ゆびきりげんまん、指切り相手は神様でした

かぐつち

第43話 暗闇の雑談

指示に従って改めて目を開けると、先程迄怖い怖いとパニック状態に成ったのが、嘘のように心が落ち着いた、陽希くんが怖い何かに見えたと言う事も無い。
どうやら大丈夫らしい。
「すいません、取り乱しました」
小さく謝る。
「大丈夫、寧ろ気を使えないこっちが悪い」
こうしてみると、本当に余裕が有ると言うか、場慣れして居る感が凄い。
「何時もこんなのに巻き込まれるんですか?」
思わず聞く。
「巻き込まれると言うか、役所とか経由で呼ばれる、救出とかの解決やら、調査担当でね?」
「じゃあ、今回は?」
「今回は純粋に巻き込まれ、偶然居合わせただけだから」
「仕事代とか出るんですか?」
「後で役所とか警察に本部経由で請求する、怪異での行方不明者の捜索とかにある程度予算付いてるらしくて、そっから出る感じだね」
「思ったより現実的ですね」
意外と超常現象が、地に足の着いたお役所仕事にまみれていた。
「そ、思ったより現実的、直接的に人が居無くなったりするから怖いよ」
「一般公開は?」
「表立って一般公開はされてないと言うか、知らないと言うより理解できないって叩かれるから、表向きは当り障りない感じ只の行方不明とか失踪的にに処理されるよ」
「世知辛いんですね、領収書とかには何て書かれるんです?」
「只の遭難調査協力に対する謝礼とかって成るよ」
確定申告だろうか?
「給料じゃ無いんですね?」
「所属する会社やら何やら、丸ごと外部委託業者に対する協力金って事に成ってる、環境整備とかそう言ったのにカモフラージュでくっ付いてるね」
本気で世知辛そうだ。
「所で、私がこうして聞くのって問題無いんですか?」
「こうして話す分には問題無いけど、マスコミ公表とかされると変に叩かれて予算枠減らされるから、ツイッターとかで公表とかは勘弁してほしい」
最早神秘的とかそう言う物では無い泥臭さが感じられた。

「所で、後ろに何か居ませんか?」
先程から足音が多い気がするのだ、トンネルの中で反響して居るにしても変な違和感があると言うか、一定距離を開けてずーっとついて来る何かの存在を感じている。パニックが落ち着いてからもずっとこの気配は消えていない。
「其れが振り返らずの禁忌、ギリシャ神話やら古事記の頃から有る、異界では振り返るなって言うお約束の正体、実際振り返ると帰れなくなる可能性が有る。禁忌を破らない限りは何もして来ないから、落ち着いて前だけ見てて」
其の違和感は確かに存在するのだと肯定してくれるので、変な意味で安心感がある。
「そのルールは何処まで?」
「トンネルを抜ける迄だから安心して」
「ルールの強制力って・・・・」
「古事記でイザナギノミコトが全力逃走して、その時の呪いは今でも有効。ギリシャ神話でオルペウスが黄泉の国に引きずりこまれた事からお察しください」
勝てないと言う事なのだろう、神にも通じるルールなのか。
「何なら目を閉じてても良いよ? 出口まではこの手で案内する」
力強く手を握ってくれた、自分で握った時とは違う、不思議な安心感があった。

「所で、話変わりますけど・・・・」
「ん?」
「初恋の話とか、聞いても?」
「誰の?」
「はるきくんの・・・・」
「俺?」
そう言えば、この人一人称俺なんだ?
「はい」
「特に珍しくない話だと思うよ?」
「良いんです」
「ん~と?」
「いや、嫌なら話さなくても・・・・」
「いや、大丈夫、如何したって話でも無いから、ちっちゃい頃病弱少年してた頃、元気に成りたければコレ着ろってフリフリの服持って来た親戚のお姉ちゃんが居てね? その人に懐いてた」
思ったよりこの人の内面にがっつり噛んでいた。
「女装は其処からなんですね?」
「そう、まあ、子供の頃の憧れだから」
「女装の効果は?」
「3歳の頃までは寝たきり位の病弱少年だったのが、其れから外で歩けるようになった位に劇的」
「成程・・・・」
確実にコレ、他人に割り込めそうな温い絆じゃ無さそうです。
「今はその人とは?」
一縷の望みをかけてもう一つ聞く。
「小さい子供に女装させる古い家で、その人は本家筋の偉い人で、こっちは分家筋の下っ端だから、この歳で世界の仕組みとか色々知っちゃうとね?」
世知辛そうだ。そうか、この世界は何だかんだで階級社会でもある訳だ・・・・
「よし、出口だ、お疲れ様」
その一言に足元ばかり見ていた顔を上げる、視界の隅に一瞬白いオコジョの様な生き物が見えた気がした。
不意に周囲が明るくなった。
「眩しい」
外の明るさに目がくらんで、思わず目を瞑って片手で目を覆う。
トンネルの前より鮮やかで、爽やかな明るい新緑の緑が目に突き刺さった。

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