祖国奪還

ポリ 外丸

第36話 ジャック・オー・ランタン


「急げ! 奴隷を馬車に乗せられるだけ乗せろ!」

「ハッ!」

 帝国が占領した大和王国の王都。
 それが得体の知れない大和国民によって奪還されたという情報は、この西南地区にも知れ渡っていた。
 そして、2人の将軍と4人の副将軍、それに大量の兵が、アンデッドによってこの世から消されたということも分かっている。
 このことから、援軍として再度大和王国へと入ったベニアミーノとカルメーロの2人の将軍は、帝国から一番近い西北地区を拠点にして防衛対策を図ることにした。
 そのため、西南地区に残っていた兵たちは、その地区を放棄して奴隷と共に西北地区へ集まるようにと指示があった。
 西南地区は王都にも隣接しているため、いつ王都からアンデッドが攻め入るか分からない状況だ。
 そのため、急いで奴隷を馬車へと伸せて、西北地区へと向かう準備を始めていた。

「しかし、東北地区や東南地区が占領されたままだ。この西南地区に攻めてくるのはその後なんじゃないか?」

「確かにそうだが、我々が入る前に閉じこもられてしまう可能性もある」

 王都を奪還したということは、中央北地区を奪還されてしまったということだ。
 だが、それ以外の地区はまだ奪還されていない。
 しかし、セヴェーロによって王国内にいた兵のほとんどが集められて全滅したため、東北・東南・西南地区の兵は奴隷を管理している者たちしか残っていないため、攻め込まれでもすればたいした抵抗もできないだろう。
 東北地区には青垣砦内に閉じこもった水元の軍勢がいる。
 そのため、中央北地区の次に奪われるとすれば、東北地区になるだろう。
 次に東南地区で、この西南地区は3つの地区のうち最後の可能性が高いが、相手の動きは分からないし、ベニアミーノとカルメーロの将軍たちがどこまで待ってくれるか分からないため、急ぐに越したことはない。

「……んっ? 何だ?」

 兵の1人が奴隷化した大和の国民たちを馬車へと詰め込んでいたところ、何やら不穏な空気がな流れてきた。
 その単なる直感のした方へ視線を向けると、何やら無数の点が遠くの空に浮かんでいた。

「……ケケッ!!」

「ジャック・オー・ランタンっ!?」

「何っ!?」

 何かと思ってその点に視線を集中していると、兵はその点の正体に気付いた。
 アンデッド系の魔物と知られるジャック・オー・ランタンだ。
 それが大量に出現したのだ。
 気付いた兵が驚きの声を上げると、他の兵たちもその声に反応した。

「スクワッシュ!!」「スクワッシュ!!」「スクワッシュ!!」

「っ!?」「……?」

 近付いてきたジャック・オー・ランタンたちは、魔力で作った深緑色のカボチャを兵たちの周りへばら撒いてきた。
 何かの攻撃かと思って兵たちは身構えるが、地面に落ちたカボチャはその場にとどまるだけで何も起きなかった。

「バカッ!! 速く逃げろ!!」

「えっ?」

 何も起きないことに戸惑う兵たちが多いなか、1人の兵は慌てるように緑カボチャから距離を取ろうとする。
 その兵は何もしていない仲間に向かって大声で注意を促すが、それを言われている兵たちは何で慌てているのか理解できずに首を傾げていた。

「パンプキン!!」「パンプキン!!」「パンプキン!!」

 ジャック・オー・ランタンは、今度はオレンジ色のカボチャを連射してきた。

“ドガンッ!! ドガンッ!! ドガンッ!!”

「ぐわっ!!」「ギャ―!!」

 オレンジカボチャが落下すると、すぐさま爆発を起こす。
 注意も虚しく、首を傾げていた兵たちは爆発を受けて吹き飛んで行く。
 しかも、オレンジカボチャの爆発によって起きた衝撃を受け、先程の緑カボチャも爆発を起こし始めたのだ。

「ジャック・オー・ランタンが放つオレンジかぼちゃは即時式。緑かぼちゃは時限式の爆弾だ!!」

「何っ!?」

 逃げる兵の言ったように、ジャック・オー・ランタンの攻撃は魔力を爆弾へ変えて放つものだ。
 オレンジカボチャのパンプキン種が敵の側へ飛ばしての爆発する爆弾で、緑カボチャのスクワッシュ種が時限式の爆弾だ。
 時限式とは言っても衝撃を受けると爆発する爆弾のため、先に緑カボチャを広範囲に放って、オレンジカボチャの爆発の衝撃で連鎖爆発させてきたのだ。
 連鎖爆発によって逃げ遅れた者たちは即座に死滅する。
 五体満足で死ねればいい方だ。

「だから逃げろって言っただろ!!」

 運良くジャック・オー・ランタンの攻撃を知っていた者は、猛ダッシュで馬車の御者台へ跳び乗り、すぐさま馬へ鞭を打ち走らせた。

“バッ!!”

「なっ!?」

 馬が速度を上げて走り出し、これで逃げられると兵が思ったところ、ジャック・オー・ランタンが馬車の幌の上に乗っていた。
 そのことに気付いた兵は、驚きの声を上げる。

「パンプキン!!」

「ぐわっ!!」

 気付いた時にはもう遅く、パンプキン種爆弾を受けてその兵は血肉を四散させた。
 大量のジャック・オー・ランタンたちの爆弾攻撃によって、西南地区の兵たちは瞬く間に葬り去られて行ったのだった。





◆◆◆◆◆

「江奈様!! 送故司のアンデッドが西南地区の制圧をおこなったそうです!!」

「えっ!? 何で西南地区を……」

 西南地区の制圧の報は、青垣砦の会議室にいる公爵家の水元江奈にも届いた。
 その報を受け、江奈は驚きと共に戸惑った。

「江奈様を王都へ迎えるためには、まずこの東北地区の帝国兵を蹴散らすべきだろ!」

「奴は何を考えているんだ!?」

 江奈だけでなく、会議室に集まった者たちも戸惑いの声を上げる。
 大和王国を奪還するのであるならば、まずは江奈たちのいる東北地区を奪還する方が速いはずだ。
 江奈たちが青垣砦を出て、司が王都からと、挟み込むようにすれば、町や村をすぐに奪還できるからだ。
 なのに、南枝地区から奪還に動くなんて、非効率な方法を取ったのか理解できない。

「これで奴の狙いが分かったのではないでしょうか?」

「……どういうことだ?」

「奴は江奈様を王として認めないということなのではないでしょう」

 会議内にいる者たちが司の行為に混乱しているなか、1人の兵が呟くように声を上げた。
 その言葉に対し、他の者がその意味を問い返す。
 自分に視線の集まった兵は、自分の導き出した考えを答えた。

「そして、王都を奪還した自分こそが王なのだと言っているのではないでしょうか?」

「何っ!?」

 司の考えを理解しようとすると、このような答えに行きついた。
 現在この国の王になる資格があるのは、残り最後の公爵家である水元家の江奈だけだ。
 しかし、その江奈さえ倒せば、誰が王を名乗っても許される状況だ。
 だからこそ、司は江奈のいる東北地区を奪還せず、西南地区を奪還したのだと考えたのだ。

「仮面で本当に大和の人間かも分からない者が、どうやって国民の信頼を得るというのだ!?」

「奴隷にされた国民です。自分が彼らを救ったという恩を利用し、国という体を取るのでは?」

「……なるほど」「おのれ……」

 話はドンドンと進んで行く。
 彼が言った通り、送故司が王を狙っているとしても、付いてくる国民がいなければ飾りでしかない。
 そのことを指摘するが、すぐに答えが出た。
 どこの地区にも、奴隷にされた国民が大量に存在している。
 その国民を引き入れ、送故司は江奈たちに対抗する勢力を作り上げるつもりなのだろう。
 しかし、それでは支配者が帝国から送故司に代わっただけでしかない。
 そんな事が許されるわけがないため、この場に集まった者たちは司に怒りを覚えたのだった。

「江奈様! こうなれば、我々も砦から出て東北地区奪還に動くべきです!」

「そうです! そして、東南地区も奪還して送故司を討つための力を手に入れるのです!」

 送故司は仮面を被り、得体が知れない。
 もしかしたら、大和国民というのも嘘かもしれない。
 そんな者にこの国の王を名乗らせてはならないと、兵たちは意見を揃えて東北地区奪還を促した。

「…………」

「……江奈様?」

「いえ、何でもないわ……」

 兵たちに促された江奈は、無言で考え込んでいた。
 その様子に、戸惑うよに話しかけると、江奈は首を横に振って返答した。

「東北地区奪還を目標にするのは間違っていない。でも急いで動いては危険だわ。まずは近場の町や村から奪還して行きましょう」

「「「「「はい!」」」」」

 江奈からの方針を受け、会議室に集まった者たちは声をそろえるように返事をした。
 そして、青垣砦から出て町や村を奪還しするための準備を開始するのだった。

『彼は何を考えているのかしら?』

 みんなが司を疑っていたが、本人は王を名乗った訳ではないため、さっきのはあくまでも憶測でしかない。
 しかし、司もそう思われても仕方がない動きしかしていないため、完全に否定することもできない。
 結局、帝国兵を倒して国を奪還する目的は変わらないため、江奈は東北地区の奪還をおこなうしか選択できなかった。


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