私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~

阿弥陀乃トンマージ

謎の盛り上がり

 翌日、砂浜に多くの生徒が集まっていた。金銀がメガホンを使って説明する。

「お集まりの皆様、大変お待たせをいたしました! 只今のこの砂浜でのレクリエーションの時間で行う、私、尾成金銀の発案した企画を発表いたします!」

「パチパチパチパチ~」

「よろしいですか? それでは……」

「ドゥルルル……ジャーン!」

「山王さん、拍手だけでなく、口でドラムロールの効果音までやっている……大変そうだな」

 金銀の脇で懸命に盛り上げようとする将司を見た葵が呟く。

「『豪華プレゼント争奪! スイカ割り・2on2』 」

「ス、スイカ割り……2on2?」

 葵が首を捻る。金銀が声をかけてくる。

「おや、そちらにおわすは上様! なにか気になることでもございましたか?」

「色々ありますけど……まずスイカ割り・2on2とは?」

「あら、割り2をご存知でない?」

「知らない種目の馴染みない略称を言われても……スイカ割りをするということはなんとなく予想がつきますけど……」

「そうです! 二組のペアが同時にスイカ割りを行い、互いのペアの様々な妨害をかわし、どちらかのペアがスイカを割った方が勝者です!」

「やっぱりご存知なかったですね」

 葵がその場から離れようとする。

「ああ、上様どちらへ? 参加されないのですか?」

「いや、私はちょっと……」

「まさか……お逃げになるのですか?」

「え?」

「負けるのが怖いということですね?」

「いや、別にそういうわけではないですけど……」

「皆様! 上様が、征夷大将軍ともあろうお方が、敵前逃亡をなさるそうですよ!」

 金銀がメガホンを片手に大袈裟に騒ぎ立てる。葵は苦笑を浮かべる。

「そもそも敵って……」

「上様! 臆病者のそしりを受けてもよろしいということですか 」

「! そ、そこまで言われると話が変わってくるかな……」

「では参加されるということで!」

「でもペアだからな……組む相手がいないや」

「ここにおります!」

「 」

 葵の背後にいつの間にか大和が立っている。

「某、青臨大和! 畏れ多くも上様とペアを組み、その『スイカ割り・2on2』なる催しに参加させていただく!」

 大和の大声が辺り一帯に響く。金銀がニヤッと笑う。

「はい! 上様は体育会会長の青臨大和殿とのペアで参加されます! 腕に覚えのある方々はどんどんご参加下さい!」

 再びの金銀からの呼びかけに周囲の生徒たちも興味を持ち、自分たちも参加してみようという雰囲気になる。将司がすかさず声をかける。

「あ、参加申込受付はこちらです!」

「ど、どういうおつもりですか?」

 葵は参加受付をさっさと済ませてきてしまった大和を問い質す。

「なんの……ほんのレボリューションでございます!」

「レクリエーションです。そんな簡単に革命を起こされてはたまりません」

「……座興のようなものです。そこまで目くじらを立てるほどでもないかと……」

「むしろ、青臨さんこそ何故こんな座興に興味を?」

「!」

 葵の問いに対し、大和の顔付きが若干変わったのを葵は見逃さなかった。

「今、少し『ギクッ!』って表情になりましたよね?」

「な、なっておりません!」

「いや、なっていましたよ!」

「ま、まあ、座興といえども、なかなかどうして武芸の鍛練にも繋がる競技とのこと……ならば参加せぬわけにも参りますまい」

 大和は腕を組んでうんうんと頷く。

「……別に私は武芸の鍛錬を行いたくないんですよ」

「なんと、武家の棟梁たる征夷大将軍様がそのようなことでは……」

「ちょっと言葉が悪かったですね。鍛錬自体はしっかりと行っています。なにもこんなレクリエーションの場では行いたくないということです」

「なれど、参加申し込みはしてしまいました」

「キャンセルしてきます」

「……参加申込受付は終了しました! 参加されるペアはこちらの方へ集まって下さい!」

 将司が呼びかける。

「あ、遅かった……」

 葵は肩を落とす。

「なんのなんの! 上様の御身に危険なことあらば、某が必ず御守り致す! どうぞ大船に乗ったようなおつもりで構えていてください!」

 大和が葵の不安を吹き飛ばすように笑う。

「……危険なことがあるんですか?」

 葵はむしろ不安を大きくする。並んだ参加者の前で金銀が説明する。

「この『スイカ割り・2on2』ですが……今更説明不要ですね! それでは……」

「い、いや、説明をお願いします!」

 話を進めようとする金銀を葵が手を挙げて慌てて止める。金銀がため息を一つついた後、将司に目配せし、将司が説明を始める。

「……二組のペアが一つのスイカを割る競技です。それぞれのペアの内、抽選で選んだ一人が目隠しをします。この目隠しをした人だけが、スイカを割る権利があります。もう一人はその目隠しをした人をナビゲートしたり、他のペアを妨害することが出来ます」

「え 」

 驚く葵をよそに将司が説明を続ける。

「もちろん、妨害に対して応戦することも認められています。先にスイカを割るか、相手のペアを戦闘不能にした方が勝ちです」

「せ、戦闘不能って……」

「叩いても痛くないウレタン棒を使用しますので、怪我のリスクは軽減されます」

「軽減ってリスクはあるのね……」

「では、説明も済んだところで、ちょうど会場の準備も整いました! それでは『スイカ割り・2on2』、開催です!」

「うおおおっ!」

 金銀の言葉に周囲のギャラリーは既に興奮のるつぼである。葵は戸惑う。

「な、謎の盛り上がりを見せている……ん? あれあれ?」

 葵があるペアに駆け寄る。小霧と景元がそこには立っている。小霧が戸惑う。

「な、なんですの? 若下野さん?」

「ふ~ん、二人仲良く参加するんだ~」

「が、学生自由参加のレクリエーションです、何の問題があるのです!」

「いや、別に何も問題はないよ~♪」

 景元の言葉に葵はニヤニヤと笑みを浮かべて首を振る。将司が声をかける。

「第一試合、上様・青臨ペア、コートに入って下さい! 目隠しされるのは上様です!」

「参りましょう、上様!」

「一抹の不安が拭えないけど……こうなったら楽しみますか」

 葵は白い手ぬぐいを巻いて目隠しして、未知なる競技スイカ割り・2on2に臨む。

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