私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~

阿弥陀乃トンマージ

喧嘩?

「戻ってきたけど……教室に方法があるの?」

「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれました……」

 爽の発する不気味な笑い声に若干引いている葵には、爽の眼鏡が一瞬キラーンと光ったようにも見えた。

「リーダーシップ養成の為の恰好の獲物たちがここに居ます! ご覧下さい!」

 そう言って、爽は教室の扉を勢いよく開いた。葵の目には互いに大声を発しながら教室中央で激しく睨み合う二人の男女の姿が飛び込んできた。

「執事茶屋よ!」

 長い縦ロールの派手な髪型をした小柄な女子が叫ぶ。

「いいや、メイド茶屋だ!」

 短い髪をきっちりと横分けにした長身で細身の男子も負けじと叫び返す。

「この二年と組には貴方をはじめ、魅力的な殿方が集まっていますもの! それを活かさない手はありませんわ! こればかりは譲れません!」

「そもそも譲った試しがないだろう……良いかい? このクラスは君を筆頭に素敵な女性が集まっている。君たちの美貌を前面に押し出していくべきだ!」

 どうやら互いの意見を主張し合っているらしい二人の美男美女の様子を見て、葵は困惑した表情で横の爽を見る。

「あ、あの、これはどういう状況?」

「高校生にもなって全くお恥ずかしい話なのですが、このクラスは男女の仲が悪く、特にそれぞれのリーダー格のあの二人の意見がいつも衝突するのです。いわゆる犬猿の仲というやつですわね……」

「え? あれで仲悪いの  なんかめっちゃくちゃ褒め合っているような……」

「この学校は一年生から同じクラスの持ち上がりなのですが、昨年度からあの調子で……副クラス長としては困ったものです」

「ふ、不思議なケンカをするんだね……」

 爽が眼鏡をクイッと上げて、葵の方に向き直る。

「という訳です。葵様」

「な、何がという訳なの?」

「あのいがみ合う二人をお互いに認め合う二人にしてもらえませんか? リーダー格の二人の仲が良くなれば、男女の壁というものも無くなり、クラスの状況も大いに改善されるでしょう。その立役者となれば、このクラスの誰もが、葵様に対して一目置くと思われますが如何でしょう? リーダーシップを養うにはうってつけではないですか?」

「要はケンカの仲裁をしろってことね……そもそも何で揉めているの?」

「話の内容からして、夏の文化祭のクラスの出し物をどうするか、ということでしょうね」

「夏の文化祭?」

「この学校には夏と冬、一年に二度の文化祭があります。と言っても、夏の方は学園内部生しか参加しない、極めて内々のものです。元々は春先に行われていた新入生歓迎会の時期をずらし、前期の中間考査試験が終わった後の慰労会のような意味合いを持たせて、毎年六月下旬頃に行われるようになりました。『新入生歓迎会並夏季休業前慰労会』などという堅苦しい名称がありますが、生徒の間ではもっぱら“夏の文化祭”と呼ばれています」

「ふ~ん」

「では葵様、宜しくお願いします」

「い、いや、宜しくって言われてもな~」

 葵は頭を掻きながら、睨み合いを続ける二人に近づく。

「あ、あの~」

「「何か 」」

 葵をギロリと睨みつけた二人だったが、その相手が将軍だということに気付き、慌てて居住まいを正した。

「こ、これは上様。大変失礼を致しましたわ」

「お見苦しい所をお見せしました、上様」

「……改めまして、若下野葵と言います。あの、さっきも言った様に、私のことは一人のクラスメイトとして扱ってくれて構わないですから」

「そう申されましても……」

「なかなか難しいお話しですわね……」

「御免なさい。お名前を伺っても?」

「これは重ね重ね失礼致しました! わたくし、高島津小霧たかしまづさぎりと申します。このクラスのクラス長を務めさせて頂いておりますわ。以後お見知り置きを」

「……僕は大毛利景元たもうりかげもとと申します。このクラスの書記を務めております。以後宜しくお願いいたします」

 それぞれ自己紹介をして、二人は葵に対して恭しく礼をした。葵は二人に尋ねる。

「えっと……文化祭の出し物で揉めているみたいだけど……」

「勿論、何もわたくしとて好きで揉めている訳ではありませんわ、上さ……若下野さん。ただわたくしは昨年度の春に多数決でこのクラスのクラス長に選ばれました。そのわたくしの意見が最も尊重されてしかるべきですわ」

「それは横暴に近い。賛成数はほぼ同数に近い。このクラスは女子の方が多いだけのこと、それで全く我々の提案に耳を貸さないというのは全くおかしな話だ。そうは思いませんか……若下野さん?」

 葵は腕組みをしながら、二人の考えを聞き、答えた。

「多数決では『執事茶屋』の方が多い、ただ極めて僅差。『メイド茶屋』を推す声も多いのも事実……。う~ん、ここは間を取って、『執事とメイド茶屋』じゃ駄目なの?」

「「駄目です 」」

小霧と景元が二人で声を揃えて、葵の提案を一蹴した。景元がやや乱れた前髪を直しながら、葵に理由を説明する。

「よろしいですか、若下野さん? この文化祭の出し物というものにはそのクラスの威信が懸かっているのです」

「クラスの威信……?」

「そうです。この学園の学年には、いろはにほへと、それぞれ七クラスずつあります。最も優れた出し物を提供したクラスが評価されるのです。その評価を下すのは、この夏の文化祭の場合は新入生。つまりは下級生、後輩たちです」

「そう、この文化祭の出し物の出来の良し悪しが、そのまま後輩たちからの評価の高低につながるのですわ。そして見事高評価を勝ち取った暁には、流石は先輩たちであると、尊敬の念を一身に受けるのです」

「尊敬の念……」

「そうですわ、そのためにはインパクトが何より必要! 見るものの多くを引きつけ、興味を抱かせるような出し物が求められるのです」

「それでは『執事・メイド茶店』はインパクトに欠けると?」

 葵の疑問に小霧は首を横に振りながら答える。

「残念ながらそれではどっちつかず、中途半端な出来になること間違いないでしょう」

「……半端ないことをやれば良いのね?」

 葵は再び小霧に問う。

「……ええ、それが可能であればの話ですが?」

「……」

 葵が何も答えなくなったのを見て、小霧は再び景元との議論に戻った。

「執事茶屋よ!」

「メイド茶屋だ!」

 再び話しは平行線に戻った。また同じことの繰り返しか……爽が軽く頭を抑えたその時、葵が叫んだ。

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