祖国奪還
第25話 報告
「何っ!? また全滅だと……」
「はい……」
ビアージョたちが敗北したことは、占領した大和王国の王都にいるセヴェーロにも届いた。
エレウテリオを倒す程なのだから、王国軍が相当な策を用意していることは分かる。
その策によりビアージョたちの軍に痛手を負うにしても、数で押し切り青垣砦の壊滅はなると思っていた。
それが、エレウテリオの時よりも数を増やしての進軍したというのに、前回と同様に全滅という結果になるなど考えていなかったのか、セヴェーロは驚きを隠せなかった。
「何が起きたというのだ?」
「調査兵の報告によりますと、青垣砦への攻撃中、軍の後方から現れた魔物の大群に襲われたという話です」
「……魔物?」
前回のこともあり、セヴェーロはビアージョたちには気付かれないように調査兵を送っていた。
王国側が、どんな方法でエレウテリオを倒すに至ったのかを知るためだ。
もしも何かしらの兵器だとしたら、ビアージョたちが青垣砦を壊滅した時に入手する可能性がある。
そうなると、今後他国との戦争時に他の将軍たちを出し抜くことができ、皇帝への覚えも良くなるというもの。
それをビアージョたちだけに譲る訳にはいかない。
エレウテリオの抜けた将軍職へ推薦してやる代わりに、その兵器を手に入れるつもりでいた。
そのために離れた距離から調査をするように兵に言っていたのだが、それが想像と違う報告を持って帰ってきた。
やられた原因が兵器などではなく魔物によるものだという話に、セヴェーロは思わず聞き返す形になった。
「……当然ビアージョたちは周辺の魔物の調査をおこなったよな?」
「はい。そのうえで魔物が出現しました」
これから戦争を開始するという所で魔物の邪魔が入ることは、戦況を変えてしまう可能性があるため避けなければならない。
通常、進軍と共に周辺の魔物調査もおこなうことが当たり前になっている。
ビアージョたちが副将軍だからと言っても、エレウテリオについていたのだからそれくらいのことは当然行っているはずだ。
コージモだけだったならば分からなくもないが、ビアージョまでもがそれすらしないような人間には思えない。
もしものことを考えて部下に問いかけるが、どうやら調査したうえでの出現だったようだ。
「……どういうことだ?」
「恐らくですが、敵の中に魔物を操る人間がいるのかもしれません」
調査したというのに背後からの奇襲を受けるなんて、何かあると警戒していても対応に苦慮することだろう。
しかし、その魔物がどうやって出現したのかが分からないため、セヴェーロは部下に詳細な説明を求めた。
その問いに対し、部下の男は自分の私的な意見を述べる。
「しかも、その魔物と言うのがアンデッド系と言うのが面倒です」
「アンデッド系……?」
「はい。ビアージョ・コージモ軍を全滅に追い込んだのは、マミーやスケルトンの大群だそうです」
「マミーにスケルトンだと……」
魔物の集団と聞いて、セヴェーロはとんでもないテイマー系のスキル保持者が現れたのかと考えたのだが、その魔物の種類がアンデッドと言うことに違和感を感じる。
大和王国の人間は、死者を重んじる傾向にあることが知られている。
それは敵であった場合でも同じで、エレウテリオの死体も送ってきたことからも分かる。
そんな者たちが、死体を操るようなことを良しとするのだろうか。
「そいつは本当に大和王国民なのか?」
「大和の人間ではないということでしょうか?」
「その可能性もないわけではないな」
大和王国民にしては、死者を平気で利用している。
帝国兵を全滅させるほどの数をだ。
もしかしたら、大和王国の人間ではないのではないかと考えがセヴェーロのなかには浮かんできた。
「しかも、死んだばかりの帝国兵の死体から、新たにスケルトンを生み出したという話です」
「……なんだそれ?」
続いて告げられた言葉に、セヴェーロは言葉を詰まらせる。
「つまり何か? こっちはできる限り死体を出さず、相手の魔物をうち滅ぼせって言うことか? そうなると、奴隷兵すら死なせるわけにはいけなくなるぞ」
「そうなります……」
「……無茶苦茶な話だな」
死んだ仲間からスケルトンを生み出せるなんて、とても信じがたいことだ。
いつ現れるかも分からないアンデッドたちを、倒すだけでなく倒されることも抑えなければならないということになる。
味方の死が敵の数の増員になると考えると、下手に奴隷兵すら死なせるわけにはいかない。
そんな事に気を使いながら戦わなければならないなんて、今まで考えたことが無かった。
難題を押し付けられて気分だ。
「しかし、出現したのはマミーとスケルトン。来ると分かっていれば、魔導砲を準備しておくだけで相当数を減らせるのではないでしょうか?」
「……そうだな」
背後から攻められると分かっていれば、魔導砲を使用しておいて吹き飛ばしてしまえばいい。
それで数を減らしたうえで戦えば、味方の被害は減らせることができる。
そのため、セヴェーロは部下の提案に納得の頷きを返した。
「……それよりも問題なのは、ヴァンパイアを名乗るものが出現したという話しです」
「ヴァンパイア? 何の冗談だ?」
アンデッドの魔物のことは、警戒さえしていれば何とかなると思える。
それよりも、調査員から信じがたい報告が上がってきている。
上がってきた以上報告しないわけにはいかないため、部下の男はセヴェーロへそのまま報告することにした。
案の定、部下の報告を受けたセヴェーロは、呆けたような表情へと変わった。
「私も冗談かと調査員の者に問いかけたのですが、その者がビアージョとコージモの2人を相手取りあっさりと仕留めたという話です」
「本物なのか……?」
ビアージョとコージモが対人戦ではかなりの実力を有しているということは、セヴェーロも知っていた。
その2人を相手取って倒せるような者など、将軍たち以外に存在しているだろうか。
将軍たちでも多少手こずることになるだろう。
そう考えると、その者がヴァンパイアと言っているのも本当の可能性がある。
「……とりあえず本国へ連絡を入れろ。「大和王国の東北地区で異変あり。急ぎ将軍たちを派遣されたし」とな」
「了解しました」
エレウテリオの死の報告をして間もないというのに、今度はビアージョたちの死も本国へ報告することになった。
しかも、ヴァンパイアなんて物語に出てくるような魔物まで出現するという事態だ。
自分の軍の率いて攻め込めば何とかなるとは思うが、セヴェーロは念のため他の将軍も呼び寄せておくことを考えた。
そのことを部下に指示したセヴェーロは、1人執務室に籠って今後の戦術を考えることにした。
「チッ! あと少しと言う所で面倒な……」
執務室の椅子に座ったセヴェーロは、一人愚痴をこぼす。
最後の地区を制圧することを待っているだけだったというのに、まさか自分が動くことになるとは思わなかった。
自分がミスを犯したという訳でもないのに、これでは他の将軍たちに何を言われるか分かったものではない。
「……そもそも、もしも大和王国の人間だったとしたら今までそいつは何をしていたんだ?」
アンデッド使いが出現したというのは分かったが、何故今更になってなのだろうか。
帝国が侵攻して来た時に現れていれば、もしかしたらここまでの状況になる前に抑え込めたかもしれないというのに。
「…………まさか、子供?」
突如現れたアンデッド使いのことを考えていると、セヴェーロはある考えに至った。
これまで戦場に現れなかったのは、子供だったからなのではないか。
そして、そのスキルを強化する時間が必要だったのではないか。
「……何にしても、俺が仕留めないと」
死人を重んじるという精神は、大和王国の教育を受けている者ほど持っているものだ。
もしもその教育を受けていない子供がアンデッドを操る能力を得たとしたら、今現れたのも分からなくない。
教育を受けていないということは、帝国の奴隷としていた子供がそのスキルを得たのかもしれない。
そう考えればつじつまが合うが、奴隷の子供の管理なんて杜撰にしかされていないため、正体を見つけ出すなんてことはできないだろう。
結局は自分が殺さなければならない相手だと感じたセヴェーロは、隊の編成を考えることにしたのだった。
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