オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第90話:バカは治らない

12月27日 晴 471キロ
→cann river→eden→bega→batemans bay(cp)
いくつもの州を超え、時間を越え、ついに再び五体満足で帰ってきたぞ。ニューサウスウェールズ州。だからって、とりわけ何も変わりはなかったが、その何も変わりがないことに真正面から向き合う自分を幸運にも感じることができたが唯一無二の収穫だった。
寒くもなければ暑くもない温和な気候、そして目には優しい風景が織り成すNSW州。なんでもないことに平和を感じるはなんでだろ。その平和は、僕の心の中の刺激を求める小悪魔を呼び起こす。ちょうどその夜は嵐がやってくる予報がした。そんな匂いがするのだ。なら安宿に泊まればいいものを、あえてテントを張って嵐を迎え討つことにした。小悪魔の仕業だ。バカが。冷静な判断をする僕が毒づく。魔が差した。その夜は、僕の野性のカンが告げる嵐を迎え撃つためにテントを張ることにした。
案の定、真夜中に嵐が到来。カミナリ・強風・豪雨が僕にあざ笑うように荒れ狂う。愚か者めが・・・。後悔しても遅かった。ナラボー砂漠での悪夢の再現だった。稲妻を目の当たりにして、愚かにも忘れてしまっていたサンダーストームに対するトラウマが、ひょっこり心に染み出て、辺りを焦がした。その痕は、潜在意識に刷り込まれた恐怖の影へと姿を変え、稲妻の閃光によって、息を吹き返した。ぼくの中の見かけ倒し小悪魔は、シッポを内側に巻いて、おののき・怖じ気づいてしまう。賢い人間には学習能力がある。失敗したことは反省し覚えておき、同じ誤りは繰り返さないようにするものだ。それが僕ときたら、失敗を繰返さないどころか、喉もと過ぎればであって、あのナラボーでの教訓を忘れ、逆にテントで嵐を楽しもうとしていたのだ。これではすくわれるはずもない。
でもバカはわかっていても、やめられない。僕みたいなバカはいるから、世の中がおもしろくもなる。だから、人間はおもしろいのだ。人類万歳・僕バンザイ。なんて飲んでもいないのにノー天気さを真夜中にひとり演じ、でたらめな詞で歌って、嵐を過ぎる雨乞いならぬ『晴れ来い』をした。今や風雨でまたもやへし折られたテントの屋台骨をしっかり握り、自分が我が家の大黒柱となり、屋台骨の一部と化した。骨を折るとはこのことなのか。

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