祖国奪還
第12話 2人の副将軍
帝国の将軍であるエレウテリオの侵攻から1ヵ月が経ち、修復が完了したばかりの青垣砦の前へ、大量の帝国兵が迫っていた。
「またとんでもない数ね……」
青垣砦から少し離れた位置に陣取る帝国兵を見た江奈は、あまりの数に思わず呟いた。
報告を受けていたとはいえ、エレウテリオが攻めてきた時以上の数に、恐怖を通り越して呆れてしまった。
「あれでは、いくら魔導砲があっても足りないわね」
帝国軍が再度攻めてくると分かっていたため、江奈は魔導砲の数を増やすことに必死に力を入れた。
材料を集めるのに苦労したが、前回以上の数を用意できた。
しかし、あれだけの数を相手にするとなると、増やしたと言っても焼け石に水程度しか意味を成さないだろう。
魔道具職人たちに無理してもらったというのに、たいして意味がないとなると申し訳なく思えてきた。
「ないよりもマシか……」
数が増えれば倒せる数も増やすことができる。
それと、僅かながらもこちらが全滅する時間を稼げると考えれば、あながち無駄ではないといえるだろう。
『彼は来るかしら?』
周囲に兵がいるため口に出さないが、江奈は司のことを考えていた。
死者を操る能力を持つ送故司という男。
彼が参戦してくれれば、今回も自分たちが生き残れる可能性が出てくる。
この国においては忌避される能力とはいえ、今この現状においては期待してしまう。
「みんな! いつでも迎撃できる準備を整えて!」
「「「「「おぉ!!」」」」」
送故司が現れるにしても、いつなのか分からない。
その時が来るまで時間を稼ぐしかない。
そのためにも、兵たちに頑張ってもらうしかないため、江奈は迎撃体制の指示を出したのだった。
◆◆◆◆◆
「進め!!」
金髪碧眼で、髪をオールバックにした中肉中背の男。
エレウテリオの副将軍であるビアージョの指示により、帝国軍の青垣砦への侵攻が始まった。
まず攻めてきたのは、エレウテリオの時と同様に奴隷にされた大和王国の平民たちだ。
魔法によって奴隷紋を付けられているせいか、彼らは命令に従い青垣砦へと攻め込んで来た。
「おいっ、ビアージョ! 奴隷だけじゃなく、兵も使ってさっさとぶっ潰しちまおうぜ!」
イラつきながらビアージョへと話しかけるのは、同じくエレウテリオの副将軍であるコージモだ。
筋骨隆々の190cm近い巨体の持ち主で、斧による戦闘を得意とする男だ。
個人としての戦闘力という意味ではかなりの実力の持ち主だが、肉体を鍛えてはいても知能の方はいまいちで、この戦い方に短気を起こしていた。
「何を言っている。あのエレウテリオ様が敗北したのだぞ! 慎重に行くためにも、まずは奴隷で様子を見るんだ」
「チッ! まどろっこしい!」
コージモの短絡的な発言に内心でイラつきながら、ビアージョはこの戦法を取ることの意味を説明する。
エレウテリオは、武器戦闘には自信があっても魔法が得意ではない自分たちを副将軍に抜擢してくれた人物だ。
自分たちとは違い兵を指揮する能力も高いエレウテリオが、大量の兵を率いて攻め入ったというのに敗北を喫した。
その原因が分からないというのに、兵を使って攻め入るのは危険すぎる。
まずはその原因を突き詰めるために、使い捨ての奴隷たちを使うのが得策だ。
コージモは自分と同じようにエレウテリオに見いだされた存在として、ビアージョのことを認めている。
1対1の戦闘ならば負けるつもりはないが、兵の指揮に関しては自分よりも上だと分かっている。
そのため、ビアージョの尤もな意見に、コージモは受け入れるしかなかった。
「あっちの指揮官の首は俺に獲らせろよ!」
「……まぁ、いいだろう」
エレウテリオに恩がある2人としては、そのエレウテリオを殺した人間に怒りを持っている。
前回攻め込んだ時の兵が全滅してしまったために殺した人間を特定することはできなかったが、それを指示したのは兵を指揮する水元公爵だろう。
その公爵を殺すことが、ビアージョとコージモが今回攻め込んだ最大の目的になっている。
本来は自分が仕留めたいところだが、指揮を任されている以上敵の殲滅を優先するべきだろう。
そう判断したビアージョは、渋々ながら公爵の始末をコージモへと譲ることにした。
◆◆◆◆◆
「やっぱり数によるごり押しか」
「予想通りですね」
前回同様、司はファウストと共に戦闘開始を近くの丘の上から眺めていた。
ファウストの集めた情報から、ビアージョはエレウテリオを尊敬しているということを聞いている。
その指揮能力は、常にエレウテリオならどうするかということを考えている傾向が強い。
今回もそう考えて導き出したのか、エレウテリオが攻め込んで来た時と同じく数のごり押しのようだ。
分かり易くて助かるというものだ。
「それにしても数が多いな。ストックが足りるかな」
前回もかなりの数だったが、今回はそれ以上に多い。
持ち合わせのスケルトンは、前回の戦った時にかなりの数が減らされている。
とは言っても、まだまだ充分な数を所持しているので問題ないが、1人残さず殺すことを考えると微妙に思えた。
「司様。私の眷属もお使いください」
そう言うと、ファウストは魔法陣を発動させる。
すると、その魔法陣から次々と魔物が出現してきた。
吸血鬼であるファウストは、能力を使って眷属を作り出していたようだ。
「へぇ~、いつの間に眷属を増やしていたんだ?」
「おやすみになっている間を利用して集めさせていただきました」
「そうか」
別にファウストは、自分に四六時中ついていないといけないという訳ではない。
だから眷属を作っていたとしても構わない。
しかし、それをおこなうための時間があったかというと疑問に思えた。
その疑問をぶつけてみると、納得の答えが返ってきた。
前回の戦いの時、司はかなりの力を消耗した。
それを回復するために、司は睡眠に入った。
どうやら、ファウストはその時に眷属を増やしていたようだ。
「ありがたい。助かるよ」
「もったいないお言葉」
魔法陣からは、結構な数の魔物が出現していた。
これだけいれば何とかなる。
そう思った司は、ファウストに感謝の言葉をかける。
言葉を受けたファウストは、嬉しそうに頭を下げた。
「あれだけの数を相手にするのは、ダンジョンの時以来だな……」
大量の敵との戦闘を目の前にした司は、ダンジョンに閉じ込められた時のことを思い出していた。
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