とろけるような、キスをして。

青花美来

しばしの別れ


空港まで向かう道のりは、とても静かだった。
景色を目に焼き付けるように見つめているうちに、あっという間に空港の駐車場に到着する。


「ここでいいよ。ありがとうね」

「……せっかく来たし、行けるところまで送ってくよ」

「でも……」

「ほら、荷物貸して」

「……ありがと先生」

「そこは"修斗さん"じゃないの?」

「ふふっ、ありがとう修斗さん」


満足気な先生は、荷物を持って私を先導してくれて。
チェックインを無事に済ませてお土産も買い、保安検査場の前まで送ってくれた。


「いいか?最寄駅着いたらちゃんと電話しろよ?」

「わかってる。……二日間時間もらっちゃってごめんね。ありがとう」

「気にすんなって。仕事の件も、明日すぐに聞いてみるから」

「うん。こっちも上司に話してみる」

「……じゃあ、気を付けろよ」

「ありがとう。じゃあ、またね」


名残惜しい気持ちを胸に隠し、先生に笑顔で手を振って保安検査場を潜る。
二日間、先生のおかげでとても楽しかったからか、一人になると急激な寂しさに襲われた。


「……乗ったら、着くまで寝てよう」


搭乗のアナウンスを聞いて、飛行機に乗り込む。
離陸してすぐに、目を瞑った。


飛行機は予定通りに東京に着陸した。
そこから電車を乗り換えて、自宅アパートの最寄駅に着いたのが二十一時半。
スマートフォンを出して先生の名前をタップする。
耳に当てると、ワンコールで先生の声がした。


『みゃーこ?』

「あ、先生。約束通り電話したよ」

『うん。待ってた』


その柔らかい声が、電話の向こうで微笑んでいる先生を連想させる。
駅からアパートまで、たった十分の距離。
いつもは遠く感じる道のりも、今日に限ってはとても近く感じてしまうほどに、あっという間に着いた。


「……先生、家着いたよ」

「お、早かったな。───おかえり」


そんな、何気無い言葉を聞いたのが久しぶりすぎて、声が詰まりそうになる。


「っ……ただいま」


家に入って荷物を置くと、


『疲れただろ。明日も早いだろうし、今日はゆっくり休んで』

「うん。ありがとう。おやすみなさい」

『おやすみ』


電話を切って、着物だけ丁寧に箪笥にしまう。
それ以外の荷物はその辺に置きっぱなしにしたまま、私はベッドに寝転んだ。
少し休憩のつもりだったものの、先生の言う通り疲れていたのだろうか。私はそのまま眠ってしまい、気が付いた時には翌朝になっていたのだった。

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