水晶を覗くばあさん

文戸玲

戻りたい女⑨ ディスプレイ

 田舎暮らしなんて考えられない。Wi-Fi環境の整っていないところや,日が沈むとともに暗くなっていく町に住むなんて考えられなかった。とにかく華やかに場所に憧れていたのにも関わらず,今ではそのネオン街がたまらなく鬱陶しい。


私が信じていたもの,なんやってん


 誰にともなく呟く。
 妊娠したことを,卓也さんは喜んでくれる。そんな希望的観測は,波にさらわれた砂のお城のように崩れ去った。

 もうこのまま消えてしまいたい。誰もいない,誰とも関わりのない世界に移住したい。
 そんなことを考えていると,ポケットの中で通知を知らせるバイブ音が鳴った。
 スマホを取り出し,ディスプレイに表示されたラインの内容を確認すると,自然と目の奥から熱いものがじんと込み上げてくる。


おつ! 卓也さんとまだ一緒? 暇なら飲も! 


 誰とも関わりたくない,数秒前までそんなことを考えていた自分がばかばかしい。
 目元を拭い,嗚咽が漏れそうになるのを必死にこらえながら,こと葉に返信をした。

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