オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第73話:北海道って、こんなかな!

12月18日 雨 435キロ
→devonport(ferry)→burnie→wynyard→table cape(fossil bluff)→boat harbour beach→sister beach
→rocky cape(アボジニナル rock cave)→rosebery→zeehan→strahan(YH)
さあ、タスマニア。この地には、もうひとつのオーストラリアがあった。赤茶けた大地が剥き出しのアウトバックに初めて踏み入れた時は、心揺さぶられたものだった。タスマニアでもそのロックな感覚を再び期待したが、違っていた。タスマニアの緑豊かな大自然・のどかな酪農風景には、島の大きさもほぼ北海道と同じくらいということもあり、本島とは違うこじんまり感が漂い溢れていた。島国生まれの僕は、この異国の地で、母国にいるような心懐かしい平穏さを覚えたほどだ。
本島から一晩かけてバス海峡を越え、朝方、タスマニアの入り口デボンポートに到着。まず悩んだのが、タスマニア島を時計回り、反時計回りどちらで旅をしようかということだった。なんて取るに足りない悩みだろう。行く宛てのない旅に、改めて自由を感じた。下船してバイクを走らせても、まだどこにいくかは決めかねていた。というよりか、決めるつもりもなく、全く自分事でありながら、道に沿っていけばいいやという全く他人事でしかなかった。でたらめな道なりで出た海岸線、海を右に見ながら走る。それがたまたま西に向けての反時計回りだった。そう言えば、陸上競技のトラックもなぜか絶対反時計回り、それは重い心臓が体の左側にあるからなんだなんて、マユツバな理屈を聞いたことを思い出す。ま、どうでもいいようなことに理由を求める事自体、どうでもいいことだった。左右にうねる海岸線を通り、次々と目に飛び込んでくる海の絶景を前にしては、自分との対話で一人上手になれるメインランド(本島)のように、他愛もないことにあれこれ思い巡らす間など全くなかった。転倒でもすれば怪我ではすまないスピードでバイクに乗っているのにもかかわらず、あまりの何も無さに記憶が飛んでしまった本島でのあの頃が懐かしく思えた。
バーニー~ウィンヤードからテーブルケープ・ロッキーケープへと続く北海岸沿いは、灯台が最も似合う海岸線で、まるでラッセンの絵に見るような創造的極彩色な自然美を存分に楽しむことができた。昔むかしに原住民のタスマニアン・アボリジニが住んでいたという洞窟(ロックケイブ)や最古の有袋類の化石が見つかったという岬(その名もフォッシルブラフ(化石の岬))を筆頭に、ボートハーバービーチやシスターズビーチのように美しい白浜ビーチなど、とにかくこの風光明媚な自然を取り巻くロッキーケイプNP(国立公園)に一度着たならば、キャンプやブッシュウォーキングをせずにはいられなくなってしまう。まだデボンポート出発して百数十キロ、緑の大自然にハマリすぎて、旅が進まなくなりかけていた。先にコマを進めるべくタスマニア北部の最後の別れにと、ザ・ナットでの登山を楽しんだ。ザ・ナットはイチゴミルクを食べるときの平たいスプーンをひっくりかえしたような岩山が海に突き出した半島で、標高も150メーターぐらい、絶景を楽しみながらのブッシュウォーキングはにわか山男を十二分に満足させてくれたものだった。
海を離れて内陸に入り、山林の中を数時間走ったところで、分かれ道に出くわした。右に行きべきか左に進むべきか。標識もなく、どちらに行くべきか、いつものインスピレーションが沸いてこない。あいにく厚い雨雲が張り出してきていたので、太陽の位置が全く掴めず、方角の検討もつかなかった。それに森林の香りが強く、浜風も嗅ぎ分けることもできなかった。これでは本島アウトバックで身につけた野性的直感が役にたたない。それなら本島のように一日中誰も通りかからないということはないだろうと安直な思いから、その場で誰かが通りかかるのを待つことにした。バイクを降り、道端の草原に腰を落とす。辺りは、小ぶりの白い花が咲き乱れる一面花畑(自生かどうかはわからなかった)となっており、思わず弁当を広げ、おにぎりでも頬ばりたくなるスポットだった。もちろん、そんな気の利いたものはなく、火を起こし湯を沸かして、インスタントコーヒーでも飲むことにした。マグカップから沸き立つ湯気を嗅ぎながらぼんやりと・・・。手にも届きそうな低いところを流れる雨雲の匂いをふと嗅いでみたくなる。いつもの馬鹿げた空想。あの厚い雨雲がもっと近づいてくれば、雨が降り出しそうだな。タスマニアの雨も気持ちがいいかもしれないな。なぜか雨に打たれることを心のどこかで楽しみにしている自分がいた。どれほど時間が過ぎたろうか、自分がきた方からオンボロの音を立てて、まさしくオンボロ車がやってきた。車もオンボロなら運転手もオンボロで、手を挙げずともスピードを落とし、運転席の窓からじいさんが顔を覗かせた。
「この花園は、最高の眺めだろ」。
見かけによらず、皺枯れた声にはハリがあった。
「これをキメたら、天国に行けるぜ」。
僕には、最初その言葉の意味がわからなかった。はてどういうことかな? しばしわからない英語のやりとり。
なんとこの花園は、花畑でも、ケシの花畑らしかった。ほんとかどうかはあやしいもので、生花では試してみるわけにもいかず、ちょっと残念。
そのじいさんは聞かずとも、やはり道を懇切丁寧に教えてくれた。
最後のセリフは、「おれも急いでるから、先に行くぜ」だった。
どこが急いでんだあ、自転者並のおんぼろ自動車で。
僕も準備を整え、再出発。案の定、すぐに追いつき、先ほどのお礼にクラクションを軽く鳴らし、ブッちぎってやった。

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