帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~

北きつね

第三十七話 襲撃


 ユウキとリチャードは、建物の入口で椅子に座っている。
 建物の中では、マイとロレッタが準備を行っている。

 これから、4人で次の作戦を実行する。骨子を考えたのは、ユウキだがいやがらせの部分で日本に居るメンバーも手伝ってくれている。

 そして・・・。

 ユウキが持っているスマホに着信がある。ユウキは、着信した番号を見て、”にやり”と子供に似合わない表情をする。リチャードは、この表情を見るのが好きだ。ユウキが活き活きとしているのがわかる。リチャードだけではなく、皆がユウキを頼りにして、ユウキを守ろうとして、ユウキに助けられている。

『ユウキ様』

「ベストタイミングだ」

『ありがとうございます。ご報告いたします』

「頼む」

 ユウキは、スマホをスピーカー出力に変更して、リチャードにも聞かせる。
 電話の相手は、交渉の結果、ユウキたちとの連絡係になっているミケールだ。少女エアリスを癒した件とは別に、ユウキたちは少女の父親と交渉を行って、地球に持ってくるとグレーな素材を取引として提供した。ユウキたちが得たのは、少女の父親が持つ人脈への接続だ。

 ミケールからの報告は”簡潔”という言葉は、ミケールのためにあるのではないかと思えるほどに、簡単だ。しかし、必要な情報がユウキとリチャードに伝えられた。

『以上です。追加のご依頼は?』

「依頼の前に、奴らの集まっている場所は解るか?」

 リチャードの問いかけに、ミケールは少しだけ考えてから、位置情報を送信してきた。

『本部の位置です。地下に神殿があります』

「わかった。助かる」

『明後日・・・。正確には、明日ですが、神殿で集まりがあるようです。例の物を持つ者への襲撃計画が立てられるようです』

「助かる。正確な時間は解るか?」

『もうしわけございません。直前に知らされる方式です』

 ユウキは、首を傾げて、考える。
 直前で知らせる方式だとしても、場所が”神殿”だと決まっているのなら、あまり意味があるとは思えない。多分、集まる者たちに権威を見せつけるためのデモンストレーションの意味しかないだろう。
 襲撃を躱す目的なら、場所と日時を別々の方法で直前に知らせないと意味がない。

 ユウキたちが重要な会議を行う時に、行っていた方法だ。

 ミケールとの通話を切ってから、リチャードはユウキに頭を下げようとするが、ユウキが肩を押さえて頭を下げさせないようにする。

「リチャード。必要ない。俺の時にも手伝ってもらう」

「当然だ。でも・・・」

「”でも”じゃない。リチャード。まだまだ足りない。だから、手伝ってくれ」

「わかった」

「それに・・・」

「ん?」

「まだ作戦前だ」

 ユウキの言葉で、リチャードは作戦の前だが、作戦が失敗するとは考えていない自分に驚いて、笑い出してしまった。

 リチャードが笑い出したタイミングで、準備を終えたロレッタとヒナが姿を表す。

「ユウキ。リチャードが壊れているけど、何があったの?」

 ロレッタの容赦のない言葉に、ユウキは少しだけ頬を引き攣らせさながら、ミケールから連絡があって、”作戦の結構日時が決定した”とだけ伝えた。

「ユウキ。リチャード。作戦も大事だけど、何かセリフを忘れていない?」

 マイがニヤニヤしながら、ロレッタをリチャードの前に押し出す。自分も、同じような格好だが、リチャードからの言葉はロレッタが最初に受けるべきだと考えている。

 ユウキとリチャードの二人は、お互いの顔を見てから頷いて、ロレッタの姿を褒める。

 ユウキたちの作戦は、すごく簡単だ。
 宗教団体の神殿を強襲する。

 ミケールには、宗教団体が欲しがっていた物を掘り出した者が居るという情報を流してもらった。

 主教団体が欲しがった物は、リチャードたちの教会の地下に黙って埋めた。住民から集めた資金や権利書や契約書だ。特に、土地の権利書を宗教団体は欲していた。権利書があれば、リチャードたちの故郷を、宗教団体の総本山に作り変えることができる。
 リチャードたちの故郷は、東西と南北にそれぞれ街道が伸びていて、本来なら交通の要所になっていても不思議ではない場所だ。
 ゴーストタウンになってしまっているために、誰も泊まることはなかったが、ここに宗教団体の総本山ができ、交通の要所としての機能が持たせられれば、資金的なメリットだけではなく、地域を押さえる事も夢ではない。
 宗教団体は、教会を建築してから時間をかけて実効支配する方法もあったのだが、短絡的な方法を採用した。

 ユウキとリチャードも服を着替える。
 子供らしい服装に着替える。ロレッタとマイは、レナートの貴族が着るような服装をしている。簡単に言えば、ロレッタとマイが囮役だ。最初は、リチャードが囮役をやる予定だったが、囮役になりそうもないことや、その場で我慢ができなくなる可能性を考慮して、ロレッタが囮役となった。ロレッタだけでは、安心が出来なかったリチャードが、マイをロレッタと一緒に居るように頼んだ。

「移動しよう。マイ。ロレッタ。わざとらしい荷物を頼む」

 二人は、リチャードからバッグを受け取った。
 書類が入る大きさで、餌に使う予定にしている物だ。バッグの中身は、鍵がかかった書類ケースが入っている。書類ケースの中身はダミーだが、ケースには工夫がされている。ユウキたちが作った渾身のケースだ。

 二人の情報は、すでに宗教団体も得ている。
 ミケールから得た情報から、二人が出没するポイントに移動を行う。街はずれの寂れたモーテルだ。マイとロレッタは、そこで休んでから、州の定める場所に赴いて、所定の手続きをする予定になっている。と、いう情報を流している。二人が行う所定の手続きは、宗教団体としては絶対に阻止しなければならない物だ。
 自分たちの不正の記録ではないが、土地を得ることを前提に、すでに資本家などに話をしてしまっている。
 その土地が、他の人間が正式な手続きを行うのは、阻止しなければならない。

 二人が、部屋に入ったことを確認して、ユウキはリチャードを連れて、二人の部屋に侵入する。
 そして、二人を連れて、一度レナートに転移を行った。部屋には、無数のカメラを設置して、配信を行っている。有名動画サイトだけではなく、考えられるサイトすべてだ。配信開始は、ユウキのスキルで作成している。カメラも隠蔽を施している。部屋のテーブルには、書類ケースとバッグが置かれている。罠だと思っても確認しなければならないだろう。

 ユウキたちが転移してから10分後に、部屋の灯りが消えた。
 それから、さらに30分の時間が経過した時に、扉のある場所から大きな破裂音がした。

 リチャードの予想通りの襲撃が行われた。
 扉を破壊して入ってくる。その過程で、なぜかベッドが持ち上がって、反対側の壁に押しやられる。寝ていた二人は、ベッドの下敷きになってしまっている。丁寧に、血のような物まで床に流れ出ている。もちろん、ユウキたちが作ったフェイクだが、扉を破壊して入ってくるような輩は自分たちの成功を信じて疑わない。そのために、不自然に机の上に書類ケースがあっても疑いもせずに近づいて、開けようとする。

 鍵がかかっている書類ケースを持ち上げようとするが、近くにあったバッグを見て、バッグに手を賭ける。
 バッグには、1,000ドル程度の現金が入っている。襲撃者たちは、紙幣を乱暴に自分のポケットにねじり込んでから、書類ケースの解除に乗り出す。ここで行う必要は無いのが、書類ケースの中身を上層部が欲しがっているのを知っていて、中身を確認するという言い訳で、自らの手柄にしようと考えていた。また、バッグの中に1,000ドルもの現金が入っていたのだから、もっと重要な書類ケースには、それ以上のお宝があると勝手に想像している。

 もちろん、その様子は動画で配信されている。
 音声も流れている。音声には、宗教団体の名前がはっきりと入ってしまっていた。

「帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く