とろけるような、キスをして。

青花美来

気持ちの変化と甘い夜(3)


「……みゃーこ。やっぱり今は何も言わないで?」


触れるだけのキスだったのに、私は固まってしまってコクリとゆっくり頷いた。


「ごめんね。困らせたかったわけじゃないんだ。でも、もしみゃーこが少しでも俺のことを男として見てくれるなら、考えてほしいなって思うだけ」

「……修斗さんのことは、ちゃんと男の人だって、わかってるよ」

「そっか。なら良かった」


微笑みながら私の頰にもう一度手を添える。


「じゃあみゃーこは、そんなただの男の俺をどこまで受け入れてくれる?」

「……え?」

「抱きしめるのは?」


反対の手でグッと引き寄せられる身体に、私は息を呑んだ。


「手を繋ぐのは?」


そしてその大きな手が頰から移動して、私の小さな手と指を絡めるように繋ぐ。


「いいんだ?……じゃあ、このままキスするのは?」


今にも鼻が触れ合いそうな距離まで近付いて、そう聞いてくる。
喋るたびに息が掛かり、私は固まる。


「……逃げないの?逃げないなら、キスしちゃうよ?」

「……さっき勝手にしたくせに」

「あれはノーカン。次は、もっとエロいやつ」


少しでも動いたら唇が触れてしまいそうな距離で、なんて話をしているのか。
しかし。
その至近距離で、ペロリと自分の下唇を舐めた修斗さん。
その仕草が妖艶で、それこそエロい。
ドクンと跳ねた心臓が、痛いくらいだ。


「……してもいいなら、みゃーこの腰抜かすけど」


そう言って私の身体をソファに寝かせて、その上に馬乗りになる。
ぺたんこになった髪の毛を後ろに掻き上げた先。
露わになった両目が、熱を帯びていた。


「……いいよ」


そう答えたのは、一種の気の迷いか。

ずっと信頼してきた人からの告白に、絆されたのか。

それとも。この人の視線とその真っ直ぐな想いに、心を撃ち抜かれたのか。

さっきのキスに、凝り固まった心をとかされてしまったのか。



……私は今、この人に恋をしているのだろうか。



「意味わかってる?俺もう止めらんないよ?我慢しないよ?……いいの?」


修斗さんの瞳に映る自分の表情が、モノクロの世界でも赤く染まっていることがわかる。
決して、雰囲気に流されたわけではない。
だって、痛いくらいに高鳴る胸は、この人を欲している。


───キスしたい。


抱きしめられて、手を絡めて。そして、キスしたい。そう思った。

これは、私の意思だ。


「……いいよ」


それは、始まりの合図。

すぐに触れた唇は、今度はかさついておらずとても滑らかで。
柔らかな感触が、私の鼓動をどんどん早める。
私の両手に自分の両手をぎゅっと絡めた修斗さんは、そのまま私に噛み付くようなキスを繰り返した。
それに応えようと、唇をうっすらと開く。
その隙間を待ってましたと言わんばかりに、熱い舌が滑り込んできた。


「……ん、んあ……」


私の舌を絡めとり、ねっとりと口内を犯す。
いつの間にか片手が離れ、私の頭の後ろを押さえてどんどん押し付けてくる。
修斗さんの首に手を回すと、私も同じようにグッと引き寄せた。
お互いの熱い吐息が絡み合い、部屋には嫌らしい水音が響く。
絡まる舌は甘く、熱い。
次第に薄くなる酸素。それが思考を停止させて私の肌を上気させる。

……あぁ、気持ち良い。

そっと離れた唇。キスの余韻か、頭はボーッとしていて。


「……やっばい……」


私の表情を見て吐息を漏らすようにこぼれたその言葉が。私を見るその獲物を狙う狼のような視線が。
私の心の奥底を刺激して、熱く濡らす。


「……みゃーこ。やばい」

「……」

「みゃーこを骨抜きにしようと思ったのに、俺が骨抜きにされた……」


私に負けないくらいの真っ赤な顔で、頭を抱えるように私の首筋に顔を埋める。
普段は私よりも何歳も年上で、余裕でいっぱいなのに。
その珍しく余裕の無い姿が可愛くて、無理矢理顔を引き寄せて、私からキスをする。


「私も、やばいかも。……もっとしてほしい」


恥ずかしくてすぐ視線を逸らすけれど、何も言わずに身体を起こされて。


「……そんな可愛いこと言われたら、もう止めらんねぇから」


横抱きにされたかと思うと、ダブルベッドのある寝室に連れて行かれる。
そっとシーツの上に降ろされると、すぐに私の首筋を唇と舌が這う。


「……あっ……ま、って……」

「待たない。もう無理。みゃーこが可愛すぎるのが悪い」

「ひゃっ……ちょ、あぁっ……そこっ……」

「……そういえばみゃーこは耳弱かったね……。
ほら、もっと気持ち良くさせてあげるから。その可愛い声、いっぱい聞かせて?」


甘い声と共に激しいキスが落ちてきて。
二人重なったまま、シーツに沈む身体。
私は甘い刺激に何度も喘ぎ、その度に目の前の彼は私に愛を囁き。


「美也子。……大好き」


初めて呼ばれた"美也子"。


それにギュッと身を締めた私を修斗さんは何度も執拗に刺激して。

私は叫ぶように鳴く。そしてそのまま意識を手放したのだった。


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