高校生達の非日常〜アーティファクトが異世界からきたそうです〜

kurokuro

Episode.2


 茜は救急車に運ばれた。
 重症ではあったが、命に別状はないみたいだ。というよりも、なぜか救急車から三井が出てきて、茜の姿を見つけると救急隊員にすぐさま指示をだし、救急車の中に連れ込んでしまった。

 そのときに三井から「西園君は八重樫君のことを見捨てたんですね」と言われ、睨まれてしまった。

 だって、しょうがないだろ。俺は普通の高校生だ。茜みたいに喧嘩なんて強くないし、何なら誰かを殴ったこともない。平和な生活を送っている一般人なんだ。それに見捨てたんじゃない、茜が逃げろって言っていたから…

 自分に言い訳をしながら家の中に入ると、家族が既にリビングにいた。

 「お兄ちゃん、茜さんは大丈夫だよね…?」
 「…あいつなら大丈夫だろ」
 「そ、そうだよね。お嬢様のボディーガードだし、大丈夫だよね」

 真夏が心配している。茜と仲良さそうだったし、当たり前か。

 真夏の頭を撫でてから自分の部屋に行くと、部屋の中に見知らぬ猫のぬいぐるみがあった。

 「なんだこれ?」
 「なんだとはなによ」
 「…は?」

 ぬいぐるみが喋った。

 「なによ、その顔は」
 「え、いや、だって…」
 「だって?」
 「ぬいぐるみが、喋って…!」
 「そんなことでいちいち驚いてるんじゃないわよ」

 呆れたように言われた。もう今日は何なんだよ…

 「これじゃあ話にならないわね。…はぁ、人選を見誤ったわね」
 「どういうことだよ」
 「アナタがちょっと特殊な体質をしていたから声をかけたのだけど、もういいわ」
 「ま、待ってくれ!」

 どこかへ飛んで行きそうな気がしたから慌てて引き留める。

 「…なによ」
 「色々聞きたいことがある」
 「…はぁ、まぁいいわ。何が聞きたいの?」
 「え、えーと…」

 まさか本当に聞いてくれるとは思わなかったのでテンパってしまった。

 「そ、そうだ!夢の中でみたことが現実でも起きたんだけど、何かわかるか?」
 「はぁ?夢?」

 慌てすぎて意味がわからないことを聞いてしまった。
 だが、それだけで何か通じたのか何か考えているようだ。

 「どんな夢を見たの?」

 俺は夢で見たこと、現実で起きたこと全てを話した。

 「…何か心当たりあるのか?」
 「あるわね。でも言えないの」
 「どうしてだ?」
 「こっちにも事情というものがあるのよ。面倒でクソみたいな大人の事情がね」
 「そ、そうか…」
 「でも、その夢のことなら話せるわ。アナタが見た夢は夢じゃなくて、平行世界で起こった記憶よ。だからアナタが八重樫 茜を家に呼ばなければアナタが見た記憶のようになったでしょうね」
 「待ってくれ!平行世界なんてなんなんだよ!どうして茜のことを知ってるんだ!」
 「平行世界はこことは別の世界っていう認識でいいわよ。茜にはさっき会ったから知ってるだけ」
 「会ったのか?」
 「えぇ、会ったわ。あの子には才能があったから声をかけたの。アナタと違って落ち着いて話を聞いてくれたからとても楽だったわよ」

 茜と話したっていうことは、怪我は問題なさそうだな。よかった。

 「才能ってどういう才能なんだ?」
 「あら、アナタもようやく落ち着いてくれたのかしら?うるさいバカな子供だと思ったけど、混乱してただけなのね」
 「うるせぇな。悪かったよ」
 「別にいいわよ。茜の才能はアーティファクトを扱う才能がありそうだったから声をかけたの」
 「アーティファクト?それってなんなんだ?」
 「簡単に説明すると、契約すれば超能力を使うことができる道具よ」
 「…そんなものが本当にあるのか?」
 「あるわ。というよりも、アタシ達の世界にあったものがこっちの世界に流れてきてしまったみたいなの。だからそれを回収するためにアタシが来たというわけ」
 「この世界とは別の世界があるっていうことか。ていうか、お前名前はなんていうんだ?」
 「そういえば自己紹介がまだだったわね。アタシの名前はシルフィよ。アナタは?」
 「西園 優星だ」

 シルフィが「そっ」と言うと、また何か考え始めてしまった。

 「なぁシルフィ、アーティファクトってもう所持している奴はいるのか?」
 「いるわ。アナタが今日会った女の子もユーザーよ」
 「ユーザー?アーティファクトを持ってる奴らのことをそう呼んでるのか?」
 「そうよ。ていうか茜も契約していたわ。あの子との戦闘中に契約したみたいだったわよ」
 「そんなに簡単に契約なんてできるのか?」
 「もちろん。だって、アーティファクトが自分に適応する人間を探して勝手に契約するんですもの」
 「はぁ!?道具に自我でもあるのか!?」
 「自我というよりも、そういうプログラミングをされていると言えばわかりやすいかしら?」
 「な、なるほど」

 意外とわかりやすい説明をしてくれるから有難い。俺に合わせて例えてくれるし、助かるな。

 「やっぱり一番初めに声をかけたのが茜でよかったわ。優星に会うならこうやって説明してやれって言われてたのよね」

 茜のおかげだった。何から何まで頼りになる奴だ。

 「それで、俺の身体が特殊って言ってたけど、どういう意味なんだ?」
 「アタシは平行世界の過去を見れるの。過去を大幅に変えることができるのは運命力が強い人だけ」
 「俺はその、過去を変えれるほど運命力が強いっていうことか?」
 「そういうこと。茜にはない才能よ」

 茜にできないことか。そう思うと、俺も結構凄いのかもな。

 「でもそうじゃないかもしれない」
 「え?違うのか?」
 「えぇ、あるのよねぇ。そういう強力な力を持つアーティファクトが」
 「でも、俺はアーティファクト何て持ってないぞ?」
 「そうなのよねぇ。でも、微かにアナタの身体からアーティファクトの反応がするからもしかしたら契約してる可能性があるわ」
 「ていうか、いいのか?話せない事情もあるみたいだったけど」
 「あれはアナタがただわめき散らかすだけのバカな子供にしか見えなかったからよ。まぁ言えないこともあるけれど」
 「そうか。悪かったな」
 「茜に感謝するのね。それでまた死んだら茜とアタシに話しなさい。アナタは死ぬと過去に行くはずよ。どれくらい前に戻るかはわからないけれど、もしもアタシや茜の記憶がなかったとしても、さっきまでの事を話したら信用、とまではいかないと思うけれど、話は聞いてくれるはずよ」
 「お前に会ったとき、なんて言えば一発で信じてくれる?」
 「死ぬことが前提みたいに言うのね。そうねぇ、九歳のころにおもらしをしただろって言えば信用してくれるかもね」
 「おねしょしたのか」
 「今ここでぶち殺してやろうかしら?」
 「申し訳ございません」

 軽口を言い合えるぐらいには仲良くなれたと思ってもいいのだろうか?

 「じゃあアタシは帰るわ」
 「え?帰るってどこに?」
 「自分の世界によ。この身体で動くのってまぁまぁ窮屈なのよ。じゃあね、あの女には気をつけなさい」
 「あ、あぁ。じゃあな」

 そう言うと、シルフィの背後に紫色の空間が現れ、その中にシルフィが入るといなくなってしまった。


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