言葉事変《ことのはじへん)

K

第一話 「始まり」

「うーん......」


一月上旬、都内のマンションの一角。


「...ダメだ。続きの文章が出てこない」


テーブルに前屈みになりながら1人の男が小説を書いていた。


「...あー、「葉子は大雨の中、佇んでいた」...」


何とか文字を絞り出し、男は原稿用紙にペンを滑らせていく。


どうやら書いているのは恋愛小説の様だ。


「えーと、「彼女はなぜ自分が振られてしまったのか分からず」...」


原稿用紙の半分以上が埋まった所で、


ピンポーン


突然インターホンが鳴った。


「えっ、急いで書かなきゃいけないんだけどな...はいはい...」


男は急ぎ足で玄関に行き、ドアを開けた。


「はーい、どちら様...あっ」


「ふふ。こんにちは、無色先生」


「ひ、日和見さん...」


そこに立っていたのは、大手出版社に務める編集者、日和見 日見ひよりみ ひみだった。


「原稿の具合、いかがですか?」


「えーっと、まあ、ぼちぼち...あ、上がって下さい。ここじゃ寒いでしょう」


「え、いいんですか?じゃ、お邪魔しまーす」


「あ!ちょ、ちょっと...!
全く...聞いた途端にこれなんだから...」


ズカズカと上がり込んだ日見の後を、男は追った。


男の名前は無色 景むしき けい


本名不明。23歳。職業、小説家。


景は、これから自らの身に降りかかる《事変》を、知る事になる。










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