祖国奪還

ポリ 外丸

第50話 大爆発


「ハッ!!」

「……?」「何やってんだ?」

 右手を向け、司は気合いのこもった声を上げる。
 何か魔法による攻撃を仕掛けてくるのかと思い、司へ攻撃していた帝国兵たちは身構えていた。
 しかし、何か飛んでくる気配もないため、拍子抜けした感は否めない。
 この姿を見ただけでは、伸が何をしているのか分からないのだろう。

“ビー!! ビー!!”

「っ!?」

「何だ!?」

 司へと攻撃をしている兵たちから離れた場所。
 複合魔法を放つため、装置に魔力を供給していた兵たちに異変が起きていた。
 多くの兵の魔力を集めることで、発射できるだけに充分な魔力が供給されていた。
 後は発射をするだけという所だったのだが、急に装置から警戒音が鳴り響いたのだ。
 何が起きているのか分からず、兵たちは慌てて装置の確認作業に入った。

「そ、装置の目盛りが……」

 何の警戒音なのかと思って調べてみると、その原因はすぐに分かった。
 大量の魔力を集めることによって、強力な魔力砲が放てる複合魔法装置。 
 いくら大量の魔力を溜め込むことができるからと言って、当然無限ではない。
 どれほどの魔力を溜め込めるかというのはきちんと検証されていて、限界値を示す目盛りが搭載されている。
 警戒音がなった原因。
 それはその限界値を越えて、魔力が供給されていることによるものだった。

「バカな!! 魔力供給はしていないのに……」

 装置を確認した兵の1人が、驚きの声を上げる。
 何故なら、彼が言うように装置にはもう魔力を供給していないからだ。
 それなのに、魔力が供給され続けているように、限界値を越えて目盛りが上がっていっている。

「故障か!?」

「何にしても、このままでは……」

 魔力を供給していないのに目盛りが上昇し続けているなんて、考えられるのは装置の故障くらいのものだ。
 警戒音が鳴り響くなか、装置に付いているコンソールを色々と操作してみるが、全くと言って良い程変化が起きない。
 そうしている間にも、目盛りがどんどんと上がっていった。

「「「「「ヒーーー!!」」」」」

 このまま上昇し続ければ、溜め込んだ魔力を抑えきれず装置が暴発を起こしかねない。
 これだけの魔力が暴発すれば、この付近にいる兵たちは跡形もなく吹き飛んでしまう。
 そうなると考えた兵たちは恐慌状態に陥いり、蜂の子を散らすように装置から距離を取り始めた。

“ビーーーーー!!”

「限か……」

 警戒音が断続音から継続音へと変化する。
 装置の魔力を抑える限界が来たのだ。
 逃げる兵士の1人がそのことに気付いて声を漏らすが、最後まで言葉にすることはできなかった。
 暴発した魔力に、あっという間に呑み込まれたからだ。

“ドーーーーン!!”

 強烈な光を放ったと思うと、次の瞬間には大爆発が巻き起こる。
 爆発による強風により、せっかく司が作りだしたスケルトンたちは、何体も吹き飛ばされて破壊されてしまった。

「……何だ? 何なんだ!?」

「何が起きたんだ!?」

 爆発音に驚き、咄嗟に身を屈めることで爆風に耐えたベニアミーノとカルメーロは、何が起きたのか理解できないでいた。
 彼らは司とスケルトンの相手をしていたため、複合魔法の方は部下に任せていた。
 そのため、爆発が起きるまで何が起きていたのか分からなかったのだ。
 複合魔法によって起死回生の一撃を狙っていたというのに、どうしてこのようなことになったのか、2人は混乱するばかりだ。

「お前たちは攻撃を継続してくれ!!」

「分かった!!」

 まだ司との戦闘は継続中。
 攻撃の手を止めてしまえば、一気に反撃を受けることになりかねない。
 状況を確認するために、ベニアミーノは爆発が起きた場所へ向かうことを決める。
 その間、カルメーロにこの場の指揮を任せることにした。
 先程の爆風によって、身の軽いスケルトンはほとんど吹き飛ばされて数が減っている分、司への攻撃に集中できる。
 そのため、カルメーロはベニアミーノの言葉に返事した。
 その返事を受けたベニアミーノは、数名の部下と共にすぐさま移動を開始した。





「……な、なんだこれは……」

 ベニアミーノが爆心地に到着すると、複合魔法の装置どころか何もかもが吹き飛んでおり、巨大なクレーターができ上がっていた。
 あまりの状況に、ベニアミーノは唖然として立ち尽くすことしかできないでいた。

「せ、生存者は!? 生存者を捜索しろ!!」

「「「「「ハ、ハッ!!」」」」」

 いつまでも立ち尽くしている訳にはいかない。
 すぐにそのことに気付いたベニアミーノは、ここで何が起きたのかを確認するために、連れてきた数名の部下に生存者の捜索を指示する。
 ベニアミーノと同じく唖然としていた部下たちも、その指示によって状況を思いだし、すぐさま生存者の捜索を開始した。

「ベニアミーノ様!! 生存者がいました!!」

「っ!! よしっ!」

 ベニアミーノ自身も動き、生存者捜索に駆け回る。
 そうしているうちに、ようやく生存者を発見したらしく、1人の兵が大声を上げた。
 少しでも状況確認をするために、ベニアミーノはその生存者の方へと駆け寄った。

「おいっ! ここで何が起きた!?」

「そ、装置が……、原因…不明の…誤作動……、暴発…を起こし…ました……」

「何だと……? おいっ! おいっ!」

 生存者と言っても、両足を失い、体中が傷だらけの状態だった。
 大量の失血をしており、もう長くないことが容易に想像できる。
 しかし、そんな事を気にしている状況ではないため、駆け寄ったベニアミーノは質問を投げかける。
 それに対し、生存兵は息も絶え絶え返答し、言い終わるとそのまま息を引き取ってしまった。
 何が起きたのかは理解したが、あくまでも僅かな情報でしかないため、まだ聞きたいことがある。
 他に生存者が見つかるかも分からないため、ベニアミーノは目を閉じて動かなくなった兵に何度も声をかける。
 その声に反応する訳もなく、結局ベニアミーノは、装置が原因不明の誤作動で暴発したということしか理解できなかった。

「………………」

「……ど、どういたしましょう?」

 動かなくなってしまった兵をそのままに、ベニアミーノは立ち尽くす。
 複合魔法によって勝利を引き寄せるはずが、逆に自分たちを破滅に導いた結果になってしまった。
 これで残っている兵は3分の1にも満たない。
 まだ未知数の実力を有する司を相手にするのは、とてもではないが勝機が見込めない。
 どうするべきかと悩んでいる所で、部下の兵がベニアミーノに話しかけて来た。

「……逃げよう」

「…………えっ?」

 部下の問いを受けて、ベニアミーノは決断する。
 最低の決断を、だ。


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