ゆびきりげんまん、指切り相手は神様でした

かぐつち

第29話 古びた箱

とある邸宅が取り壊される事と成った、バブル期にかなり稼いだ男だったのだが、子供にも嫁にも先立たれ、家政婦を雇っても直ぐに体調を崩して居なくなってしまう為、寂しい晩年で、遺産を相続する相手も居らず、最終的に土地も家も国庫に納められた、其れなりに古い邸宅なので耐震改修も大変だ、更地の方が高いと言う事で工事の手が入った。
其の取り壊しの作業中、縁の下の土の中から木箱が発見された、其の木箱は、蓋と本体が一体化した造りで、漆だか膠の様な物で固められており開けられなかったが、寄せ木細工の様に動かせるのじゃ無いかと一人が挑戦し、何か所か動かした所で、血を吐いて倒れた。
何事かと駆け寄った面々もバタバタ倒れた、毒ガスか何かなのかと誰も近づけ無くなり、警察と救急車、消防車も呼ぶ事に成った。
警察と救急車が到着した際、乗っていた看護婦さんと婦警さんが現場を見た瞬間倒れた、遠巻きに見ている分は何故か男だけが無事、明らかに異常な現場で有ったため、警察経由で六壬(りくじん)に連絡が行った、この国唯一の陰陽師、退魔師の集団だ、これで駄目では最早どうにもならない。

連絡が入ってからは速かった。
工事中に不発弾が見つかったと言う名目で通行封鎖と人払いを行い、カモフラージュに自衛隊迄借り出された。
そして・・・・・・

「こんな規模の現場なのに自分達で良いんでしょうか?」
思わず呟いた。
現場周辺は昼間から警察と自衛隊によって封鎖された物々しい状態だった、連絡通り、身分証明と依頼が出ている証明としてスマホの画面を見せて封鎖線を抜けて現場入りする。
こんな子供が? 若しくはこんな娘が? と言う感じの目を向けられたが、良くある事なので特に気にしない。
実働部隊として指名されたのは自分、三門陽希と、部長、寺田保と言う何時ものメンバーだ、珍しく葛様にも声がかかった様だが、儂が手を出すまでも無いと出撃を拒否、但しこれを持って行けと呪符を持たされた。
「この世界人手不足だからな、しょうがない」
部長は何時も通りの様子で諦め気味に返して来る、色々思う事も有りそうだ。
「しかし、凄いなアレ・・・」
目の前の討伐対象が有る辺りを見て部長が呟く。
自分も爆心地らしい場所に目を向ける、瓦礫の中に人が何人か倒れて居るのが見える、救助回収できなかったらしい、問題の箱も無造作に一緒に転がっているのが見えた。
「アレ、救助もこっちの仕事ですよね?」
「しょうがないだろう、一般人だと下手に近づけば障りが出る」
其れは尤もだ。
「通常あの呪物、【ことりばこ】は女子供に対する呪いが強いが、アレだけ強いと近距離では男女関係ないか」
「自分だと見えないんですけど、どうなってます?」
何とも言えない呪いと言うか悪いモノが有ると言う気配は有るが、視覚的には見えないのが困り物だ。
「人だか動物だかわけわからん事に成ってる、蟲毒の人間版と言うか、何人も混ざった状態の水子に動物混ぜた上に手だか指だか生えてる・・・・・・」
げんなりした様子で説明してくれる。
自分に『視る』能力は無いので気配しか分からないが、嫌な感じがするのは良く分かる。
因みに蟲毒とは毒虫を纏めて放り込んだ壺、水子は赤子や稚児、胎児の霊の類だ。
「凄そうですね」
「視えたらSAN値チェックが入りそうな見た目してるぞ、見えなくて正解」
よっぽどらしい。
「そんなにですか」
「そんなにだ、さてと、葛様から何か預かって来たか?」
「コレですね、火炎符と清めの符、周辺の被害も考えて防御結界符だそうです」
右腰のベルトに下げたポーチから符を何枚か取り出して見せる。
「使い方の指定は?」
「火炎符で真火(しんか)が出るけど、呪物燃やして力負けすると属性が反転して狂火(きょうか)に成って呪をまき散らすから念の為に清めの札も同時に使う事、爆炎を外に出すと周辺地域に被害が出るから防御結界符で先に周辺を囲う事だそうです」
因みに真火と言うのは純粋な火、日本の陰陽道では無く、中国の仙人、仙術や道術に由来する物だが、日本の陰陽道の技術は中国から渡って来た物も含まれるし、陰陽道で多用される五芒星は五行の概念に通じる事から、混ざっても違和感は無い。
「大分豪華だな、あの人(?)がそこまでしてくれるとは・・・」
「出撃は拒否してますけど、手厚いですね、何か有るんでしょうか?」
「多分、この現場には出たく無いって事だと思う」
「つまり?」
「男なら頑張って来い位の話だな」
「なるほど」
何かしらの謂れが有るらしい。
「さて、作戦は兎も角、一先ず急いで救助するか、囮はこっちがやるから頼んだ」
部長が指示を飛ばして来る、異論は無い。
自分は基本的にどちらでも無い双性状態、この恰好、女装して居る限り霊的な存在から認識される事が薄いので、囮は出来ない。前回追いかけられたのは結局部長が囮で一緒に行動していた事や、その前は一撃入れて知覚された事が関係している、基本的にステルス能力だからこういった時には重宝される。
部長が目立つように先行して走り出した。
其の陰に隠れる様に走り出す。
それじゃあ、頑張ろう。


追伸
モノがモノなので葛様お留守番。

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