下校する者共

ノベルバユーザー526482

1章 4話 ただいま

 自動ドアの開閉音がしてから何分経っただろう。俺はただ突っ立って自分の駄目さを痛感していた。
 すると、目の前のエレベーターが作動して誰かが降りようとしていた。逃げるように俺は階段まで走った。
 こんな時だけ動いても仕方ねえだろ俺。
 俺の住んでる階は5階あるこのマンション5階だ。とても階段を使うような場所じゃない。
 「くそ」
 階段を登る際にも、杏奈の震えた声が脳内繰り返し再生される。登り終える前に頭痛で死にそうだ。
 なんとか5階まで来たが、赤く充血した目のまま家に帰るとアレがうるさいだろうな。
 屋上の扉の前は誰もいない場所だ。あそこに行って休むことにしよう。
 もう1つ階段を登って屋上の扉まで行くと、扉が半開きになっていた。
 おかしいな、いつも鍵がかかってるはずだけど。
 半開きのドアの先へ行こうと、ドアノブに手をやった瞬間ーー。
 
「あーんびっくりしたぁん」

「うおっ」

 ドアが開き30歳くらいの男が現れた。男は迷彩のツナギを着た見るからに工事屋の人間でだ。
 
 「どうした坊主、屋上は立入禁止だろ」

 1声目とは打って変わって渋い声だった。

 「すいません、間違えました帰ります」

 俺は、適当な言葉でこの場を去ろうとした。

 「待て」

 左肩をグッと掴まれた。
 何だってみんな俺の肩を触りたがるんだ。

 「工事で今日明日は屋上開けてる。大人としてどうぞとは言えないが、5時以降は俺はいない」

 確かに扉の先に見える貯水槽の蓋が開いていた。
 仕方ない。今行きたいけど、この人なりの優しさなんだろう。諦めて家に帰ろう。

 「どうも」

 お礼を行って俺は家に向かった。
 家に帰ると妹から何で唇に血出てるの、何で目が充血してるの、何で帰るのいつもより26分52秒遅かったの。怖いよおまえ。
 流石の池上彰でも「もう質問しないで下さい」って言うぞ。
 俺は今日あったことから逃げるように布団に入った。
 
 「全部忘れたい」

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