僕の姉的存在の幼馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜

柿心刃

第十三話・13

やっぱり楓に家事を手伝ってもらうと、とってもスムーズだな。
私一人でも、できないことはないんだけど、楓にいてもらった方が心強い。
おかげで、お風呂の準備もできたし。

「ねぇ、楓。お風呂にも、もちろん入っていくよね? …いや、入っていきなさい」
「なんか強制してるみたいだね。いつものことだけど……」
「うん、強制してるよ。だって楓は、私と一緒にお風呂に入るんだから」
「そんな迷いもなく言われても……。香奈姉ちゃんと一緒にお風呂に入るっていうのは──」
「何か問題でもある?」
「いや……。特に何もないです……」

楓は、観念したかのようにそう答えた。
楓とは、何回も一緒にお風呂に入っている。ていうか、楓がお風呂に入っている時に、私が何回も突撃していることが多いんだけど。
それでも楓は普通に接してくれているから、何の問題もないってことだよね。
楓は、それでオッケーってことだよね。
嫌だったら、嫌ってハッキリ言うだろうし。
小さい頃は簡単なことでも、高校生にもなると難しくなってしまうから。
私は、少しでも楓と心の距離を縮めたい。
体の距離は縮められても、心の距離はそうでもないみたいだから、一緒にお風呂に入って私の体に触れてくれたら、私だけの人になってくれるよね。
私も、あなただけの人になりたいし。

「そうだよね。私は、楓のお姉ちゃん的存在なんだから、問題あったら困るよね」
「そ、そうだね。香奈姉ちゃんは、僕のことが心配で一緒に入るわけだから、何も問題ないよね」
「そうそう。何かあったら、楓がしっかりと介抱してくれるから、大丈夫なんだよね」
「やっぱり、何かあることが前提なんだね……」
「ん? そうだけど。何か変なこと言ってるかな? 私……」
「香奈姉ちゃんは、僕に裸を見られるってことには、なんの抵抗もないんだね」
「そんなの当たり前じゃない。私たちは、恋人同士なんだから」
「付き合って、一年も経っていないのに……」

楓は、気まずそうな表情でそう言う。
そんな顔をされたら、一緒にお風呂に入るのがダメみたいに思っちゃうじゃない。
私は、楓の腕に肘を軽く当てて言った。

「期間なんて関係ないよ。大事なのは、お互いの気持ちでしょ?」
「それは、そうだけど……」
「わかってるのなら、何も問題はないよね」
「うん……」

楓は、頷くと微妙な表情になる。
そんなに一緒に入るのは、嫌なのかな。
お風呂くらい、普通に入るだろうに……。
私は、さっさとお皿類を洗い終えようと思い、手を動かした。

やっぱり、私と一緒にお風呂に入るのは、楓にとってすごい抵抗があるみたいだ。
浴室前の脱衣所で楓は、まだまごまごしている様子だった。

「いつまで、そこでそうしているつもりなの? 早くしないと、お湯が冷めちゃうよ」

先にお風呂に入っていた私は、そう言ってガラス戸の向こうにいる楓を急かす。

「わかってるんだけど……。でも……」

楓は、煮え切らない様子でそう言う。
待ちきれなくなった私は、脱衣所の方に顔を出す。

「もう! 早くしなさい!」
「どうしても一緒じゃないと、ダメなの?」

楓は、服を脱いでパンツ一丁の格好で立っていた。

「そこまで脱いでて、何を今さら──。お湯が冷めてしまう前に早く来なさいよ」

私は、ため息混じりにそう言うと、浴室の中に戻る。
そう言ったら、楓は言うことを聞いてくれると思うから、それを信じて待つことにしたのだ。
しばらくしないうちに、楓は意を決したのか浴室の中に入ってくる。

「お待たせ。香奈姉ちゃん……」
「来たんなら、早く体を洗いなさいよ。…てっきり、そのままこないかと思ってしまったよ」

そう言って私は、楓の大事な箇所の方に視線を向ける。
残念なことに、楓は大事な箇所の部分にはタオルを巻いて隠していた。
私に見せないようにするための配慮だろうか。

「うん。ごめんね、香奈姉ちゃん」

楓は、私に謝るとさっそく近くに置いてあるボディスポンジに手を伸ばす。
一緒に入るのなら、その方がいいと思ったんだけど。
やっぱり、このままじゃダメだ。

「やっぱりダメ!」

楓がボディスポンジを手に取る前に、私が先にそれを手に取った。

「香奈姉ちゃん? …何を?」
「せっかくだから、私が楓の体を洗ってあげるよ」
「え……。香奈姉ちゃんが……?」

なぜか身構える楓。
そんなに警戒しなくても……。
私は、その場に腰を下ろすとボディスポンジに石鹸をつけて泡立てる。
バスタオルを体に巻けば、少しは警戒心を解いてくれるだろうと思うが、私が持ってきているのは頭に巻くタオルだけだ。
裸を見られてしまうのは、仕方ない。
むしろ相手が楓だから、見られても平気なのだが。
恥ずかしくはない。たぶん。

「ほら。早くしてよ」
「う、うん……」

楓は、やむなくといった様子で腰を下ろし、私に背中を向ける。
ホントは背中とかじゃなくて、色んなところを見たかったんだけどなぁ。
まぁ、ぼやいたってしょうがない。
背中を向けているんだし、ちゃんと洗ってあげるとしよう。

なんだかこうしていると、メイド服を着てご奉仕してた時のことを思い出すな。
あの時は、楓にやめてほしいって言われたから、しょうがなくやめたんだけど。
今回は、あの時となにか違うのかな?
私には、わからない。

「痒いところってある?」
「特にないよ」

私の何気ない質問に、楓は普通に答える。
私は、楓の髪を洗ってあげようと思い、シャンプーを泡立てて、そのまま楓の髪に付けていた。
楓は何も抵抗せず、微笑を浮かべてただジッとしている。
ちなみに髪を洗ってあげるって言ったのは、私だ。
後で文句は言わないよね。
そういえば、楓の髪を洗うのは初めてだな。
良ければ、今度は私の髪を楓に洗ってもらおうかな。

「楓の髪って、意外とサラサラしてるね」
「そうかな? あんまり意識したことないから、わからないや」

楓は、そう言って苦笑いをする。
その顔を見て、私は理解した。
ホントは触られたくないんだなって……。
まぁ、私も他人に髪を触られるのは好きじゃないから、人のことは言えないが。
私は、楓の髪を撫でるように優しくすいてやる。

「男の子の髪って大抵、ゴワゴワしてる感じだから、なんか意外だなって思って……」
「トリートメントしてるからかなぁ? 母さんから、髪の手入れはきちんとしなさいって言われてるから」

楓のお母さんは、楓のことを何だと思っているんだろう。
娘か何かだと思っているんだろうか。

「楓のお母さんなら、言いそうだね。楓の髪は、ゴワゴワしてないし」
「香奈姉ちゃんにそう言われると、なんだか嬉しいな」
「そっか。嬉しいんだ。…それなら、次は楓が私の髪を洗ってくれるかな?」
「僕が香奈姉ちゃんの髪を? 何かの冗談じゃ……」
「冗談なんか言わないよ。楓なら、喜んで私の髪を洗ってくれるよね?」
「いやいやいや。無理無理無理。さすがにそれは……」

楓は、慌てた様子でそう言った。
この時の楓の慌てようったら、なかったな。
私の髪を洗うだけなのに、そこまで取り乱すのは、何かやましいことがあるってことなんだろうか。

「無理なんかじゃないよ。楓なら、できるって。…それとも、楓は私のことが嫌いになったの?」

私は、そう言って今にも泣きそうな顔をする。
恋人同士になってるんだから、さすがの楓もこれには動じるはずだ。

「香奈姉ちゃんのことは好きだよ。でも、だからといって香奈姉ちゃんの髪を触るのは……」

楓のその言葉を聞いて安心したな。
私は、楓の頭にお湯を流し、泡を落とす。

「大丈夫だよ。楓なら、できるって」
「まぁ、普通に髪を洗うくらいなら、できるけど……」
「…なら、さっそくやってみよう」

私は、楓と入れ違いで風呂場の座椅子に腰掛ける。

「仕方ないなぁ」

私の本気度が楓に伝わったのか、楓は肩をすくめてそう言った。
私と一緒にお風呂に入ってるんだから、エッチなこと以外もやってくれないと。

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