水晶を覗くばあさん

文戸玲

悔やむ女① うわさのおばあちゃん

 来るんちゃうかったわ。

 藁にもすがる思いで,口コミを頼りに怪しいビルに電車を乗り継いでやってきた。
 すすけた小汚い建物にある部屋の扉をノックし,椅子に腰掛けておばあちゃんと対面する。


千と千尋に出てくるゼニーバのまんまやん


 頭頂部にお団子を作って古風な花櫛を止めたシルエットは,まさに宮崎駿の世界からそのまま飛び出してきたみたいだ。

 そんな私の頭の中を見透かしたように,お団子ヘアを手のひらでぐいっと押し上げて威圧するようにあばあちゃんが見下ろしてきた。舐めるように足元から頭のてっぺんまで視線を動かし,そしてまた腰の方に視線を戻してしばらく何かを考え,眉間に深いしわを作って私を見る。

 少しサイズの大きいワンピースが気に入らないのだろうか。そんな訳はきっとない。それならなんだろう。まさか・・・・・・
 対面して数分。まさか私の秘密に気づいているはずはない。ごまかすように舌を出して,ぺこりと頭を下げた。


 どうにかして帰られへんかな。あかん,絶対無理やん。こんな個室みたいなところやと思わへんかったわ


 インターネットに書いてあることを鵜呑みした私がバカだった。面白半分で嘘や誇張された情報が溢れている世の中で,目を引いた記事に流された自分を心底恨んだ。

 私は昨日見たネットの記事を思い出し,おばあちゃんに聞こえないように胃のあたりをさすりながら,浅くため息をついた。

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