《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。

執筆用bot E-021番 

15-8.いやいや。オレはやってないですよ?

「あのー。すみません?」


 褐色肌のタンポポンの頬を、ぺちぺちと軽く叩いてみた。
 卑猥なことをしようとしているのではなく、起こそうとしているのである。しかし無反応。


 マブタをつまんでみたり、鼻をおさえてみたりした。無反応。


「マジかぁぁぁぁッ!」


 これは、寝かされてる、間違いない。チョット目を離した隙にやられたのだ。ってことは、マグロもか? 確認してみた。マグロも起きなかった。仮眠から、熟睡へと移行である。さらには永眠となりかねない事態である。


 しかし、いったい誰が?


 まさかこの後に、およんで他の冒険者がいた――なんてことにはならないだろう。


 マグロもタンポポンも寝かされた。起きているのはガデムン。それを探しに行った勇者。そしてオレの3人しかいない。


 よもや、ホントウに勇者が犯人であろうか? いやいや。さすがにあの勇者でも、そんなことをするはずがない。


 しかし、それにしても――。
 この部屋で起きているのは、オレひとり。


 ちょっとぐらい女の子にイタズラしても、バレないんじゃなかろうか。


 この状況で、真っ先に思い浮かぶのが、それなのかよ! 我ながら突っ込みを入れてしまったのだが、悲しいかな。これが男の性である。


 男なら理解してくれるであろう。理解してくれ。
 これもすべてタンポポンが、露出の多いカッコウをしているのがいけない。


 ちょいと失礼。


 ちょっとだけだ。すこぅしだけ、胸をモんでみるだけである。そう目論んでいたところに、声が割り込んだ。


「ちょっと、何してんのよ」


「ギクッ」


 振り返る。
 勇者である。間が悪い。いつもいつも間が悪い。登場するときは、もう少しタイミングを弁えてもらいたいものだ。


 って――。
「お前のほうこそ、なにしてんだよ!」


 勇者が背負っているのは、ガデムンである。勇者の体格の2倍ぐらい大きいので、クマか何かを狩ってきたという風情である。
 そのガデムンは頭から血を流していた。


「なにって、ガデムンの様子を見に行ってきたんじゃないの」


「なんでガデムンが血を流してるんだよ」


「スケルトン・デスナイトたちに襲われていたのよ。殺されかけていたところを、間一髪で助けたってわけ」


「ホントだろうな?」


「ホントよ。なんでウソを吐かなくちゃいけないのよ」
 と、勇者はその場にガデムンをおろした。


 頭から血を流しているうえに、意識はないようだった。


「ふむ」


 この階層にて、目を覚ましているのは、オレと勇者の2人だけ、ということになる。


 じゃあ冒険者たちを眠らせている犯人は、オレか勇者ということになる。オレはそんなことをした覚えはない。なら、消去法で、勇者の仕業ということになる。


「しかしまさか、あんたが、冒険者を眠らせている犯人だったとはね」


 勇者は剣を抜いて、その剣先を向けてきた。


「待て待て、なんでそうなる」


「だってそうでしょ。私が戻ってきたら、あんた以外の全員が眠ってたんだもの。イチバン怪しいのは、あんたってことになるでしょうが」


「それはオレのセリフだ。オレがトイレに行ってるあいだに、みんな眠ってたんだ。怪しいのは勇者じゃないか」


「私は、今戻ってきたところじゃない。見てたでしょーが」


「もしかすると事前に戻ってきていたのかもしれないだろ。ガデムンを襲って、今戻ってきたフリをした――とか?」


 オレがやっていない以上は、そういうことになる。


「私には、ほかの冒険者を襲うような動機がないわ」


「オレにだってねェよ」


「あるじゃない」


「いったいオレのどこに、ほかの冒険者を襲うような動機があるのか、聞かせてもらいたいね」


 清廉潔白なオレに、そんな薄汚れた動機などあるはずがない。


「あんたは、心の底では、ほかの冒険者がいなくなれば良い――とか思ってるでしょ。そうすれば自分の需要が上がるとか、そういうふしだらなことを考えているに違いないわ」


「ふむ」
 さすが幼馴染である。
 まぁ、当たらずも遠からずといったところか。


 清廉潔白の牙城が、こうもはやくに崩されるとは思わなかった。


「それに今だって、タンポポンのことを襲おうとしてたじゃない。顔が卑らしかったわ」


「なるほど。たしかにオレには動機があったようだ!」


 納得!


「でしょ。……って、納得してないで、反論しなさいよ!」


 ごもっともである。


「しかし動機があるからと言って、犯人だとは限らないだろう」


「状況から見ても、あんたの他にいないじゃない。ここには、私とあんた以外に、起きてるヤツなんていないんだから」
 と、勇者は剣を向けたまま詰め寄ってくる。


 それに合わせてオレは後ずさることになる。


「だいたい、オレは睡眠スリープの魔法を使えない」


「そんなのわかんないわ。私の知らないところで習得してるのかもしれないし。ほかに弁解はないわけ?」


 後ずさっていたら、部屋の中央に鎮座ましましておられる箱に、オレは背中を衝突させることになった。


 勇者の剣がオレの鼻先に突き付けられる。


「ほかに思いつくような弁解はないな」


 残念ながら、どうやらオレが犯人のようである。――って違う。オレはそんなことやった覚えはない。


 じゃあ、あれか?


 オレのなかに魔王の人格を宿ってて、そいつが目覚めてしまったとか、そういう超展開なのか。


「あんたが犯人なら、ほかにも納得のいくことがあるわ。このやり方も、あんたらしいものじゃない」


「オレらしいとは、どういうことか説明してもらおうかな」


「あんたには人を殺す度胸なんてないでしょ。だから眠らせて、ほかのモンスターにトドメをさせるというコスい方法で、冒険者たちを殺そうとしたのよ」


 なるほど。
 たしかにオレには、人を殺す度胸なぞ持ち合わせていない。
 冒険者なんだから、そりゃ死体は見慣れている。けど、殺人を犯すとなると、話は変わってくる。


「たしかにオレが犯人なら、やりそうな手法だな。強化術師であるオレは、マトモに戦っても、前衛戦士には勝てないだろうしな」


「でしょ。……ってだから、納得してんじゃないわよ!」


「そんなこと言われても、お前の言うことが的確だから仕方ねェだろーッ」


「どういう切れ方よ! 納得したら、あんたが犯人ってことで決まっちゃうでしょーがッ」


「それもそうなんだが……」


「何か、犯人じゃないって納得できるような根拠を述べなさいよ」


「今日は、オレの誕生日だ」


「だから?」


「そんなめでたい日に、こんな事件を起こすヤツはいない」


「理由になってないわよ。しかもあんた、今日が誕生日じゃないでしょ」


「うん」
 適当に言ってみただけだ。


 冷や汗ダラダラである。


 オレが犯人ではないという根拠を、ひとつも挙げることが出来ないのだ。困ったあげくに、誕生日だとかいうしょーもないウソまで吐いてしまった。


 はぁ、と勇者は呆れたようにため息を吐いた。
 それと同時に、突き出していた剣をおろした。


「もっと他に言うことあるでしょうに」


「たとえば?」


「《勇者パーティ》に戻らせてください――ってここで頭を下げるなら、あんたのことを信用してあげても良いわよ?」


「は? 今そんなこと、ぜんぜん関係なくね?」


「関係あるわよ。あんたのことを信用できるかどうか、って話じゃない。ほら、私のプリンを食べたことを、謝りなさいよ。謝ったら許してあげるから」


「くっ……」


 姑息なヤツめ。
 オレが窮地に陥ったと見て、マッタク関係のない要求を突き付けてきやがった。


 オレは『今さら戻って来てくれと言われても、もう遅い』を言うために、冒険しているのだ。


 そんなネタで、ここまで引っ張ってきたのである。ここに来て、まさかオレは敗北を喫してしまうというのか。


 オレの冒険譚も、これで終幕バット・エンドだというのかッ。

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