オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第12話:迫りくる本物ジョーズ

11月10日 晴 0km
ケアンズ
この街にきた目的は、スキューバダイビングをすることだ。ゆっくり朝食(硬くなったパンをかじっただけ)をとり、ダイブツアのブッキング(予約)もなしに、ツアの出てそうなヨットハーバーに勘で向かう。しかし、飛び込みでグレートバリアリーフ行きのツアに参加するのは少し虫がよすぎたようだ。どのツア船もすでに出航してしまっていた。こんなひとり旅をしていると、時間の感覚がなくなり、世の中自分を中心に回っていると錯覚してしまう。だから、悠々と港に着て、ツア出航時間に間に合わなかったのが原因だとわかっていても、僕の乗船を待っていなかったことに、俺さま的には納得いかなかった。理不尽ながらも、暇つぶしに港のツアデスクのおねえさん(美人だったので)に食ってかかったりもした。客でもなんでもないが、我ながらイヤな客だあ。
なんだかんだで、かわりにやることもないので、当て所なくヨットハーバーをウロウロしてみた。すると、ニューヨークヤンキーズのキャップを被った青年を発見、僕と同類と思い、声をかけてみる。
僕「ダイブツアは、もうないよ」。
NYヤンキーズ「わかってるよ。俺は別の船を探しているのさ。君も協力してくれよ」。
話しを聞くと、てみると、ビンゴ、『捨てる神ありゃ拾う神あり』とはこのことをいうのだ。
話を聞くと、アメリカ人の彼は、ダイビングをするためにオーストラリア各地を転々としているという。そんなある日、うわさながらもケアンズには、ジョーズの居場所に案内してくれる行く知る人ぞ知る口コミツアをあると聞きつけ、その船を探しているらしい。
来た来たあ、ビンゴ!。『捨てる神ありゃ拾う神あり』とはこのことだ。面白い展開になってきた。ダイビングはふつう2人1組で潜るもの、その好奇心をおもいっきりくすぐられる話に載らない手はない。いっしょに目印もないその船を探すことにした。一般のツアデスクではそんな危険なツアは取扱っているはずもない、残るはめぼしき船を一隻一隻あたるしかない。
やっぱりうわさはうわさだったのか、この船に聞いてダメならもう終わりにしよう。
あきらめムードいっぱいに、「すみません。ジョーズ観戦ツアの船を捜してんですけど、そんな船なんてないですのねえ」。
その船のキャプテンは、あっさりと「この船だよ』と言ってのけた。拍子抜けに、一瞬聞き間違ったのかと思ったくらいだ。それでも、まさかヒット、いやホームラン。実話ほど、うまくできているものだ。 となりのアメリカ人青年が嬉々としていた。うわさが本当だったようだ。
で、普通、ケアンズのようなリゾート地では、それっぽい大型観光ボートが一般的であるが、それに引き換え目の前のボートと言えばまさに漁師が乗るポンポン船だった。これではツアデスクで取扱っていないのは当たり前だ。ピンキリを地で行っている。船の定員は最大6人が限度で、予約の2人を待っていた。予約ねえ、口コミなのが肯ける。もちろん僕ら二人も便乗し、キャプテンも快諾、計5名で船出となった。それにしてもこの船で、途中波も荒い外海にあるアウターリーフまで本当に行けるものなのだろうか。
いよいよ出航。意外や意外、その船は見かけに寄らず高速だった。それでも小型船のポテンシャルはやはり小型であり、十分日焼けした肌に、十二分に日焼けをこんがり上塗りした時分に、秘密のダイブポイントに到着した。さすがに穴場中の穴場だけあってそのポイントには、僕たちだけのしかいなかった。
船上から海をのぞきこむと、さんごの絨毯がびっしりと敷き詰められている。そして、なんともうすでに海面近くで、約30センチサイズの鮫たちが数匹群れていた。
船長がうれしそうに「ここから海底まで潜り、一本道をまっすぐにいくと、僕の親友に逢えるよ」
意味ありな言葉、怪しすぎる。いくら子供のサメとは言え、目の前のすぐそばで体をくねらせ泳ぐ姿は目にすると、その中に飛び込むのは勇気がいるのだ。ここまで着て、潜らないのも芸がなさ過ぎる。まあ、このサイズの鮫に噛まれたところで死ぬことはないだろうと腹をくくり、海に飛びこんだ。その音に驚いたのか、鮫たちの方が逃げていった。人間さまにかかれば、鮫なんて大したことはない。そのまま、僕たちは海底まで一気に潜水すると、目の前には今まで見たこともないまたこれからもお目にかかれないであろうサンサンと輝くさんご礁のトンネルが現れた。水深は結構深いのに光りは予想以上に届いており、視界も良好。そのサンゴのトンネルに飲みこまれるような感覚に酔いしれながら突き進むと、これまた辺りがちょっとしたサンゴ礁のパノラマ広場に出た。この時点で鮫のことなど頭から完全にすっ飛んでいた。しばく意識が飛び、ただ呆然と海底のリズムに身を委ねる。次に我に返ったのが、僕のお腹の下にコバンザメが潜りこんでいるのを発見したときで、不測の事態に思わずびっくりし、吐く出す泡が弾けた。でも本当の恐怖におののくのはこの後だった。小判鮫がいるのだから、その時点で思い当たってもよさそうなものを。視界の右側に気配を感じ、その方向に視線を投げると、なんとそこには体長約3メーターはあろうかあのジョーズが目前を通り越していく。意表を付かれる形となったため、思わず、咳き込み溺れそうになる。脳裏に電気が走る。というのも、僕の全身には連日、蚊に噛まれかきむしった痕をあり、そこからは血のにおいを出していると確信していたからだ。金縛り状態。ジョーズは、不規則に気泡を吹き出す僕を横目に(もともと横目か?)ちらっと見ると、俺の存在などこれっぽちも気にすることなく、悠々と尾びれを左右にゆっくりスクロールさせながら、去っていった。蛇に睨まれたカエルの気持ちがよくわかる。決してネズミは猫に噛み付いたりはしないこともよくわかった。とにかく、なんとラッキーだったことか。今でもありありと、あの丸い円らなジョーズの眼が、ギョロっとカミソリのように僕もろとも水を断ち切る光景が脳裏に焼き付いている。その後すぐ、僕の左側で潜っていたアメリカ人青年をみると、彼はこれまた海中を漂うくらげのごとく意思を無くした無機質な存在と化していた。お互いに目を見合わせ、そっとうなずきあい、ジョーズの後を追うのでなく、もちろん来た道を一目散に引き返した。その際は行きのようにサンゴのトンネルを目で味わう余裕などこれっぽっちもなかった。
船に上がり、キャプテン手作りのサンドウィッチとワインで遅い昼食を頬張る。その後、小一時間そこでボンベを着けずシュノーケリングを楽しんだが、あのジョーズを経験していた後では、僕の周りを泳ぐチビジョーズなど、もう取るに足りない存在なり、かわいいものだった。
グレートバリアリーフからの帰路、猫の額ほどのヨットのデッキに寝そべり、潮風と夕陽を浴びる。目を閉じると、真のリゾートに触れた気がした。
赤く染まゆく太陽に決意した。休息はこれぐらいにして、そろそろ、いや、いよいよ、明日からは本当のオーストラリア大陸であるアウトバックに踏み入れようと。

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