【第二部完結】アンタとはもう戦闘ってられんわ!

阿弥陀乃トンマージ

第18話B(3)契り交わしてみた

                  ☆

「なっ……こ、これは 」

 突如として光にその身を包まれた男性は、ただただ困惑した。その男性は紫色のシャツに上下ブラックのスーツを着ていて、白いエナメル靴を履いている。

「弱者を助けようと懸命に手を伸ばすその姿勢、素晴らしい! 心を打たれたよ!」

「なっ  だ、誰じゃ!」

 男は前後左右を確認する。頭の中、もっと言えば、脳内に直接語りかけてくるようなイメージである。男とも女とも判断しづらい中性的な声色だ。大体にして今はどういう状況なのか。自分はあるものを助けるため、がれきをどかそうと懸命だったはずだ。それが今は一体どういう状況なのだろうか、よく分からないが、なんとなく居心地が悪い。

「君の正義の心を見込んでお願いがあるんだけど……」

「ああん?」

 やや一方的ではあるが、会話をなんとか成立させていた両者が向きあった。中性的な声色の方は顔と尻尾こそ可愛らしいリスであるが、頭身と手足は完全に人間のそれであった。かたや向かいあった男性の髪型はオールバックで、金縁のサングラスをかけており、額と目尻と顎に大き目の刀傷が付いていた。両者はやや間をおいて口を開く。

「誰  君 」

「きさんこそ誰じゃ! このリス野郎!」

「ええ……ちょっと待って、ちょっと待って……」

 リス野郎はその場をぐるぐると回り出す。

「ちょっと待てもこっちの台詞じゃ!」

「え、「くそ! 間に合わねえ!」って気の強そうな女の子の声聞こえてこなかった?」

「……聞こえてきた気もするなぁ」

「いや、だからこうして出てきたんだよ、ボク」

「はあ?」

「長らく探し求めていた正義の心の持ち主とようやく出会えたと思ったのに……」

「どうでもええわ! これは一体どういう状況なんじゃ 」

「ああ、ちょっと時間を止めているんだ」

「はあっ  時間を止めている  ふざけんな!」

「ええ  そこにキレる 」

「誰に許しを得てそないなことしちょるんじゃ!」

「確かに許可は得ていないけどさ……でも、良いの?」

 リス野郎は真上を指差す。男はその指差した方を見て驚く。

「のわっ  が、がれきが上から!」

「このまま時間を再び動かしたら、あの大きながれきの下敷きになっちゃうよ?」

「ちゅ、ちゅうことはきさん、ワシを助けてくれたんか?」

「そういうことになるね」

「すまん!」

「どわっ 」

 男がグイッと顔を近づける。

「きさんは命の恩人、いや恩リスじゃ!」

「いいよ、そこは恩人で……ってかあんまり顔近づけないでもらえる?」

「? なんでじゃ?」

「こう言っちゃなんだけど、強面すぎるんだよ……」

「なにを言うちょるんじゃ、よくおる顔じゃろう?」

「刀傷がいくつもついている人はよくいないよ!」

「ああ、これはその……躓いただけじゃ」

「躓いただけでそうはならないと思うよ  ……まあいいや、それより問題がある」

「問題?」

「ボクもこうして時間をいつまでも止めていられるわけじゃないんだ」

「なんじゃと  ちゅうことは……」

 男が再び真上を見上げる。リス野郎が頷く。

「そうだね、このままだと、あのがれきが落ちてきて、君はペシャンコだね」

「ぬう  ど、どうすれば……!」

「切り抜ける方法は無くもないけど……」

「なんじゃと 」

「但し、それには条件があるんだよ」

「条件?」

「ボクと契りを交わして欲しい。本当は女の子が望ましかったんだけどね……」

「ち、契り?」

「ああ、もちろんいやらしい意味じゃないよ」

「それを交わせば、助かるんじゃな  俺もあの子も!」

「あの子? ああ、あの子を助けようとしたのか……」

 リス野郎ががれきの下を覗き込み、納得する。

「あの子が助かるのならワシはなんだってしちゃる!」

「えっと、顔をいちいち近付けなくていいから……なんていうか圧がすごい」

「何をしたらええんじゃ! エンコ詰めたらええんか 」

「ワードが不穏! そ、そんなことする必要は無いよ」

「ほんならどうしたらええんじゃ!」

「不思議な力を授けるよ。君たちの言葉で言えば……『魔法』がもっとも適切かな」

「ま、魔法 」

「その力は正義の心が無いと発動しない……君にはその力で悪を倒して欲しい」

「……きさんは正義の味方かなんかか?」

 男の言葉にリス野郎は笑う。

「まあ、そういうことにしておこうかな。で、どうする?」

「……どうもこうもないわ。リス野郎、きさんと契りをかわしちゃる」

「本当に良いんだね?」

「くどいな。男に二言は無いわ」

「分かった……ちなみにボクの名前はカナメだ。君の名前は?」

「……日下部和志くさかべかずしじゃ」

「そうか、よろしく日下部……それじゃあリェンバリェンバ、リェンバリェンバ……リェーン♪……なにボーっと突っ立っているの? 一緒に唱えてよ」

 カナメは両手を頭上にふんわりと掲げる謎の動きを繰り返す。

「はあ  ワシもやるんか 」

「早くしないとがれきの餌食だよ」

「わ、分かったわい! えっと……」

「「リェンバリェンバ、リェンバリェンバ……リェーン!」」

 再び不思議な光が日下部を包み込む。

                  ☆

「な、なんだ、この光は 」

「……って、こ、これは……?」

 玲央奈と太郎が唖然とする。そこにはフリフリのフリルや可愛らしいリボンがいくつもついたピンク色の人型ロボットが空中に浮かんでいたからである。

「か、かわいいじゃねえか……」

「玲央奈さん 」

「じゃ、じゃなくて、てめえ何者だ! ……? モニターが繋がったな……ってえええっ 」

 玲央奈が軽くパニックになる。モニターには、ロボットと同様にピンクのドレスに身を包んだ、贔屓目に見ても堅気とは考えにくい強面でがっしりとした男と、顔と尻尾だけが可愛らしいリスで後は人間と同じような姿をした二人組が映り込んだからである。

「……何者か聞かれちょるぞ」

「日下部、好きな言葉とかある?」

「は? ……『仁義を尽くす!』かのぉ」

「それじゃあ……魔法少女ロボ、『仁尽じんじん』! キュートに参上! 良い子の皆、よろしくね!」

 仁尽とそれに搭乗する日下部たちが揃って無駄に可愛らしいポーズを決める。

「へ、変なの出てきやがった 」

 玲央奈が正直過ぎる感想を叫ぶ。

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