しかし意志を持った炎。そのお姿は間違いなく、魔法書に記載されているアラストルさまに違いないのです」
と、少女は面をあげると、すぐ近くに置かれていた書籍を開けて見せた。ずいぶんと分厚い本である。辞書でもそんなに分厚くない。
「意志を持った炎――」
オレはバカみたいに、オウム返しをしていた。
自分の姿を見た。
眼前に少女の顔があったときよりも、おおきな驚愕が、オレのなかに駆け巡った。
オレは――炎だった。
石造りの台のようなものの上に乗っている。その上にて、オレのカラダは赤々と燃えているのだ。
一瞬、オレの五体が炎上しているのかとも思った。が、熱くはない。それにオレのカラダは人ほどの大きさもなかった。人の頭ほどの大きさしかない火炎なのだ。自分のカラダがゆらゆらと揺らめき、バチバチと火の粉が爆ぜていた。
「ええぇぇぇ――っ」
と、思わず大声を発してしまったほどだ。
「な、何か、お気に召しませんでしたか? えっと、薪でも持ってきますね」
プロメテは跳ね上がると、部屋の隅に置かれていたクローゼットを漁っていた。そこから「うんしょ、うんしょ」と薪を抱きかかえるようにして運んできた。プロメテのカラダが小さいため、見ていて危なっかしい。
「どうぞ」
と、薪の1本を、オレに差し出してきた。うわぁ、薪だぁ――。じゃない。いったい、これはどういうことなのか。
「状況がよくわからないんだけど、ここはどこなんだろ?」
石造りの部屋になっている。長椅子がオレに向かうようにして並べられている。教会――か何かだろうか。
しかし、それにしてもボロい。
窓が割れているし、天井も一部、穴が開いてしまっている。その穴から、雨が降り注いでいた。
よくよく見てみると、あちこちに蜘蛛の巣が張られているし、小さな蛾と思われる虫も飛んでいた。蛾が明かりに誘われたのか、オレへ近づいて来ようとしている。うっとうしい。
「あ、ご説明が遅れました。ここは魔術師の教会です」
「魔術師の教会……?」
「魔神さまは、私によって急に召喚されてしまったのです。状況がわからなくてもムリはないのです。わからないことがあれば、なんでも説明するのですよ」
そんなこと言われても、わからないことしかない。
「ふーっ」
と、プロメテは手をすり合わせると、みずからの手のひらをさすっていた。寒いようだ。オレのカラダはポカポカとしているのだが、それは火炎だからなのだろうか。
「寒いなら、オレで温まれば良いよ」
「よろしいのですか? 無礼ではありませんか?」
「いや。気にしないけど」
むしろ寒そうにしていられるほうが、見ていて痛ましい気持ちになる。
「それでは失礼するのです」
プロメテはそう言うと、膝立ちになってすり寄ってきた。小さな5指が広げられて、オレに向けられることになった。不思議な手をしていた。小さな手なのに、肉付きは悪く、切り傷やすり傷にまみれていた。
「温かいか?」
「はい。火に当たるなんて、はじめてのことですから。魔神さまのおカラダは、とても温かいのです」
火に当たっているせいか、プロメテの白い頬が赤く染まりはじめていた。
どうやらオレはホントウに、火になってしまったようである。夢のような曖昧なものではない。シッカリとした感覚が、ここにあった。いくら信じられないと言っても、この感覚を騙すことはできない。
「でも残念だけど、オレはその――アラストルとかいう魔神じゃないよ」
いいえ、とプロメテは頭をふった。
白銀の毛が揺れて、火であぶられそうだった。オレはあわててカラダを引っ込めた。どうやらこのカラダ、ある程度は融通がきくようである。
「あなたさまは、間違いなく、アラストルさまであられます」
「なにを根拠に、そんな……」
「だってこの世界には、他に火が存在しないですから。たった今、ここにおられる魔神さまだけが、この世界にとって唯一の火炎なのです。そしてそれこそ、アラストルである証拠になります」
「ここは、地球――じゃないのか」
「ここはオルフェスという星なのですよ。永遠の暗闇に閉ざされた世界なのです」
これはつまり、異世界召喚――否、異世界転生というヤツだな、とオレはしばしの時間を要して、理解におよんだのだった。
そのとき。
バンッ、と勢いよく教会のトビラが開けられた。あまりに勢いが強く、トビラが吹き飛ばされていた。
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