オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第100話:酔いどれの勝手な偉業にカンパイ

01月05日 晴 452キロ
→nambucca heads→kempsey→port macquarie→lake cathie→bonny hills→laurieton→tareec
→bulahdelah→hexham→kurri kurri→cessnock(yh)
シドニーまでもう600キロぐらいのところに迫っている。このまままっすぐ行けば今日中に、ゴールというところまで来ていたが、その手前200キロ、決して素通りしてはいけない地、ハンタバレーで一宿することにした。ここは、ワイナリーで有名な土地、銘酒がわんさとある。
僕が旅したオーストラリアのワイナリーは、どこもぶどう畑の中にポツンとある一軒家に毛が生えたような大きさのまさに牧場にでもお邪魔するといった具合で、牛舎の代わりに樽が詰まった倉庫があるといった感じだった。訪れる人も数年来の顔なじみも多く、訪れたところはどこも自家用車が数台付けている程度で、団体客が押し寄せる観光地とは違っていた。またワインは本来、日本人がイメージするような気取った飲み物ではないということをオーストラリアで知った。少なくともワイナリーでは、試飲するのは挨拶かわり、旅先の立ち寄った田舎の民家の軒先で水を一杯頂くような気軽に好意な行為であった。だから、試飲のハシゴで、由緒正しいそこそこの銘酒をタダでありつける。
さあ、大地の実り・自然の神さんに、長旅の無事に感謝を込めて祝杯を上げるとしよう。町の入り口の観光案内所で、一帯のワイナリーの位置を示した地図をピックアップした。記載されたワイナリーの数の多さにびっくりし、喜びをかみ殺しつつ、全部回っていたは身体が持たないので、地元の人を捕まえて、お勧めワイナリーを教えてもらった。ぶどう畑の小高い丘陵地をいくつも抜けて、お目当てのワイナリーにたどり着く。そのときにはすでに、芳醇なワインを含んだような口まわりになっていた。準備万端。早速、木造の納屋というか倉庫というか店に入ると、中は薄暗く、適度な湿気とワインのほのかな香りで満たされていた。カウンターに笑顔を投げかけ、一番のお勧めを出してもらう。
ぶどうの皮の渋みを程よくマイナス2残した赤ワインが、すっと喉を流れ落ちる。口に残った余韻を感じながら、一瞬にして至福の気分が血流とともに体中を駆け巡った。うれしがりの僕は黙っていられなく、聞かれもしないのに、お店のお兄さんに、
「オーストラリアをバイクで一周して、もうすぐその旅も終わるとこなんだ。この地を最後の訪問地にしたのは、僕の旅に祝杯を上げたかったのさ。」
と誠に自分勝手な事情を説明すると、彼はそれならとばかりにとびっきりのワインのコルクをひねってくれた。そして僕の話を聞いていた居合せた人々も一緒になって、祝福の乾杯となる。
こうして乾杯のあとは、またその場にいた人やお店の人にお薦めのワイナリーを紹介してもらう。そのパターンを繰返し。どのワイナリーの人も大歓迎・大感激してくれて、もうこれ以上飲むと運転できないというところまで呑みまくった。全部で8軒、そのうちの1軒で幸運にも「お前ばかり飲んでいて、バイクにも飲ましてやれ」と、赤白ワインそれぞれ一本ずつ頂いた。その夜は、キャンプという気分なく、少しリッチにユースホステルに身を寄せた。運良く悪くは分からないが、ユースホステルと同じ建物にパブが併設されている。バイクからさっと荷を降ろし(所帯道具一式なので、けっこう大変)、とりあえず腹が減っていたので、通りに出て軽く店屋で肉を喰らい、宿併設のパブのカウンターど真ん中に陣取った。
「オヤジ、ビールをくれ」
「銘柄は?」
「ぶどうの味がしなかったら何でもいいよ」
オヤジは、すでに酔っ払っていた僕の顔を見て、昼間ワインを飲み過ぎたのがわかったようだった。ここでも性懲りもなく、僕の成しえた大偉業を手短に説明すると、ビール一杯おごってくれた。腹がもうタポタポ、飛び跳ねると、胃をまんまんと満たしたビールが泡立ち、口から出てきそうなくらいだった。屋根伝いのユースホステルに戻ると、なんと宿泊客は僕一人。「そうか、僕は一人で旅してきたんだな」と、一瞬しらふの顔が心に覗かせる。少しセンチメンタルになりながらも、その湿っぽさを振り払わんばかりに、意味もわからない呂律の回らない英語の歌を大声で歌い続けた。
誰か迷惑だと、どなり込んできてくれないものか。そしてたら、僕の偉業を聞かせてやるのにさあ。

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