オーストラリア!自由気ままにぐるっとバイク旅

ノベルバユーザー526355

第1話:意地の出発

10月31日 曇り 18km
Marrickville →Neutrral Bay
いよいよ、出発の日がやってきた。ぶらっとオーストラリア一周のバイクひとり旅、何日かかるか分からない。バイクは87年式のホンダの500ccオンロードタイプ、装甲車並の頑丈さだが、その分かなり重い。朝から慣れないパッキングに手こずっていると、旅の準備の間居候させてもらっていたマリアンたちから、あまりの荷物の多さに「夜逃げでもするのか」とからかわれてしまった。それでなくてもバイクで十分重いのに、この所帯道具の重さではカーブでバイクを倒せず、曲がれないだろう。そこで、何を置いていくか、マリアンたちに相談してみた。でも彼らとっては所詮他人事、相談しようなんてこれっぽっちも考えた自分がバカだった。夜は野宿キャンプをしようとしている俺に、シュラフだけ持っていれば、テントは必要ないと言い出す始末。
それでも荷物を3分の2に減らせた頃には、もう昼過ぎでおまけ雨も降り出していた。まあ、コーヒーでも飲んでいるうちに止むだろうとたかをくくって、もう3杯。出発は明日に延期するかと思い始めていた頃に、先にマリアンたちに「出発は明日にすればと」と言われてしまい、つい素直でない俺は日本男児の意地を見せようと、「何言ってんだ。シャワーだと思えば、夜その手間が省けるだろ」と心にもないことを口走ってしまった。嗚呼、後悔さきに立たず。雨の降る中、バルコニーで彼らと厚い抱擁を交わし、泣く泣く居候宅を後にした。
ほどなくして本格的土砂降り状態。肉屋の店先で雨宿りをしていると、暇そうな店の親父から「よっ、あんちゃん。旅していんだろ。どっちから来たんだい」と話しかけられる。その問いに当惑してしまって、『南から』とでも言っておけばまだサマになってただろうが、ホントに迷子の子供のようにどっちとも分からない方向を指差し、「アッチ」と答えてしまった。それを見て、オヤジは、『コイツとは関わらない方がよさそうだ』と言わん気に、そのまま仕事に戻ってしまった。
でも、よくよく考えてみると、ほんと今日から、♪迷子の迷子の子猫ちゃん♪~になってしまった。このままじっとしていてもラチが開かないので、とりあえず進攻すべく、シドニー言えば泣く子も黙るオペラハウスを横目に、強風と雨にさらされながらバーバーブリッジを渡った。
さあ、台本なし、自分が主役のドキュメントヒューマンドラマの始まりだ。気持ちも新たに出発したが、結局のところ,その日の走行距離は僅か18キロで挫折、シドニーも脱出できずに、ノースの友達宅の週極賃貸アパートに転がり込む。意外な珍客に腹から笑われてしまい、その夜は有難い事にも[旅を成功祈る会]をやり直ししてもらった。[恥は旅のかき捨て]とはよく言うが、知り合いに恥をかきすててりゃ、世話がない。その夜、アパートの居間のフカフカのカーペットの上で、シュラフ(寝袋)に包まり就寝。不覚だあ。マリアンたちのいう通り、テントなしで済んでしまった。今日の教訓、長い旅、つまらぬ意地は張るものではない。

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