高校生達の非日常〜アーティファクトが異世界からきたそうです〜

kurokuro

Episode.1

「…ん。もう朝か。 さっさと起き…るか…?」

目を覚まし、先程あったことを思い出す。
俺はさっき、見知らぬ女に刺し殺されたはずだ。
なのになんで生きてるんだ…?

「…いや。 あれは夢だったんだ。 でも、妙にリアルだったんだよなぁ」

そう考えながら顔を洗いにいく。ついでにカレンダーを見ると4月29日だった。

なんだよ。やっぱり夢だったんじゃないか。

そんなことより昼飯は何にしよう。そうだ、こんな日は【Fact】で美味しいハンバーグでも食べて気分転換しよう。

顔を洗い終え、服を着替え【Fact】に向かう。

そういえば、夢の中ではこの時間帯ぐらいに変な記事があったっけ? 一応確認してみるか。

スマホをいじり確認してみると、あった。 人が空を飛ぶという動画が載っている記事が。

なんでだ? なんであるんだよ!? あれは夢じゃなかったのか!?

一瞬そう思ったが、偶然だ。と結論付けた。
だってそうだろう? これから俺はご飯を食べて家に帰り、妹と少し電話をしてから実家に帰ってその後は…

いや、やめよう。 これからご飯を食べるのに自分が殺された時のことなんて思い出したくない。

【Fact】に着き、夢の中と同じように三井が注文を聞きに来た。

その時、俺はこれ以上夢の中と同じにしたくなかったので、海老フライ定食を頼んだ。 三井は俺が海老フライ定食を頼んだことが意外だったのか、一瞬驚いたがすぐに厨房の方へと向かった。

待っている間に人が空を飛ぶという動画を見たが、現実的ではなさすぎてCGに見えた。

でも今はそんなことよりも、この後どうするかの方が大事だ。 いったい俺はどうすればいいんだ? もしも夢と同じなら…

「よー! お嬢が気にしてたけど、マジで気分悪そうやな。 なんかあったん?」

その事ばかり考えていると、クラスメイトの八重樫やえがし 茜あかねが料理を持ってきた。

茜という名前は可愛いが、とても頼りになる男だ。 こいつは去年の4月に関西から転校してきて色々あった結果、三井のボディーガードになった。 運動神経がよく、料理も美味くてイケメンだ。 ステータスだけを見るとムカつくが良い友達だ。

三井 沙耶香はこの街のお偉いさんの娘で可愛いくて頭もよくて友人も多く、皆から頼りにされている。あと胸がデカい。

「ほんまにどうした? 何かあったんなら聞くで?」
「いや、わりぃ。 ちょっと考え事してた。 仕事はいいのか? 」
「マスターとお嬢には許可取ってきたから大丈夫! この時間は人も少ないし問題なし!」
「そうか」

そう言って一緒にご飯を食べた。 さっきまでずっとキッチンにおったから腹へっててん! と笑いながら話してくるが、俺は今そんな気分ではなかったので、適当に相槌だけうっていた。

ご飯を食べ終わると、茜が真面目な顔をして聞いてきた。

「それで? 何があったん?」
「…いや、別に何も」
「言いにくいこと?」
「…言っても誰も信じねぇと思う。少なくとも俺なら信じない」
「話してみーや。 俺は信じるかもよ?」
「だから!」

俺は机を叩きながら立ち上がってしまった。 すると店の中にいる数人の客と厨房の方から三井がこちらを見てきた。

「わ、わりぃ…」
「まぁ、大丈夫やろ。 で、少しは落ち着いた?」
「あ、あぁ」
「話してくれる?」
「わかった」

俺は夢の中であったことと、今日あったことを全て話すと茜は真面目な顔をして、「ちょっと待ってて」と言い残し、厨房の方へと言ってしまった。

やっぱり、こんな話信じないよな…

そう思っていると、茜はすぐに戻ってきた。

「よし! とりあえず優星の実家に行くか!」
「え? なんでだ?」
「なんでビックリしてんねん。 だって夢と同じなら家族全員殺されるんやろ? それなら守らないと」
「いや、えっと…本当に信じるのか?」
「他人なら信じない。 でも友達が絶望した顔をしながら相談してきたら信じるやろ」
「…え」
「自分の顔見てみ? 今すぐにでもぶっ倒れそうな顔してるで」
「…まじかよ」
「大マジ」

助けてくれるのか? いや、助けてくれるんだろう。 茜は喧嘩が強い。 喧嘩が強いというだけで三井のボディーガードになるような男だ。 そんな男なら、あんな女すぐに倒してくれるだろう。

「いいのか?」
「当たり前。 俺を誰やと思ってんねん!」
「…脳筋ゴリラ」
「冗談を言えるぐらいにはなったみたいやな! ほら! 早く行くで!」

そう言って伝票を持って行って、お金まで払ってもらってしまった。 なんだよコイツ、性格もイケメンとかカッコよすぎかよ…

俺が女なら間違いなく惚れてるなと確信していると、茜がバイクに乗って目の前にいた。

「ほら、行くで」

ヘルメットを投げ渡してきた。 惚れそう。 全ての動作がカッコよく見えてきた。

茜のバイクの後ろに乗ってから約1時間、実家に着いた。

「ここが優星の実家か。 来るならもっと別の理由で来たかったな」
「俺もそう思ってるよ」

スマホを見ると妹から何件も電話がかかってきていた。 マナーモードにしていて気付かなくて出れなかったが、バイクに乗っていたからしょうがいいだろう。

「とりあえずどうなってるかわからんし中に入れてくれん?」
「あぁ」

そう言ってドアを開けると、妹がいた。

「あ! お兄ちゃん! ねぇなんで電話でてくれないのって…え!? なんで八重樫先輩もいるの!?」
「よー! 真夏ちゃんやっけ? 久しぶりやな!」
「お前ら知り合いだったのか?」
「そうなのー! この間学校で荷物を運んでるときに手伝ってくれたんだ!」

真夏が嬉しそうに話していると、奥から母さんが顔を出てきた。

「あら、優星もう帰ってきてたの? それと、お友達かしら?」
「はい! 八重樫 茜といいます!」
「あらあら、いらっしゃい」
「これよかったらどうぞ!」

などと茜と母さんが話している。 ていうかいつケーキなんて買ったんだ?

「お店で作ったやつなんで美味しいですよ!」

そんな雑談を玄関でしていると、親父まで帰ってきた。

「なにやら楽しそうな声が聞こえると思ったら、玄関でいつまで話してるんだ?」
「たしかにそうね。 ていうかアナタ、その後ろの子は誰かしら?」
「あぁこの子かい? 家の前にいたから話を聞くと、真夏の友達だと言ってたんだよ」

親父の後ろの女の子を見ると、アイツだった。
夢の中で俺達を殺したアイツだ。服装は夢の中と同じ、近くの女子校の制服に間違いない。
ていうか今、真夏の友達って言ったか?

そんなヤツがなんで俺達を…と思って真夏を見ると、首を傾げていた。

「私、他所の高校にまだ友達いないよ?」

真夏がそう言った瞬間、アイツがニタァと笑って、

「バレちゃった☆」

キャハッという効果音がつきそうな笑い方をすると、一瞬でナイフを持ち、親父を刺そうとした。

その瞬間、茜が誰よりも動いていたのかヤツの腹に向かっておもいきり蹴りを放っていた。

ヤツは茜に気付いた瞬間に腕をクロスにしてガードした。 だが勢いを殺しきれなかったのか、玄関のドアに背中から激突していた。

その隙に茜は親父を後ろに下げ、自分は前に出ていた。

「いたいなぁ、こんなに可愛くてか弱い女の子に向かって蹴るってさいてー!」
「あ? ナイフ持ってるやつに誰が気をつかうねん。 ていうか、お前誰やねん」
「アタシ? アタシは…そうだなぁ、テトって名乗ることにするよ! いい名前でしょ? あはははは!」

あ、茜がすごい睨んでる。

「おにいさんは、三井 沙耶香のボディーガードだよね? なんでこんな所にいるのかな?」
「遊びに来ただけや」
「ダウト」

茜が言った瞬間にテトと名乗った女は断言した。

「なんで嘘と思うんや?」
「逆になんでそんな嘘がバレないと思ったの?」
「そんなんお前がバカそうやからに決まってるやん」
「…」

テトは凄く怖い顔をして茜を睨んでる。怖い。あれがよくアニメとかで見る殺気を放っているというやつなんだろう。

真夏を見ると震えていた。母さんも、親父も、俺も皆震えている。

そんな中、茜だけが震えていなかった。

「優星、早く逃げろ。 怪我するぞ」

茜がそう言った瞬間にテトが飛びかかっていった。

「ま、真夏! 母さんと親父も早く逃げるぞ!」
「え、お、お兄ちゃん?」
「はやく!」

真夏の手を引っ張ると母さんと親父も付いてきてくれた。

一戸建ての家で助かった。
俺達家族は全員庭に出て普通に逃げれた。
もしもマンションなら、玄関で戦われたら俺達は逃げられなかっただろう。

「ね、ねぇ真夏? あの子は誰なの?」

母さんが真夏に聞いているが、真夏は「しらない、しらない」としか言わない。 真夏も混乱しているんだろう。 目の前で親父が刺されそうになったんだ。 高一の女の子ならこれが普通の反応だ。 しょうがない。

「母さん、真夏は本当に知らないと思うよ」
「なんで優星はわかるの!? お父さんが刺されそうになったのに、なんでそんなに冷静なの!? もしかして貴方が…!」
「いい加減にしないか!」

普段は大きな声を出さない親父が母さんを止め、俺の方を向いて冷静に聞いた。

「優星、あれはお前の知り合いか?」
「そんな訳ないだろ」
「そうか」

親父はそう言ってスマホを取り出し、警察に電話をした。

すると、数分後にはパトカーが来た。
パトカーが来たのがわかったので、家まで戻り、親父が警察官の人に話をし始めた。

茜はどうなったんだ? 生きてるよな? アイツが死ぬなんてこと…ないよな?

そう願いながら待つとすぐに出てきた。
ボロボロになった姿で。

茜の姿は酷かった。 服は破れ、腕や顔に切り傷が付いており、いたるところに血もベッタリと付いている。 お腹辺りも裂かれているのがチラッと見えた。

その姿を見てしまったので、思わず茜に近付いた。

「あ、茜!」
「ごめん。 逃がした」

そう言って茜は、倒れてしまった。


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