祖国奪還
第41話 召喚
「ジャック・オー・ランタンの対策もしてきたか……」
魔法師団の魔法と大量のバリスタによって、多くのスケルトンとジャック・オー・ランタンが破壊されて行く。
スケルトンだけでは二度目の防壁攻略は難しく、ジャック・オー・ランタンにも攻撃を開始させたのだが、これではこちらの戦力が減るばかりだ。
司のこれまでの動きから、しっかり対策が立てられているのが窺えた。
「このままではきついかもな……」
大量のアンデッドたちにより、いつかは防壁の突破は叶うはずだ。
しかし、防壁内に侵入できた頃には、待ち受けているであろう帝国兵を相手に苦戦することは間違いない。
そう考えた司は、これからどうするべきかを思案し始めた。
「面倒ですね。防壁から攻撃してるのは、またしても大和の者のようですし」
「イラつくな」
ファウストが言うように、相変わらず帝国側の最前線に立たされているのは奴隷にされた大和国民だ。
命令されて拒否することもできず、ペース配分など考えていないような戦い方だ。
司は、その姿が異様にイラつく。
自分も昔は同じ立場だったからかもしれない。
当然、命令されている奴隷の彼らではなく、帝国の連中への怒りだ。
「司さま。私が動くことをお許しいただけますか?」
「防壁の門を攻略できるのか?」
「お任せください」
こちらの兵数が減るという懸念はあるが、このままでも防壁を突破することはできる。
待ち受ける帝国兵のことは、司にはやりようがある。
なので、このまま静観する選択を取ろうとした。
そんな司に、ファウストは自分が動くこと進言してきた。
「……じゃあ、任せる」
「ありがとうございます」
確認のために自信の程を窺うと、力強い目をしていた。
そのため、司はその進言を受け入れることにした。
進言を受け入れられたファウストは、感謝の一礼をして行動をおこすことにした。
「ハー……、ムンッ!!」
司から少し距離を取ると、ファウストは魔力を練り始める。
そして、その魔力により、地面に魔法陣を作り出した。
「ギギッ!」
魔法陣から現れたのは、一匹の蟻の魔物。
その蟻は、ファウストの指示を待つようにその場から動かない。
「あの門を破壊しろ!」
「ギギッ!!」
その蟻に対し、ファウストは鋼鉄の門を指差して指示を出す。
破壊するのは不可能な程強固な門に見えるが、その指示を受けた蟻はファウストへ返事をすると門へ向けて動き出した。
「ギギーー!!」
攻め入るスケルトンたちの後方で立ち止まった先程の蟻は、大きな鳴き声を上げた。
その鳴き声が響き渡りしばらくすると、地響きのような物がなり始めた。
「……何だ?」
「何が起きてるんだ?」
ベニアミーノとカルメーロは、その地響きに反応し、音の鳴っている場所を探すために周囲を見渡した。
しかし、どこから鳴っているのか分からず首を傾げた。
“ボコッ!! ボコッ!!”
「「っっっ!!」」
何かが近付いてくるような地響きがしばらく続いていると、地面から先程の蟻よりも小振りの蟻が次々と出現してきた。
どんどん増える蟻の魔物に、ベニアミーノとカルメーロは目を見開いた。
「くっ!! まずい!!」
「おいっ!! 奴隷を増やせ!!」
出現した蟻の数を見て、ベニアミーノとカルメーロはすぐに動き出す。
今出ている奴隷とバリスタの数では抑えきれない。
数には数で対抗するべく、砦内にいる奴隷をありったけ投入する指示を兵に出した。
「……あの蟻は女王蟻か?」
「はい。その通りです」
蟻を1匹召喚して自分のもとへ戻ってきたファウストに問いかける。
見たことある魔物だが、あの1匹だけ少し形が違う。
そして、仲間を呼び寄せて戦わせている姿を見て、ファウストが呼び寄せたのが女王蟻だと判断した。
案の定、司の確認ともとれる質問にファウストへ頷きを返した。
「女王蟻なんて、なかなか見つけることができないんじゃなかったか?」
「今回のために見つけておきました」
その他の兵隊蟻なんかは比較的見つけることは難しくない。
しかし、身を隠して指示を出すことが多い女王蟻は滅多に姿を見せない。
そのため、ファウストが吸血による眷属化をしようにも、探し出すのにかなりの労力を要したことだろう。
そんな苦労を滲ませることなく、ファウストは平然と司に答えた。
「……そうか、助かった」
「ありがたきお言葉」
このままスケルトンやジャック・オー・ランタンに任せていても、時間がかかるが砦に侵入することはできるだろう。
しかし、かなりの数の兵を削られることになる。
それでも良かったのだが、このファウストの一手によって、時間と犠牲が少なくすることができる。
もしもの時のことを考えて行動してくれたファウストに、司は感謝の言葉をかけた。
主人である司に礼を言われ、ファウストは恐縮しつつも嬉しそうに笑みを浮かべた。
「それにしても、同じ魔物を使役しているのに、お前の方が使い勝手がいい気がするな」
司のスケルトンに及びはしないものの、ファウストが呼び出した蟻はかなりの数だ。
召喚に使った魔力を考えると、あれだけの数を操れるのは相当魔力の燃費が良い。
同じ魔物の使役でも、自分以上にファウストの能力の方が有能かもしれないと思えた。
「そんな事はありません。あれは単に、あの女王蟻の能力です」
「んっ? どういうことだ?」
吸血による眷属化を感心していた司の考えを、ファウストは訂正してきた。
この現状があの女王蟻の能力というのがよく分からない。
そのため、司はその意味をファウストへ尋ねた。
「たしかに少ない魔力で大量の魔物を操っているように見えますが、兵隊蟻を呼び寄せたのは女王蟻の能力によるものです。兵隊蟻は、女王蟻を介して私の指示に従っているにすぎません」
つまり、防壁の門目掛けて突き進んでいく多くの蟻。
その全てを操っている訳ではなく、ファウストが操っているのはあの女王蟻だけで、他は女王蟻が操っているということだ。
「私の眷属化がすごいのではなく、数を求めるためにあの女王蟻を手に入れたのです」
「なるほどな……」
吸血をさえできればいいため、眷属を増やすことはそこまで難しくない。
しかし、呼び出したりするのに魔力を使用するため、無限というわけにはいかない。
そのため、ファウストは少ない魔力で大量の魔物を使役出来ないかと考えたのだ。
そして考え付いたのが蟻や蜂の魔物だ。
そういった種は、女王の指示のもと行動する。
その習性を利用したのがこの現状なのだそうだ。
ファウストの説明を受けた司は、理解と共に納得し、頷きを返したのだった。
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