オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第62話:やっぱ彼女にするなら日本人

12月10日 晴 51キロ
→sightseeing(adelaide )
最後の難所ナラボー砂漠を越えてから、急に気が抜けてどっと疲労が出てきた。それによってか、西の州都パースに入る直前の時と同じように、バイクに乗るのに嫌気を指してきていた。次の街アデレードでは、その後の旅を新鮮で快適なものにするためにも、しばしバイクを降り、充電期間をとることにする。
アデレイドはサウス・オーストラリア州の州都。街はきれいに区画され、緑も多く英国風の建物が建ち並ぶせいか、格式高いムードを漂わせている。ひと昔前にはこの市街地道路を使用してF1グランプリが行われていたというから驚きだ。よくもまあこんな障害物だらけの公道を200キロ以上のスピードで走り抜けたものだと感心してしまう。神ワザというべきか、自殺行為というべきか。
アデレードでは宿屋に泊まる。久々に朝日に邪魔されることなく、寝坊を楽しんだ。それでも日の出とともに起きるクセがついてしまっているせいか、8時半まで寝ているのが精一杯だった。それでもかなりの朝寝坊。
どこに行きたいというわけでもないが、とりあえず街にくり出した。時間はたっぷりある、というよりは拘束された時間など全くない。とりあえず、宿の住人の進めどおりに、ショッピングモール・シアターや教会等々を周ってきたが、感想は、「ふ~ん」って感じで終わった。あとは、ガイドブックもなくただ足の趣くままに歩きまわる。
午後、トレンス川ほとりのアデレード大学構内をうろつき回り、腹も減ったので学食にまぎれ込んだ。そこで奇遇にも日本人と遭遇。日系人は僕たちだけだったけれど、それでも多数の学生がいる中、ふっと呼び合うように目が合った。不思議なことに遠い異国の地ではただ同じ肌の色・国籍・言葉というだけでなぜか自然と引き寄せ合い、すぐに親しくなった。彼女の名前は、ユミ(姓とか漢字とか知らない)。20才そこそこで、ほんのりイケイケ姉ちゃん風。なのに話してみると、年よりもずっと大人だった。彼女もそこの大学に通っているわけではなく、その日は仕事が休みで、ランチに寄ったらしい。オーストラリアの高校を卒業してから、親にはこちらの大学に進学すると言いながらも、既にワーキンング(就労)ビザを取得し、立派に社会人をしているという。しっかりしているわけだ。
ユミには観光客が行きそうもない下町裏通りを案内してもらった。でも入った店よりも、ユミとの会話の方がずっと印象深かった。彼女は大和撫子と言おうか、まさに竹を割ったような性格の持ち主で、清く正しく美しく自分の考え・意見を持った選挙ウケしそうな素敵な女性だった(ほめている)。夜はお礼を口実に夕食に誘い、日本女性っぽさを満喫した。うまく説明できないが、こっちの女性と日本女性とではやはり違っていた。笑い方や指の動かし方、些細なしぐさひとつ取ってみても、日本女性にはどことなく特有の品があり、美学を感じた。昔はハリウッド映画を見て、将来金髪女性と結婚しようと思っていたが、こうして外国にお邪魔していると、日本人女性のすばらしさにあらためて気づく。なら、日本人女性ならだれでもよかったというわけではなく、ユミという人間にも魅せられてもいた。明日もわからぬプータローの僕の前には、自分の将来ビジョンを既にしっかりと持っている人間が座っていた。彼女の将来像は、こっちで働いて、30才くらいまでにはオーストラリア人の男を捕まえ結婚し、永住権も得、大好きなオーストラリアで骨を埋めること。正直すてきな夢だとは思わなかったが、その夢を語る目には確固とした光が宿り、実現に向けてのウソ偽りはなかった。それが、まぶしすぎて、カッコよすぎる。年下の小娘に、初めて大人を感じ、人として惚れてしまった。
路上のテラスで夕食後、パブで軽く一杯飲んだ。後ろのテーブル席の酔っ払いオージーカップルが、ぼくらを見て何やら言っている。感じからして、イケ好かないヤツラだった。僕たちに聞こえるように、無精ヒゲのオトコが栗毛のオンナに言った。
「一度日本の女性とヤッテみてえなあ』
耳を疑ってしまった。こんな輩、まだいるのか。そのオトコにこのオンナ、言葉を受けて、
「私は、日本の男なんかと付き合いたいなんてこれっぽっちも思わないわ。だって…」。
バカかこのふたり。日本人のオレにケンカでも売っているのか。にやけたヤツラを一生懸命知らないフリをしようとしたが、自分でもコメカミの血管がブチブチ言ってんのがわかった。もう我慢できなくなり、彼らにちょっと挨拶でもしようと椅子を引こうとした瞬間、すかさずユミが口を割って入った。
「あなたたち、すごくお似合いね。だから心配無用よ。あなたたちみたいな人間の仲を裂いてまで付き合おうなんて人、日本人はおろか誰もいないから」
シビれる台詞だった。僕は座りなおし、ユミの寄越した目配せに同じくユーモアで応えた。
「こっちのカレシ、ほんと君に惚れ込んでるみたいだねえ。タバコまでいっしょに吸おうってよ」
オトコは無神経にまたしても、タバコを吸わない彼女の顔に、タバコの煙を吐きかけているとこだった。僕は我ながら自分のセリフのタイミングと見事さに気をよくし、思わず笑顔で続けて言った。
「店員さん、あっちのふたりにビール、入れてあげて。じゃ、僕たち目障りのようだから帰るね。ネバー・シー・ユー!」
店を出て僕たちは、見合って噴き出した。僕たちふたりとも、かなりドキドキしていたはずだ。ユミはわざとらしく、僕の腕にからみつくてみせた。その時笑った彼女の口からこぼれる八重歯を、僕は決して忘れないだろう。

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