帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~

北きつね

【第一章 勇者の帰還】第一話 レナート王国


 ユウキが転移に使った魔法陣が消えてから、勇者たちは移動を開始した。

 王城の離れにある勇者たちの荷物が置かれている屋敷だ。
 舞踏会が行われる場所だったのだが、勇者たちに与えられて、改良して今は40人ほどが一度に会議ができる場所になっている。

 座る場所も決まっている。
 上座には、サトシが座る。マイとセシリアが両脇を挟む格好になる。

 サトシは、正面にある空席を見つめる。誰もが、座りたがらなかったサトシの正面は、ユウキの席だ。

 29名で、レナート王国に流れ着いてから、誰一人として欠けなかったのは、皆の能力が高かったこともあるが、ユウキの存在が大きかったと皆が考えていた。

「さて・・・」

 皆が座って、勇者たちの前に飲み物が置かれたのを確認して、サトシが喋りだした。場を仕切るつもりのようだ。

「・・・」

 いつもは、ユウキが仕切っていたので、いざ自分が仕切ろうと思うと、言葉が出てこない。
 それだけではなく、オロオロし始めた。勇者たちは、そんなサトシを面白そうに眺めている。

「サトシ!しっかりしろよ!未来の国王なのだからな!」

「うるせぇ!それなら、リチャード!お前が国王をやれよ。喜んで、玉座を渡すぞ!軍部を使ってクーデターを興せよ」

「やだね。そんな面倒なことはしたくない。それに、俺は地球でやることがある!将軍にも伝えている」

「くっ」

「リチャード様。サトシ様をあまりからかわないでください。本当に、即位を断念してしまうかもしれません」

「あぁ・・・。すまん」

 リチャードは、話に割って入ったセシリアに謝罪の意味を込めて頭を下げた。

「それで、サトシ。どうするの?」

「どうする?」

「え?何も考えていなかったの?マイ!」

 リチャードの隣に居た、ロレッタがサトシに今後の話を決めてほしかったのだが、サトシの反応は皆が求めていたものではなかった。

「ロレッタ様。私から、ご報告があります」

 サトシがポンコツなのは、皆が解っていたことだが、ユウキがいないだけで、ここまで落差がひどくなるのか・・・。セシリアもマイも、わかっていたことだ。そして、ユウキが居ないところで、セシリアとマイは決めたことがある、”ユウキには、アメリアと結婚してもらって、公爵の地位を与えて、サトシが即位するときには、宰相になってもらう”。セシリアとマイだけではなく、勇者たちの共通認識になりつつあった。

 ロレッタが語ったのは、レナート王国の置かれている情勢だ。

「セシリア。今の話だと、スパイは排除できたのだな?」

「はい。軍に食い込んでいた者たちは、排除が完了しました。残っていたのは、商人とギルド関係だけですが、それらも数日中には排除が完了します」

「それはよかった」

 貴族たちは、勇者たちがレナート王国に身を寄せた時に、粛清の嵐が吹き荒れた。
 陛下たちの王族派閥が、勇者たちに賭けて、勝負に勝ったのだ。王国から、大国にすり寄っていた貴族や教会勢力に毒されていた貴族は一掃された。

 貴族から情報を得られなくなった者たちは、商人やギルドを使って情報を得ようと考えた。
 実行してみても、勇者たちのどうでもいい情報だけが流れてきた。それも、大事な情報のように偽装されていた。マイの考えが実行されたのだ、まったく情報が得られなければ、ムキになって情報を得ようとするが、勇者の情報を得られたのなら、それだけで”よし”として報告に戻るのではないかと考えた。
 偽装された情報を紛れ込ませることで、大事な情報を隠すことにしたのだ。

「しっかりと踊ってくれました。特に、教会の関係者の狼狽は・・・」

「セシリアも、悪いね」「違いない」

「はい。マイ様。サンドラ様。レナート王国は、悪人と無礼者の集まりです」

「ハハハ。そうね。これから、自国のことだけ考えて行動するのだし、間違っていないわね」

「はい。それで手始めに、”魔の森”の開拓を始めようと思っています」

「ん?でも、それは、ユウキの領地だよね?」

 マイの素朴な疑問だ。ユウキの領地を、王家が主動で開拓してはダメだ。

「はい。なので、公爵となる、アメリアが主動します」

「あっ・・・。そうか、それなら・・・・。ユウキが帰ってきたときの顔が楽しみね」

「はい。実際には、将軍や皆様のお力をお借りしたいとは思いますが、アメリアが”公爵家当主代行”としての初めての仕事です」

 勇者たちは空席になっている場所を見て、ユウキに心のなかで手を合せた。

「セシリア。”魔の森”は、それでいいとしても、山側への対応はしなければダメだろう?」

「はい。フェルテ様。ユウキ様からご提案があった、櫓を立てて、情報を伝える方法が間もなく完成いたします」

「そうか、念話も万能ではないからな。転移も慌てると失敗する可能性があるからな」

「はい。”魔の森”方面から攻め込まれる可能性も考慮していますが・・・」

「それは、考えなくていいだろう。海側も大丈夫だよな?」

 皆の視線が一人の勇者に集まる。

「うん。僕の可愛いペットたちが守っているよ」

 答えたのは勇者の一人である。アリスだ。”ボクっ娘”だがドイツ人の血が入っている日本人だ。
 テイマーで、リヴァイアサンをテイムしている。レナート王国に隣接する海を守らせている。守護させていると言ってもいい。

「それで、アリス。リヴァイアサンが戦い始めたら解るのだよな?」

「うん。すぐに連絡がくるよ。それに、近くにはフェンとライブが居る」

「セシリア。そうなると、谷だけだな」

「はい。でも、その谷も攻略は難しいのですよね?」

 また別の勇者に視線が集中する。

「あぁ本来なら、ユウキが説明すべきだろうが、奴が居ない・・・。それに、サトシは説明ができないだろう?」

「できる・・・。いや・・・。エリク、頼む」

「はい。はい。セシリアは、どこまでユウキに聞いた?」

「谷が続いている道があり、左右に兵を配置すれば、迎撃が簡単だと教えられました。そのために、敵兵が来る前に陣地を構築する必要があり、物見櫓を建築したほうがよいと教えられました。それから、伝令の練習をやっておくように言われました」

「現地を見たことは?」

「ありません」

「そうか、基本は、ユウキから説明を受けているようだ・・・」

 エリクがそこで言葉を切った。

「え?」

「ユウキは、俺たちに・・・。そうだ。ヒナ。地図は出せるか?」

「谷の?」

「いや、草原だ」

「あっ・・・。うん。マイが地図を持っていると思う」

 マイが、しょうがないという雰囲気で、アイテムボックから大きく書かれた地図を取り出す。

「エリク様。これは?」

「谷の先に広がる草原の地図だ」

「え?」

 マイが取り出して見せた地図は、どう見ても草原には見えない。セシリアが驚くのも無理はない。

「エリク様。草原だった場所ですか?」

「そうだ」

「草原が、沼地に変わってしまったと?それも、まばらにある城壁は?敵が身体を隠して進軍できるのでは?それに、大外を回ればいいのでは?」

「あぁ・・・。この沼地は、嫌がらせだ」

「嫌がらせ?」

「そうだ、意味がありそうに作ってある城壁も、中級魔法で壊れる程度だ。でも、沼は深い場所もあるから、慎重に進まないとだめだ」

「外回りは?」

「ん?何もしていない。待ち伏せを気にして、進軍を避けるだろう?沼との間に思わせぶりな城壁もあるからな」

「マイ様?」

 セシリアは、理解できない。
 ただの嫌がらせのために、草原を沼に変えるという考えが・・・。

 マイは、セシリアに名前を呼ばれたが、自分では何も答えられないと解っているので、肩をすくめるだけだ。
 ユウキにも、ユウキなりの考えがある。沼にしたのは、休む場所を作らせないためだ。谷に入る前の場所で待機場所を作らせたら、最悪の戦略を取られる可能性がある。谷は、レナート王国に有利な場所だが、戦えば死者を”0”にできるわけではない。単純に、数の暴力に出られたときに対処ができなくなる未来があるのだ。そのために、数で押し切るという戦略を取らせないために、草原を決戦場所にしているように思わせる考えなのだ。
 それだけではなく、食料を沼地で保管しておくことはできない。勇者の中には、アイテムボックを持っている者も居るが、レナート王国以外の国が勇者を信頼している様子はない。もし、勇者が兵站を担っているのなら、積極的に狙えばいいだけと考えている。

「・・・。わかりました。谷方面も安全になっているのですね」

 セシリアは、疲れたように呟くだけだった。
 しかし、本当の会議はこれから始まるのだった。

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