オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第66話:もうひとつの水中楽園

12月12日 晴 405キロ
→kingston s.e.→beachport→millicent→tantanoola cave→mt.gambier→port macdonnell→nelson
マウント・ガンビアの辺りには、大なり小なりいくつもの鍾乳洞が点在している。というよりも、地元の人曰く、至るところ穴ボコだらけらしい。幾つかの鍾乳洞を訪れてみたが、探検フリークの僕としては、鍾乳洞と聞くと、素通りできず、片っ端から物色していった。穴倉の中はどこもひんやり妖艶な雰囲気が充満する。スポイドで垂らす量の雨水でも、地面に当れば弾かれ、くぼみを形成する。しかし鍾乳洞では、天井の岩から飛び出た突起から妖気が溶け出し滴り落ち、地面に生えた突起に吸い込まれてゆく。科学的には水滴に含有物を含む結果だとしても、どこか神秘的で説明のつかないパワーを宿していることが、肌を持って感じた。例えば、得体の知れない何かに見られているような。
またこの近辺では穴が多いというだけあって、鍾乳洞が横穴なら、竪穴として湖が挙げられる。鍾乳洞のように不思議チックな湖も、有名ドコから激レアまであった。有名候補の代表湖としては、やはり「ブルーレイク」だろう。その名の通り、真っ青に青い。西オーストラリア州のエンペランスにも、「ピンクレイク」という湖面が桃色の光りを放つ湖があったが、その原因はプランクトンの繁殖によるものだという。しかし、このブルーレイクの青い理由を聞いてみたが、誰も知らなかった。空の色が映って青いとしても、空よりも断然青く、かといって濃紺ではなく、全く蒼くない青だった。
一方、超激レアとして、偶然にもジモティ(地元の人)に「足(バイク)があるなら、リトル・ブルーレイクに行ってみるといいよ」と教えてもらった湖にも行ってみた。穴場スポットだけあって、道に迷いに迷わされ、平坦な土地に淵が直角に落込んだ小さな池で楽しそうに泳いでいる子供にたまたまリトルブルーレイクへの道を尋ねたところ、奇跡的にも目指していた湖がそれだった。全く全然観光地でもなく、辺りに目につく人間は、少し離れた家から歩いてこの湖まで遊びに来ていた少年たちだけ。目の前のリトルブルーレイクは、確かに青く澄んではいた。でも、先に訪れたブルーレイクの方が、段違いに大きく青かった。いわゆる、その名の通り、ショボかった。湖というよりか、池といった方がよく、いっぱい食わされた感じだ。
このまま立ち去るには、期待を裏切れたようで、しゃくに触った。わざわざこんなガキしかいないところに、お前は暇人か。自問自答・・・そう、僕は紛れもなくヒマ人。こうなったら、少年たちに誘われるまま、いっしょに泳ぐしかない。ガキにガキ扱いされて、素直に自分はやっぱりガキだと認めることができた。水着に着替え、池の縁に立つ。普通の池と違うのは、水面が縁から落ち込んだ数メートル下にあること。日差しによって、水面はチラチラ乱反射し、巨大な井戸を思わせる。足がすくんでいる僕を見上げて、少年たちは足の足りない水面を立ち泳ぎしながら、「早く飛び込め」と僕をはやし立てる。なぜか、飛び込むと水の中に引き込まれ、二度と上がって来れない気がして、怖じ気付いてしまった。今から飛び込もうとする水面をじっと睨みを効かし、その透き通る水面下を透視する。体が硬直。あまりに高かったからじゃない。ビックリ仰天。天を仰ぎ、再び水面下を覗き込む。アンビリーバブー。なんと、水の中が鍾乳洞になっている。鍾乳洞の入り口は横穴だという固定観念があった僕は、その固定観念とともに足元が崩れ落ち、真逆さまに池に落っこち、飲み込まれてしまった。鍾乳洞は水の中ではできない。地中に鍾乳洞が完成された後に、地面に穴が開き、雨水や地下水が溜まって、この驚愕に値する鍾乳洞ができたものと推測される。
色々と自然のなせる力にはひれ伏し慣れていたつもりではいたが、世の中まだまだ僕の期待を裏切ってきれて、うれしくなってくる。少年のゴーグル(水中メガネ)を借りて、息の続く限り、素潜りをし続けた。垂直の絶壁は、水の中では大きく内側にえぐられており、その世界は水上から想像するよりもとてつもなく深く広い空間になっていた。いくら昼間で太陽の光りも強く、透明度の高い池と言っても、あまりに横に広大であるがゆえに、その水面下の横穴の奥の奥まで光りは届かかない。だから、その鍾乳洞のブラックホールの入り口のように思え、奥に吸い込まれるともう二度とは光を見れない気がした。名の通り、秘境がこんなところにあるなんて。とにもかくにもその水中庭園は思わず息を呑むほど、いや水を飲むほどの代物で、まるで生き物のよう、そう例えるなら水面にパックリと口を開けたクジラの喉もとに突き落とされた錯覚に陥る。色彩豊かなパステルカラーの珊瑚礁や熱帯魚などどこにもない。美しいというよりも、想像をはるかに超えた光景に恐怖心を覚え、水の冷たさが骨の髄まで冴え渡る感じがした。
さて、道を南下するにしたがって、水は潤い、大自然はその素晴らしさを万全と輝かせる。大海・海岸線・ラグーン(礁湖)・鍾乳洞湖・森林・樹木・ワイン、全てが天の恵みである。僕は正月クリスマス以外神さま・仏さまなど信仰しないが、こう自然のすばらしいけたたましさというか圧倒的な猛威に曝されると、理解を超えた万物創生の神なる秘力を肌で感じ、その前にひれ伏してしまうこともたびたびだ。
夜は、暗闇で天を仰ぎ、雨に打たれた。雨に濡れる不快感、これは誤りだ。砂漠を越えて身体を覚えた潜在意識、「水があるってすばらしい」。冷たい雨でさえ、目を閉じれば、頬を伝う冷たい雨さえ、やさしい温もりを感じてしまう。頭に浮かんだ情景、雨の森レインフォレスト。行ったこともないタスマニアのイメージが勝って膨らみだす。メルボルンでしばし休んで、それから船で、未知の島、レインフォレスト(雨の森)のタスマニアに渡るとしよう。

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