ゆびきりげんまん、指切り相手は神様でした

かぐつち

第20話 つかの間の平穏と侵食する葛

「おはよう」
一声かけて教室に入る、最初の一声は誰宛と言う訳では無い、只の習慣だ。
「おはよ、ルキ」
「おはよ」
隣の席の琥珀≪こはく≫と紬≪つむぎ≫が返事してくれる。
「おはよう、琥珀、紬」
「何だかお疲れ?」
琥珀が此方の調子が違う事に気が付いた様子だ。
「何と言うか、休みの間色々有って・・・・」
「色々?」
紬が興味深そうに聞き返して来る。
「面白いのだったら後で聞かせて?」
琥珀がネタを寄越せとばかりに詰め寄って来る。
何でもこの二人は作家の一種らしく、事有る毎にネタが欲しいので何か話せと要求してくる、どんな物を書いてるのかは見た事が無いのでらしいとしか言えない。
「後でね」
まあ、何時も通りの学校の風景だ、この金土日、三日間の間にあれ程色々体験をしたのが嘘の様な平和な世界。
言っておくと、葛様が嫌いと言う訳では無く、一気に距離を詰められてしまったので、気が休まらなくてパニックに成って居るだけなのは自覚している。
個人のパーソナルスペースと言うのは大事だと思う。
其れはそうと、クラス中が何時もよりガヤガヤして居た。
「何か何時もと違うけど、何かあった?」
周囲を見渡して二人に聞いて見る。
「何か転校生来るらしいよ?」
琥珀が疑問に答えてくれる。
「こんな時期に? そもそもこのクラス?」
1学期が始まったばかりである、家庭の事情にしても純粋に珍しい。
「机増えてるし」
紬が教室の後ろに増えた、机付きの空席を指差す。
「何時の間に・・」
思わず呟く。
「今朝からだね」
琥珀が補足する。
「成程・・・」
納得して置く。
「女の子だって」
別の所からそんな声が聞こえて来る。
「金髪だって? 外国人?」
「小さかったって? 可愛い?」
何気に耳に入って来る特徴に思い当たる節が有るが、いくら何でも違うだろうと納得する。
「気に成る?」
琥珀がにやにやと笑みを浮かべながら此方の顔を覗き込んで来る。
「まあ、其れなりには」
何故か今朝ニヤニヤ笑みを浮かべながら見送ってくれたあの人の顔が思い浮かぶので、気にしない訳にも行かない。
「ルキも男の子かあ? 意外だねえ?」
「人を何だと思ってるんだ、自己紹介の時も恰好がコレなだけでノーマルだって言ってるのに・・・」
遠回しにホモ扱いされるのを、ぐったりと否定する。
「だってそれ・・・・」
琥珀が此方の口の辺りを指差す。
「それ、口紅じゃ無くカラーリップ?」
『言うほど目立たんじゃろう? どうせだから常に塗って置け』と強く言われ、結局塗って来たのだが、思った以上に良く見られて居る。
「メス堕ちしたかと・・・」
続いて紬が酷い事を言う。
「男らしくなりたいのに・・・・」
思わずそんな事を呟きつつ、余計にぐったりと机に突っ伏した。
二日経ったが、葛様の謎かけの答えが未だに分らない。
「気にしなくて良いよ、似合ってるんだから」
何故かぐへへと言う効果音を付けて琥珀がフォローするが、これはフォローと言って良いのだろうか?

それはそうとして、例の転校生は・・・・

「土御門葛≪つちみかどかずら≫じゃ、よろしくのう」
何の捻りの無く葛様がどや顔で転校生として出現した。
「可愛い」
「小学生?」
当然だが、大騒ぎと成った。

学校も逃げ道と言うか、避難所として機能しなくなったらしい事を痛感した。

休み時間、葛様はクラスメイトに囲まれて質問攻めやもみくちゃにされていた、傍から見ると結構大変そうに見えるが、葛様の性格と性質を考えると、何と言うか概念的に孫や幼児をお婆ちゃんがあやしている様にしか見えない。かなり余裕が有りそうだ。ほったらかしで良いだろう。

昼休み、相変わらず囲まれている葛様を放置しつつ、中庭に移動して琥珀と紬と自分お3人でご飯を始める。
葛様にもたされたお弁当を広げる。
御飯の真ん中に梅干し、端っこに卵焼きと漬物と言う、微妙に漢気溢れる変則日の丸弁当だった、桜でんぶでハートマークとかのラブコメお約束ネタをされなくて助かった。
「おや、お弁当だ、珍しい?」
「何時も雑なおにぎりなのに・・・」
「ちょっとね・・・環境の変化が・・・・」
二人がかりで変化を指摘される、何だかんだで良く見ているなと感心する。
「所で、男らしくってどういう意味だと思う?」
二人に聞いて見る。
「いきなりどうしたの?」
「男の娘の発作?」
「儂をあそこにほったらかしにしない事だと思うぞ?」
質問の意味を何時の間にか食事メンバーの中に当然と言う顔で葛様が混ざっていた、若干不機嫌そうだ。
「おお、何時の間に」
「何者?」
二人は突然の乱入に驚くでも無くただ感心している。
「すいません、平気そうだったので・・・」
「飯を食いに行くのなら儂に一声かけんか、あ奴等は蟻か何かか? 次から次に質問攻め、挙句に群れたまま運ばれそうに成ったぞ?」
「よっぽど気に居られたんですね」
クラス内カースト上位のコミュ強グループだ、男女合わせてわちゃわちゃうぇいうぇいして居て、自分は正直ノリが合わなくて付いていけない。
「やかましいわ、流石に面倒くさく成って抜けて来たわい」
朝学校に来る前に見た時と教室に出現時、今見た時で大分疲れて見える。
「あれ? 知り合い?」
「仲良さそう」
「改めて自己紹介しようか? こやつ、陽希の妻、葛じゃ、宜しくな?」
得意気に自己紹介を始める、片目でウインクをしつつ、人差し指を一本口の前に立てて、秘密じゃぞ? と言う感じのジェスチャーを交えている。
「え?」
「其れはびっくり」
意外と二人の反応は落ち着いた物だった。
「秘密にしなくて良いんですか?」
思わず聞く、先程も恋人いますか等の質問をのらりくらりと躱していたので、隠す物だと思っていた。
「見た所、あ奴等より口は堅そうじゃし、隠しても得は無いじゃろう、隠すより身内に引き込んだ方が楽じゃぞ?」
「そんなもんですか」
「そんなもんじゃ」
「そんなもんですね」
「です」
謎の連帯感で3人の意見が一致する。
「所でアンバー先生とTGUMI先生? ウチの陽希で楽しい枕絵巻き書いておるじゃろう? 後で儂にも見せてくれんか?」
にやりと笑みを浮かべて何か言って居るが、どんな意味だかは解らなかった。
二人は揃ってバレた? と言った様子の反応をして居るので自分充てに言った事では無い様だ、矛先が自分では無かった事に安心しつつ食事を再開した。

追伸
葛≪くず≫は侵食する物です。外国では侵略性植物ランキング上位に入ります。
気に成る人は「アメリカ 葛」で検索して見ましょう。
こんな感じで葛様は逃げ道を埋めてきます。

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