僕の姉的存在の幼馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜

柿心刃

第十四話・11

いつもどおりにバイト先に着くと、古賀千聖が不機嫌そうな顔をして僕を睨んできた。

「こんにちは、楓君」
「こ、こんにちは」

僕は、緊張した面持ちで挨拶をする。
僕、何かしたかな?
スタッフルームに入って僕の顔を見るなり睨んでくるのだから、きっと僕が何かしたんだろう。
心当たりはないけど……。
千聖は、不機嫌そうな表情を浮かべたまま僕に近寄ってくる。

「楓君。この間、北川先輩とデートに行ってたでしょ?」
「い、いきなり何の話かな?」

千聖からいきなりそんなことを聞かれてしまい、僕はそう言葉を返していた。
奈緒さんとデートしてたって、誰から聞いたんだろう。
そもそも、千聖には関係のないことなんじゃないのか。

「惚けたって、ダメなんだからね。バッチリこの目で見たんだから──」

千聖は、そう言ってビシィッと指を突きつける。
そう言われてもな。
奈緒さんに誘われたから、そうしただけだし。人から咎められるいわれはないと思うんだけど。
まぁ、見られていたのなら仕方がない。

「たしかに奈緒さんとデートは行ったけど……」
「やっぱりね。…でも、なんで西田先輩とじゃなくて、北川先輩とデートに行ったのかな?」

千聖は、まるで浮気は絶対に許さないぞっていう顔をして、僕にそう訊いてくる。
千聖は僕の彼女じゃないんだから、関係ないはずなのに。

「それは……。約束したからだよ」
「約束したからって、北川先輩とのデートには行っちゃうんだ、楓君は……。ふ~ん……」
「いくら僕でも、できない約束はしないよ。それに奈緒さんとのデートは、ちゃんと……」

ちゃんと香奈姉ちゃんに了承を得た上で、デートをしたんだけど……。
これ以上は、言い訳にしかならないのでやめておこう。

「ちゃんと? …何よ?」

千聖は、訝しげな表情を浮かべる。
やっぱり食いついてくるか。
でも、僕もこれ以上は言うまい。

「なんでもないよ。奈緒さんとのデートは、楽しかったなって」
「そんな自慢げに言うのなら、私ともデートしてよ」
「それは……。僕と行くんじゃなくて、もっといい人と行くべきだと思うよ。千聖さんは、僕なんかじゃ勿体ないって」
「そんなことないよ。私が一番だと思う男の子は、楓君だけだよ。優しいし、他の男の子と違って周りの人たちに対しての気配りだってできる。そこまで完璧な人は、そうはいないよ」
「完璧…ね」

僕は、ボソリと呟いた。
こんな女の子にまで、そう言われてしまう僕って、一体何なんだろうか。
千聖は、僕に寄り添ってくると手を握ってきて、言ってくる。

「だからね。今度の休み、私とデートしよ」
「いや……。さすがに──」
「え~。ダメかなぁ。今度は、楓君に色んなことしてあげるよ」

色んなことって……。
僕は、喫茶店の制服に着替え終えてた千聖の胸元に視線が行く。
千聖の胸も意外と大きめなのがすぐにわかってしまうくらい、制服の胸元を大きく開けていた。
水色のブラジャーがチラリと見える。
僕にアプローチしようとして、わざと開けてるんだろうと思う。

「とりあえず、胸元はしっかり閉めようね」

僕がそう言うと、千聖は素直に言うことを聞いて胸元のボタンを閉める。

「はーい……」

そして、小声で囁くように言った。

「これでもダメか……。それなら次の手を──」

聞こえてるんだけどな。
次は、どんな手で来るんだろう。
そう思いつつ、僕は男子用の更衣室に入る。

「さぁ、今日も頑張ろう」

僕は、自分の名前が書かれたロッカーを開けた。
千聖がどんな手で来るのかわからないし興味もないが、今日のバイトも頑張ろうっと。

家に帰ってくると、香奈姉ちゃんがいつものように笑顔で僕を出迎えてくれた。

「おかえり、楓」
「ただいま」

僕は、香奈姉ちゃんの顔を見て安堵の表情を浮かべる。
こうなると、まるで香奈姉ちゃんが家族の一員のようだ。
きっと、香奈姉ちゃんと結婚したら、毎日がこんな感じなんだろうな。
そう思うと、心が温かくなる。

「今日は、ずいぶんと疲れているみたいだけど。…何かあったの?」

香奈姉ちゃんは、心配そうな表情で僕を見てくる。
いや。疲れてはいないと思うし。

「特に何もなかったけど……」
「けど? 何かな?」

香奈姉ちゃんは、少しだけムッとした表情を浮かべてさらに訊いてきた。
恋人同士になると余計に疑り深くなるって聞いたけど、香奈姉ちゃんのそれは顕著だな。
しかし、その表情も可愛く思えるのは僕だけだろうか。

「いや……。特に何もなかったよ」

僕は、自分に言い聞かせるように香奈姉ちゃんにそう言った。
うん。今日は、何もなかった。
バイト先で、千聖から話しかけられてデートのお誘いを受けたけど、丁重に断ったからセーフだ。

「ふ~ん。何もなかった…ねぇ」
「うん。特には何も──」

僕は、香奈姉ちゃんの顔を見続けることができずに、視線を逸らしてしまう。
そんな疑わしげな視線を向けられたら、見続けることなんてできるわけがない。
しかし、それが僕に対する不信感を増長させたのか、香奈姉ちゃんは僕に近づいてくると、僕の顔を手で添えてきて、無理やり香奈姉ちゃんの顔と向かい合わせる。

「なんか、あやしいな。私に隠し事してるでしょ?」

僕はつい、香奈姉ちゃんの唇を見てしまう。
潤いのある薄桃色の唇は、見事に引き結んでいた。
ジーッと見てしまったため、香奈姉ちゃんにもバレてしまう。
香奈姉ちゃんは、何かを察した様子で言った。

「私とキスしたいの?」
「ごめん。香奈姉ちゃんの顔を見ていたらついそっちに目がいってしまって……」

これだと、『あまりにも綺麗だったから、つい見惚れてしまった』と、声高に言っているようなものだ。
キスしたいかって言われたら。
そうしたい気分かもしれない。

「もう! しょうがないなぁ。楓は──」

香奈姉ちゃんは、そう言うとゆっくりと瞼を閉じて、唇を僕に向ける。
今回は、香奈姉ちゃんの方からじゃなく、僕からするキスだ。
僕は、ゆっくりと香奈姉ちゃんに近づいていく。

「んっ……」

香奈姉ちゃんの声が漏れる。
これは、僕がリードしてあげないとダメなんだろうな。
僕は、そのまま香奈姉ちゃんの体を抱きしめる。
香奈姉ちゃんも、これには乗り気だったのか、僕の首に腕を回してきた。
このままセックスしても許されるんだろうけど、時と場所を弁えないと。
僕は、キスをやめてゆっくりと香奈姉ちゃんから離れた。
香奈姉ちゃんは、頬を赤く染めとろけたかのような表情で僕を見てくる。

「もう終わりなの?」
「え……」
「するのは、キスだけなの?」
「それって……」
「今日は、エッチはしないの?」

どうやら、香奈姉ちゃんはセックスをご所望のようだ。
でも、セックスは……。
キスすることよりも、重い気がするんだけど。

「それはさすがに……。今日は、普通に過ごしたいな」
「そっかぁ。普通に過ごしたい…かぁ。しょうがないなぁ、楓は──」

香奈姉ちゃんは、そう言うと艶かしい笑みを浮かべて腕を組んでくる。
それはまるで、僕の部屋に行って『続きがしたい』と言っているかのようだ。

「あの……。香奈姉ちゃん?」
「何かな?」
「もしかして、エッチなことはしないよね?」
「うん。しないよ。…ちょっと聞きたいことがあるから、楓の部屋で…ね」
「聞きたいこと…か。なんなのか気になるけど、聞きたくないような気も……」
「いいから。はやく行こうよ」

香奈姉ちゃんは、そう言って僕の腕をグイッと引っ張る。

「ちょっ……。香奈姉ちゃん。今日はもう、ゆっくりとお休みしたいから」
「今日は、たっぷりと私がご奉仕してあげるからね。楽しみにしなさい」

なんというか。聞いてないな、これは……。
これはもう無理かも。
僕は、香奈姉ちゃんになされるがまま引っ張られていった。

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