高校生達の非日常〜アーティファクトが異世界からきたそうです〜

kurokuro

Episode.3



「…これ、マジで夢じゃないんだよな?」

シルフィが帰ってから、先程聞いた話を頭の中で整理していると、部屋のドアが開いた。

「お兄ちゃん何してるの? ていうかさっきまで誰かと話してた?」
「え?あ、あぁ、いや、何もしてない。あの女は誰だったんだろうなって考えてたぐらいだ」
「そっか。本当に誰だったんだろうね?」
「アイツ、真夏の友達って親父に言ったんだろ?お前何も知らないのか?」
「知らないよ!あんな凶暴な人と関わんないもん!」

まぁ、そうだよな。でもコイツ、ちゃんと友達いるのか?

「ていうかお兄ちゃん!ここあたしの部屋なんですけど!」
「はぁ?お前だけの部屋じゃねーだろ」

俺が一人暮らしするまではこの部屋は俺と真夏が二人で使っていた。

「お兄ちゃんがどっかいったからあたしの部屋になったんだもーん!…まぁ今日は特別にこの部屋にいてもいいけど」

怖いんだろう。多分人生で初めてあんなイカれた奴に出会ったんだろうからな。俺だってあんなヤバい奴に会ったのは初めてだ。

「…いや、今日はもう帰るよ」
「え!?ご、ご飯はどうするの?」
「さすがにこんなことがあった日に食べに行けないだろ。…今日はもう帰るよ」
「で、でも!」

真夏がなんとかして引き止めようとしてきたが帰ることにした。帰る時に母さんにも引き止められそうになったが、親父に好きにしろと言われたのでスムーズに帰ることができた。

「…生きてる」

夢の中では家族全員死んでた。
茜に頼ってよかった。でも、そのせいで茜が重症を負ってしまった。

「…なんでこんなことになってんだよ」

不貞腐れながら風呂に入ることにした。一度気持ちをリセットしよう。それで茜に謝ろう。

風呂から上がると、茜から着信とメッセージがきていた。

内容は、『今から話せへん?』というシンプルなものだった。

髪を乾かすのは後回しにして、茜に電話をかけるとすぐに出た。

『ごめん、何か用事でもあった?』
「いや、風呂に入ってたから電話に気付かなかったんだよ」
『そういうことか!怪我とかはしてない?』
「茜のおかげで家族全員無傷だ。…ありがとな」

『ええよええよ!よかったわ!』と言いながら笑っている。自分は重症のくせに人の心配なんてしてる場合なのかよ…

「茜の方こそ怪我は大丈夫なのか?」
『大丈夫!ほとんどかすり傷やから!お嬢にはめっちゃ怒られたけどな』
「そうか。よかった…悪いな。俺のせいでこんな目に合わせて」
『いいから気にすんなって!あ、そうそう、シルフィにはもう会った?』
「会ったよ」
『じゃあアーティファクトの使い方も教えてもらった?』
「アーティファクトの使い方?教えてもらってないけど…」

そう言うと茜がため息を吐いて、『俺らに協力してほしかったんじゃないんかよ』と小声で言っていた。

「協力?」
『そう。シルフィはこの世界に流れてきたアーティファクトを回収するために来た。でもシルフィには回収する手段がない。だから俺と優星に声をかけてきてん。俺ら以外に声はかけへんって言ってたけど、ほんまかわからんっていうのが現状や』
「なんで回収できないんだ?あいつなら楽に回収出来そうなのに」
『アーティファクトが既に誰かと契約してると無理やり回収できないからって言ってたで。まぁこれはホンマのことなんやろうな』
「何でわかるんだ?」
『俺は今アーティファクトと契約してる。アーティファクトと契約するとアクセサリーみたいな物がまとわりつくんやけど、これをどこかに投げてもいつの間にか手元に戻ってくるねん』
「だから無理やり相手から回収することができないっていうことか」
『そういうこと!でも、無理やり契約を破棄させる方法はあるみたいやで。危険やから絶対に教えないって言われたけど』

なんか、茜には色々話してるのに俺には話してないこと多くない?
俺ってそんなに頼りな…いか。何もできねぇもんな。

『話はちょっとだけ聞いてんけど、優星って運命力っていうのが他人より強いらしいやん?だから俺と組んでアーティファクトを回収させるっていうのが、シルフィの理想らしいけど、どうする?』
「え?どうするって、なにが…?」
『アーティファクトを一緒に集めるか?ってこと』
「断れるのか?」
『断れるけど…うーん…』

珍しく茜が言いにくそうにしている。いつもはどんなことでもズバッと言ってくるのに。

「何か断ったらあるのか?その、手伝わないなら殺すとか」
『いや、そういうのはない。俺らがシルフィと協力しなくてもいいとは言われてんねん。でも協力した方が被害が少なくなる気がするねん。ただ…』
「ただ、なにがあるんだよ」
『…優星に負担がかかるから』
「…は?」
『俺らがもしも死んで失敗しても、優星なら記憶を持って過去に飛べるんやろ?それなら上手くいくまで何回も挑戦できるやん?』
「ま、まぁ、俺にそんな能力が本当にあるんならできるな」
『でも、優星は死んだ時の記憶も引き継ぐわけやんか』

あぁ、なるほど。俺の事を心配してるのか。
俺が何回も何回も殺されるかもしれないって、それで壊れるんじゃないのかって。

「…お前ってほんとお人好しだよな?」
『なんでそうなんねん!』
「自分は死にかけたくせに人の心配ばかりしてるところがだよ」

笑ってそう言うと、『別に死にかけてへんし…ただちょっと不意打ち喰らっただけやし…』と言い訳のようなことを言っていた。

「ははっ、茜が言い訳するなんて珍しいな!」
『うっさいわ!次はもう負けん!』
「次はって、戦う気満々なのかよ」
『当たり前やろ。アイツをどうにかせんと、優星の家族が危ないかもしれんやん』
「すぐにそうやって人の心配をする所がお人好しなんだよ」
『うるっさいのぉ!』

そう言い合って笑った。
なんやかんや茜と知り合って一年ちょっと、初めてこんな風に真面目に話し合ってるかもしれない。

「俺も戦うよ」
『アーティファクト持ってないくせに?』
「でも俺には過去に飛ぶ力がある。死んだら何度でもやり直すさ」
『…なぁ』
「なんだ?」
『お嬢だけは、絶対に守ってくれ』
「守るって、それは茜の方が得意だろ?」
『お嬢が死なんような結果だけを掴み取るようにしてくれ。頼む』

今日は茜の初めての部分をよく見るな。
いつもふざけた調子なのに、ちゃんと真面目になれるんだな。

「もちろん」
『ありがと』
「三井のことが好きなのか?」
『あー、そういうのとは違うんやけど…』
「違うのか?」
『…約束したから』
「誰と?」
『お嬢のおじいちゃんと』

三井のおじいさんと約束したっていう理由だけでこんなにも真面目になるのか?きっと他にも理由があるんだろうな。

でも聞けなかった。聞いたら多分答えてくれたんだろうけど、その時は聞けなかった。

ぴんぽーん

一瞬二人ともが無言になった瞬間にインターホンが鳴り響いた。

『ん?今インターホン鳴った?』
「あ、あぁ。こんな時間になんだろう?」
『…何か嫌な予感する』
「は?嫌な予感ってなんだよ」
『わからんけど、何か嫌な気しかせーへん』

茜がそう言っている間にまたインターホンが鳴った。

「な、なんなんだよ。まぁちょっと見てくるよ」
『鍵閉めてでろよ』
「はいはい」

そう言って玄関まで向かい、とりあえずドアに付いている覗き窓を覗いてみた。

ガンッ!

という音が鳴り響いてビックリしたので、反射的に後ろに下がったはずが下がれなかった。

「あ、あれ?」

動けない。なんで?なんでだ?

だが、すぐに謎が解けた。

「あ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!」

目に何かが刺されていて動けなかったんだ。

「あぁ、イイ声。とっっっってもイイ声だわぁ!!!!」
「な、な、な…なんで、お前が…!」

目の前に昼間俺の家に現れたテトと名乗った女がナイフを持っていた。

「これ、抜いたらどうなるのかな?」
「や、やめ…!!!!」

ブシュッ!

という音とともに俺の目に刺されたナイフが引き抜かれた。

「あはっ!綺麗に取れたよ!見てみて!」

俺がナイフを引き抜かれた痛みにより叫んでいると、テトが目玉が刺さっているナイフを俺の目の前に持ってきた。

「な、な…ん…で…!!!!」
「なんでここにいるかって?それは君がイイ声で鳴くだろうなぁって思ったから来たんだ!」
「………!!!!!」

イカれてる。
俺が泣き叫ぶ所を見たいがために来たってことか?
そのためだけに来たのか!?

「ねぇねぇ、今どんな気持ちなの?目がくり抜かれたときってどんな感じだった?気持ちよかった?いきなり右目だけになってもちゃんと前って見れるの?まだ痛い?それとも痛すぎて感覚なくなってきた?ねぇ、他にも色々試したいんだ!付き合ってよ!」

そう言われ、俺は目の前の異常者に好き放題にされた。痛くはない。もう痛みという感覚がわからない。麻痺してきた。さっきまでいた部屋からは茜の大声が聞こえてくる。もうめちゃくちゃだ。テトが何か言っているがわからない。視界も薄れてきた。

だが、最後にテトの言ったことだけははっきりと聞こえた。

「飽きたからもーいーや」

その言葉が頭の中で鳴り響きながら、俺の意識はなくなっていった。

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