祖国奪還
第20話 マミー
『やっぱり来てくれた』
前回エレウテリオが攻めてきた時と同じように、帝国軍の様子に変化が起きた。
後方で何かが起きているような反応を示している。
それを見て、青垣砦の指揮官である水元江奈は、送故司が来たことに気が付いた。
そのことは、内心では嬉しくて仕方がない。
しかし、この国の宗教観点から、死者を弄ぶ人間こそ悪とする意識が根付いている。
そのため、江奈自身は送故司の登場に期待してはいたが、他の者はそうは思っていないだろう。
指揮官である自分が、この国の考えを否定する訳にもいかないため、江奈は期待は内心だけで収めていた。
『でも、敵は前回以上の数を揃えてきている』
送故司が来てくれたことで、またも自分たちが生き残れる可能性が出てきた。
しかし、前回とは違い敵は数を増やしてきた。
いくら送故司がスケルトンを大量に使役しているとはいえ、今回は帝国兵の数もかなり多い。
1体のスケルトンの強さはたいしたことはない。
それを数で補っているのだが、それが今回も通用するか微妙に思えてくる。
『大丈夫かしら……』
自分たちは自分たちで、奴隷にされて攻め込んでくる大和国民を相手にしなければならない。
心苦しくとも、この砦を潰される訳にはいかない。
そのため、攻め来る彼らに対して、兵たちは魔法を放って迎撃をしていた。
彼らさえ抑えておけば、帝国兵は送故司の動かすスケルトンに付きっきりになるため、少しの間は息を吐ける。
それよりも、送故司が帝国兵にやられないかの方が江奈にとっては不安だった。
「固まって対応しろ!」
ビアージョが兵たちへ指示を出す。
突如背後から攻め込んで来ているスケルトンたちは、パッと見帝国兵よりも数が多い。
たしかに数で攻め込まれれば危険だが、ビアージョの指示通り固まって戦えばスケルトンは何とかなる相手だ。
奇襲に多少慌てたが、兵たちはすぐに落ち着きを取り戻した。
「スケルトンごとき相手にならんわ!!」
コージモの場合、数で襲い掛かってきても苦ともしないかのように、得意の戦斧を振り回すことでスケルトンたちを薙ぎ倒していた。
まるで竜巻のような戦い方だ。
「その通りだ!!」
ビアージョも負けていない。
槍を使い、スケルトンの弱点ともいえる頭部を確実に潰していっている。
襲い来るスケルトンを薙ぎ倒す2人の姿に、他の帝国兵も活気に溢れていた。
そのせいか、最初押されていた帝国兵たちは、スケルトンたちを押し返し始めていた。
「数が多くても、所詮は魔物。知恵を使えば苦とするものではない!」
兵たちは戦うにつれてスケルトンとの戦いに慣れてきた。
集団に対して集団で対応することにより、数による差が少しずつなくなっていった。
数は多くても、やはりスケルトンでは人間との1対1は勝てないようだ。
「むっ? この装備……」
味方の兵の援護を受けつつも、ほぼ個人で戦闘をおこなっていたビアージョとコージモは、向かって来るスケルトンに違和感を覚えた。
スケルトンの中には、剣と盾を持って襲い掛かってくる個体が存在している。
強さに差はないが、2人にはその装備が気になった。
「まさかこのスケルトンは帝国の……」
目の前のスケルトンが持っている武器。
それは拵えなどを見る限り帝国製の武器に見える。
そう考えると、このスケルトンの生前のことを想像してしまう。
「奴ら殺した帝国兵をスケルトンにしているのか?」
ビアージョの言葉に、コージモも反応する。
たしかに帝国製の武器を所持しているスケルトンがが混じっている。
エレウテリオが攻め込んだ時に倒した兵の武器を、スケルトンに持たせているという可能性があるが、そのスケルトンの身につけている他の防具も帝国製のようにも見える。
もしかしたら、このスケルトンたちは元は帝国兵の人間だったのではないかと思えてきたのだ。
「どう言うことだ? 奴らは馬鹿みたいに死人を尊重する種族じゃなかったのか?」
攻め込む前に大和王国のことは調べられている。
その情報から、死者を尊重するという意識が強いと知らされている。
なのに、やっていることは完全に真逆のことだ。
これまでこんなことなかっただけに、ビアージョたちは意外に思えた。
「気にするな! 襲ってくるなら、元が帝国人だとしても関係ない!」
「フッ! そうだな」
死んだ帝国兵をスケルトンにしているとしても、ビアージョたちには関係ない。
帝国でも死んだ人間は丁重に弔われるものだ。
しかし、スケルトンとして襲い掛かってくるのなら帝国の敵でしかない。
生前が何であろうが、関係なく打ち倒すだけだ。
2人は倒すことを楽しむかのように、スケルトンたちを討ち倒していったのだった。
「やれやれ。流石にスケルトンだけでは無理のようだな」
離れた所から戦場を眺める司は、どんどん減らされて行くスケルトンたちを見て呟く。
前回と同様に背後から攻撃すれば、かなりの数の帝国兵を減らせると考えていた。
しかし、方法が分からなくてもエレウテリオがやられたことで警戒心を高めていたようだ。
すぐに対応策を取られて、思ったよりも減らせていなかった。
「仕方ない。他も少し出すか……」
そう言うと、司は地面へ手を向けて魔力を流し魔法陣を描き出す。
その魔法陣から、また新たなアンデッドモンスターが出現してきた。
「行け! マミーたち」
“コクッ!”
司が呼び出したのは、マミーと呼ばれる包帯を巻いたミイラだ。
スケルトンたちを援護させるための戦力だ。
司の指示を受け、マミーたちは頷きを返し、帝国たちのいる戦場へと向かっていった。
「さて、マミーだけで間に合うか……」
マミーはスケルトンよりも強い。
しかし、帝国兵相手にどこまで通用するかは分からない。
もしもの場合は、更に魔物を召喚するしかない。
そればかりは結果を見てみるしかないため、司は変わらずこの場から眺めることにした。
「……何だ? あれ……」
スケルトンと戦っていると、何やら違う魔物が現れたことに帝国兵たちが首を傾げる。
「マミーだ!!」
新しく現れた魔物に、兵の一人が気が付いた。
包帯に身を包んだマミーと呼ばれるアンデッドの魔物だ。
「っ!? うがっ!!」
マミーの出現が帝国兵たちに広まったと同時に、マミーたちが動き出す。
とんでもない速度で帝国兵との距離を詰めると、思いっきり殴り付けた。
「こいつら、拳闘家か?」
マミーたちの動きに、帝国兵たちは慌てる。
スケルトンより強いと言っても、ここまでの動きをするマミーは珍しい。
その動きに付いて行けず、帝国兵はまた減らされていったのだった。
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