祖国奪還
第17話 検証完了
「2回目は同じくらいか……」
急に活動停止したゴブリンゾンビを見て、司は小さく呟いた。
ダンジョン内で生活を始めた司は、ゴブリンの死体を使っての検証を続けていた。
スケルトンとして使用した場合、3日程の期間活動していた。
しかし、それは魔力量を一定にした場合で、スキルを発動させる前に流した魔力の量の増減によって期間が異なる。
それはゾンビとして使用した時も同じのため、込める魔力量で活動時間を調整した方が良さそうだ。
ゾンビの場合、魔石が体内に残っているためか倍近い期間活動していた。
しかし、それは最初の特典といったものだった。
倒してスキルとして動かした場合、体内に残っている魔石の中に残っている魔力も使用して活動時間が伸びていたようだ。
司の魔力と魔石の魔力が尽きて、ゾンビが動かなくなったのが5日程。
動かなくなった体に魔力を流し、もう一度スキルを発動して動かしてみたら、今度は体内の魔力が切れているからか、3日ほどで動かなくなったことから分かったことだ。
「どっちかというとスケルトンだな」
検証の結果、司が導き出した答えはこれだった。
ゾンビとスケルトンを比べると、初回特典がある分ゾンビの方が良いように思えるが、活動停止する前に魔力を補充しさえすれば継続的に動くことが分かっている。
ならば、どちらを選んでも関係なく役に立つ。
「ゾンビは臭くなるからな」
初回特典があり、僅かながらゾンビの方が戦闘で使えるように思えるが、ゾンビはゾンビで問題がある。
死んでいるのにスキルによって動かしているせいか、ゾンビもスケルトンもダンジョンに吸収されない。
それは良いのだが、ゾンビの場合死んでいることには変わらないため肉が腐ってくる。
死体をそのまま使っていれば肉が腐り落ちて、結局スケルトンとして使用することになるだろう。
それに、ゾンビの場合肉が腐ると臭いがきつい。
鼻栓をしている訳にもいかないので、最初から匂いがないスケルトンとして使用した方が良いと判断したのだ。
「あっ! 帰ってきた」
司が上空を見上げながら呟くと、フヨフヨとしたものが近付いてきた。
これもスキルの実験の1つだ。
倒したゴブリンの死体から、ゴースト系の魔物を作り出せないかと思った司は試しにやってみた。
実験は成功して、ゴブリンの体から半透明の丸いものが浮かびあがった。
しかし、そこで気になることができた。
ゴーストを作り出したはいいが、死体は全く変化していない。
なので、試しにゴーストを作り出した死体をゾンビとして動かせないかスキルを試してみた。
すると、何故かスキルが発動せず、死体は動かなかった。
1体の魔物の死体から、2種類の魔物を作り出せると思ったのだが、そうは都合よくいかないようだ。
「水場は見つかったか?」
「…………」
司の問いに、ゴーストは上下に動くことで肯定の意を示す返事をした。
ゴーストを作り出して最初に出した指示は、水場を見つけてもらうことだ。
生活魔法によって飲み水は作り出せるが、調理などに使用する水があると助かる。
これだけ広いフィールドなら、どこかに水場があるのではないか。
そして、もしもそれが拠点近くに水場があるなら、そこで水汲みをしてくればいい。
スキルの実験に使う魔物も探すのだから、ついでに水場も探そうと考えていたのだが、広いだけに時間がかかってしまいそうだ。
すると、よく考えたらゴーストが空中を浮かんでいるのだから、上空から探せないかと試しに指示を出してみた。
どうやら思った通り、ゴーストは水場を見つけてきたようだ。
「拠点からは離れているな……」
ゴーストに案内させると、湖のような場所へと行きついた。
見た感じキレイそうなので、生活用水として使えそうだ。
問題があるとすれば、寝床としている拠点からは離れていることだ。
毎回毎回ここに来るのに、数十分かけてくるのは時間がもったいない。
スケルトンにやらせるにしても、結構な数のスケルトンを使役しないとダメそうだ。
「……そうか。こっちに拠点を移せばいいのか」
どうするか考えると、答えはすぐに出た。
そもそも、あの拠点は自分で作り上げることができなかったから奪い取ったもので、スケルトンたちがいる今とは違ったのだ。
今なら、スケルトンたちを使えば拠点を作ることも可能のはずだ。
そう考えた司は、拠点をこちらへ移動することにした。
「完成!」
ゴブリンを狩ってスキルでスケルトンとして動かす。
数を増やしたためか、司はかなり速く拠点を移すことに成功した。
水場が近くにあることになり、司はダンジョンに入って初めて風呂に入ることができた。
「さて、ゴーストが戦闘で使えるか試すか」
拠点のこともあってか、ゴーストの戦闘を後回しにしていた。
しかし、その拠点も完成したので試してみることにした。
「ギャッ!!」
ゴーストから放出された魔力が、ゴブリンの胸部へと直撃する。
心臓部に穴を開けたゴブリンは、血を噴き出しつつ倒れ伏した。
「魔力を使っての戦闘か……」
実態がないため、ゴーストがどうやって戦うのかと思っていると、魔力を使って戦うようだ。
物理攻撃が通用しないのはいいことだが、逆にゴースト側も物理攻撃ができないのだから当然といえば当然かもしれない。
“ス~……”
「あっ!」
戦闘が終わるとゴーストは段々と薄くなっていき、最後には姿が消え去ってしまった。
司は周囲を見渡すが、どこにもゴーストの姿も気配もなくなっている。
「……もしかして、発動の魔力を使って戦っていたのか?」
何が起きたのかと考えてみると、先程の戦闘のことを思いだした。
物理攻撃ができないため魔力による戦闘をしたのは分かる。
では、その魔力はどこから持って来たのか。
人間でも魔物でも、魔法を撃つときは体内の魔力を使うものだ。
スキルで作り出したゴーストも、同様に体内の魔力を使ったに違いない。
その魔力とは、スキルで作り出した時に送り込んだ司の魔力しか考えられなかった。
「魔力切れになって実体が無くなってしまったのか」
スケルトンたちも司の魔力がなくなれば動かなくなる。
それと一緒で、ゴーストの場合は魔力切れと共に消え去ってしまうようだ。
「使い捨てなのはもったいないな」
ゴーストを戦闘で使うとなると、一気に魔力を消費することになるので消えてしまう可能性が高いのは分かった。
しかし、戦闘面で使えないとは言っても、水場を探し当てるなどゴーストには使い道がある。
上空を動き回れるゴーストは、魔物の発見や偵察などにはうってつけだった。
そのことから、魔力切れで使い捨てになってしまうことがもったいなく思えたのだ。
「戦闘に使わないようにしよう」
初めて作ったゴーストは消えてしまったが、置き土産としてゴブリンの死体が目の前にある。
戦闘で使えば消える確率が高いのなら、戦闘に使わなければいい。
偵察・探索専用として使うことにした司は、このゴブリンの死体をゴーストとして利用することにした。
「スキルの把握はできた。本格的に攻略を始めるか」
ダンジョンに入ってからの数日、司はスキルを把握することにばかり時間を使ってきた。
その検証もひとまず済んだことだし、そろそろこのダンジョンのことを攻略を開始することにした。
スケルトンたちを使えば、もしかしたら謙治を圧し潰した入り口も何とかできるかもしれない。
けど、それで外に出ても帝国の人間に見つかれば奴隷に戻るだけだ。
しかも、特殊能力を得たことがバレれば、死体焼却の仕事から大和王国を潰すことに使われることになるかもしれない。
そうならないために、司はこのダンジョンで魔物を倒しまくって強くなることにした。
そのためにも、ダンジョンの攻略を開始することにしたのだった。
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