帰還した召喚勇者の憂鬱 ~ 復讐を嗜むには、俺は幼すぎるのか? ~

北きつね

第二話 帰還(前)


 サトシたちは、身を寄せている小国レナートに転移した。
 勇者のスキルだ。サトシやユウキは、”ル○ラ”と呼んでいるが、内容は違っている、一度マーキングした地点に戻ることができるのだ。スキルに込める魔力で、同時に移動できる範囲が変わってくる。

「サトシ様!」

 転移のマーキングしてあったのが、王宮にある庭園だ。

 王宮から一人の女性が勇者たちに駆け寄ってくる。サトシの名前を読んで駆け寄ってくる女性を見た、勇者の一人がサトシの前に立ちはだかる。

「なんですか?マイ様!私は、私の婚約者であり、未来の王であるサトシ様に抱き・・・。ご挨拶をしたいと思ったのです」

「セシリア様。何度も言っていますが、第一夫人は私です!セシリア様もご納得いただきましたよね?」

「はい。マイ様が第一夫人で、私が第二夫人です。妾は3人まで、夫人は第三夫人までと・・・。決めました」

 言い争いを続ける。マイとセシリアを横目に、サトシはユウキに話しかける。

「ユウキ・・・」

「お前の自業自得だ」

 他の勇者たちも、笑い声を抑えるのに必死だ。
 セシリアは、金髪を腰まで伸ばしている。小柄だが、顔立ちがはっきりしている。古い人なら、日本の歌番組を”ぶっち”したロシアのデュオの背の高い方を金髪にした感じといえば、解ったような気がするかもしれない。ちなみに、マイも日本人とは思えない顔立ちをした可愛い系だ。アイドルグループのセンターだと言っても信じてもらえると思える。セシリアとマイの身長は同じくらいだが、ある一部が大きく違っている。年齢を考えると、セシリアの圧勝なのだろう。どことは言わないが、セシリアが圧倒的な大きさを誇っている。二人の性格は、外に向ける表情は猫の皮を何重にも着込んでいるが、身内だけになると野生のトラが裸足で逃げ出す感じだ。それが解っている勇者たちは、二人のやり取りを”生暖かい”視線で眺めるだけだ。

「サトシ!マイ!セシリアも、俺たちは疲れているし、事前の情報が正しければ、そろそろ問題が出てくるだろう?」

「あっそうでした。リチャード様。まさに、10分ほど前に、ケープロードでゴブリンが発見されました。魔境側については・・・」

「姫様!」

 騎士が一人、セシリアの近くまで駆け寄りひざまずいた。
 勇者たちが教えた、暗号文で記述された報告書だ。

「皆様」

 セシリアは、勇者たちを見回して、一呼吸の間を入れる。

「皆様。予想通り、魔物の集団が魔境から、我が国に迫っておりました」

 勇者たちの表情は先程までの生暖かい表情から、戦いに行く前の表情に戻る。

「しかし、皆様が築いていただいた、堀と壁を突破できずに・・・。全滅しました」

「「「おぉぉ」」」

 勇者たちが主動した小国の防御を行うための施策が成功したのだ。
 深い堀を作り、石壁で入り口を封鎖する。それだけではなく、堀には養殖したスライムを大量に放ってある。石壁の形も工夫している。せり上がっているのは当然として、五稜郭のような形状になっている。どこから魔物が来ても、最低限2箇所から攻撃ができるように工夫されている。空を飛ぶ魔物も居るが、長距離の飛行ができる物は多くない。そのために、バリスタを壁の上部に配置することで対応した。

「そして、オーブの回収も行っています」

「それで?」

「はい。取り決め通りにしたいと思いますが、よろしいですか?ユウキ様」

「あぁ問題はない。問題は、なぜセリシアが俺に許可を求めてくるのか不明なことだ」

「ユウキ様が、仕切っていらっしゃるのでしょ?それに、未来の義弟ですし、間違いではありません」

「セリシア。それは断ったはずだが?」

「はい。ですが、ユウキ様も、アメリアが嫌いではないのでしょ?」

 ユウキは、苦虫を噛み潰したような表情をした。自分を慕ってくれているアメリアが”嫌い”ではない。しかし、ユウキにはやりたいこと・・・。いや、ユウキがユウキであるために、精算しなければ、ダメなことがある。そのために、”帰る”方法を探したのだ。

 ユウキが黙っていると、サトシがマイを引き連れてやってきた。

「セシリア。ユウキには、実行したいことがある」

「そうよ!私とサトシ・・・。だけじゃないけど、不服なの?」

「いえ、マイ様。ユウキ様が帰還されると聞いてから、アメリアが・・・」

「それは、”すまん”としか言いようがない」

「わかっています。解っていますが・・・」

 セシリアのなんとも言えない表情を見て、ユウキは心が悲鳴を上げているのがわかった。

「セシリア。アメリアに伝えてくれ、俺はやるべきことが終わったら戻ってくる。今は、それだけしか約束できない」

「・・・・。ありがとうございます。ユウキ様。マイ様」

 セシリアは、マイがユウキに目線で訴えていたのを感じていたのだ。
 ユウキとサトシとマイは、小学校の頃から同じ児童養護施設で育った。サトシとマイは、両親を事故でなくしている。

「それで、ユウキ様。オーブはどうしますか?」

「そうですね。未知の物はありましたか?」

「残念ながら」

「それなら、取り決め通りでお願いします」

「あっ!一つだけ、未知の物がありました。ですが、マイ様のスキルと同じ名前のオーブでしたので・・・」

「わかりました。鑑定でも、同じ物だと判断されたのですよね?」

「はい。以前に、ユウキ様から頂いた資料のままです」

「それでしたら、大丈夫です」

 ユウキは予めある程度の情報は開示していた。
 全てではない。個人が持っているスキルは”奥の手”となり開示をしない場合が多い。しかし、交渉で必要ななる場合も多い物は開示しているのだ。使っているところを見られると問題になるスキルも開示してある。マイの”転移”も開示していた。

「セシリア様。陛下が、ユウキ様をお待ちです」

 報告を持ってきた騎士がセシリアとユウキを見て、陛下が待っていると伝えてきた。

「俺?サトシじゃないのか?」

「はい。ユウキ様です。お父様は、ユウキ様からご報告をお受けしたいと・・・。各国への連絡をしておきたいと・・・」

「わかった。でも、サトシが適任・・・」

 ユウキは、サトシを見ながら言いかけたが、皆が首を横に振る。

 マイが、ユウキの肩を軽く叩く。

「ユウキ。サトシにできると思う。戦いの報告をさせたら、『”ばぁー”と魔物が来て、俺が”ざっ”と聖剣を抜いたら、”ずしゃぁ”と当たって、”バリバリ”と倒れた』と、報告するやつよ」

「悪い。マイ。解った、行ってくる。セシリア。陛下は、いつもの場所か?」

「お義父と呼べば喜びますよ?」

「セ・シ・リ・ア?」

「はい。はい。今日は、玉座にお願いします」

「え?わかった。俺だけでいいのか?」

「はい。できれば、リチャード様やフェルテ様や、帰還されるかた全員でお願いします」

 ユウキは、後ろを振り返ると、指定された者たちが首を横に振って居る。
 大きく息を吐きだして、ユウキも首を振る。

「わかった。俺が話をしてくる、セシリア。それでいいよな?サトシ・・・、は、無理だな。マイ。皆をまとめてくれ」

「わかったわ。ほら、サトシ。行くわよ。セシリア。ユウキをお願いね」

「かしこまりました。マイ様」

 サトシが絡まないことには本当に姉妹のように仲がいい二人だ。違うな。サトシのことを含めて仲がいい二人だ。城の寝室はすでに3人で一緒に寝ている。公然の秘密だ。最初は、サトシが一人で寝ていたところに、深夜に忍び込もうとした二人がかち合った。そこから、二人は共闘して、サトシを落としにかかった。ユウキも、何度も協力して、サトシの気持ちを確認したり、3人だけになるように調整したり、本当にいろいろ苦労させられた。

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