《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。
15-8.いやいや。オレはやってないですよ?
褐色肌のタンポポンの頬を、ぺちぺちと軽く叩いてみた。
卑猥なことをしようとしているのではなく、起こそうとしているのである。しかし無反応。
マブタをつまんでみたり、鼻をおさえてみたりした。無反応。
「マジかぁぁぁぁッ!」
これは、寝かされてる、間違いない。チョット目を離した隙にやられたのだ。ってことは、マグロもか? 確認してみた。マグロも起きなかった。仮眠から、熟睡へと移行である。さらには永眠となりかねない事態である。
しかし、いったい誰が?
まさかこの後に、およんで他の冒険者がいた――なんてことにはならないだろう。
マグロもタンポポンも寝かされた。起きているのはガデムン。それを探しに行った勇者。そしてオレの3人しかいない。
よもや、ホントウに勇者が犯人であろうか? いやいや。さすがにあの勇者でも、そんなことをするはずがない。
しかし、それにしても――。
この部屋で起きているのは、オレひとり。
ちょっとぐらい女の子にイタズラしても、バレないんじゃなかろうか。
この状況で、真っ先に思い浮かぶのが、それなのかよ! 我ながら突っ込みを入れてしまったのだが、悲しいかな。これが男の性である。
男なら理解してくれるであろう。理解してくれ。
これもすべてタンポポンが、露出の多いカッコウをしているのがいけない。
ちょいと失礼。
ちょっとだけだ。すこぅしだけ、胸をモんでみるだけである。そう目論んでいたところに、声が割り込んだ。
「ちょっと、何してんのよ」
「ギクッ」
振り返る。
勇者である。間が悪い。いつもいつも間が悪い。登場するときは、もう少しタイミングを弁えてもらいたいものだ。
って――。
「お前のほうこそ、なにしてんだよ!」
勇者が背負っているのは、ガデムンである。勇者の体格の2倍ぐらい大きいので、クマか何かを狩ってきたという風情である。
そのガデムンは頭から血を流していた。
「なにって、ガデムンの様子を見に行ってきたんじゃないの」
「なんでガデムンが血を流してるんだよ」
「スケルトン・デスナイトたちに襲われていたのよ。殺されかけていたところを、間一髪で助けたってわけ」
「ホントだろうな?」
「ホントよ。なんでウソを吐かなくちゃいけないのよ」
と、勇者はその場にガデムンをおろした。
頭から血を流しているうえに、意識はないようだった。
「ふむ」
この階層にて、目を覚ましているのは、オレと勇者の2人だけ、ということになる。
じゃあ冒険者たちを眠らせている犯人は、オレか勇者ということになる。オレはそんなことをした覚えはない。なら、消去法で、勇者の仕業ということになる。
「しかしまさか、あんたが、冒険者を眠らせている犯人だったとはね」
勇者は剣を抜いて、その剣先を向けてきた。
「待て待て、なんでそうなる」
「だってそうでしょ。私が戻ってきたら、あんた以外の全員が眠ってたんだもの。イチバン怪しいのは、あんたってことになるでしょうが」
「それはオレのセリフだ。オレがトイレに行ってるあいだに、みんな眠ってたんだ。怪しいのは勇者じゃないか」
「私は、今戻ってきたところじゃない。見てたでしょーが」
「もしかすると事前に戻ってきていたのかもしれないだろ。ガデムンを襲って、今戻ってきたフリをした――とか?」
オレがやっていない以上は、そういうことになる。
「私には、ほかの冒険者を襲うような動機がないわ」
「オレにだってねェよ」
「あるじゃない」
「いったいオレのどこに、ほかの冒険者を襲うような動機があるのか、聞かせてもらいたいね」
清廉潔白なオレに、そんな薄汚れた動機などあるはずがない。
「あんたは、心の底では、ほかの冒険者がいなくなれば良い――とか思ってるでしょ。そうすれば自分の需要が上がるとか、そういうふしだらなことを考えているに違いないわ」
「ふむ」
さすが幼馴染である。
まぁ、当たらずも遠からずといったところか。
清廉潔白の牙城が、こうもはやくに崩されるとは思わなかった。
「それに今だって、タンポポンのことを襲おうとしてたじゃない。顔が卑らしかったわ」
「なるほど。たしかにオレには動機があったようだ!」
納得!
「でしょ。……って、納得してないで、反論しなさいよ!」
ごもっともである。
「しかし動機があるからと言って、犯人だとは限らないだろう」
「状況から見ても、あんたの他にいないじゃない。ここには、私とあんた以外に、起きてるヤツなんていないんだから」
と、勇者は剣を向けたまま詰め寄ってくる。
それに合わせてオレは後ずさることになる。
「だいたい、オレは睡眠の魔法を使えない」
「そんなのわかんないわ。私の知らないところで習得してるのかもしれないし。ほかに弁解はないわけ?」
後ずさっていたら、部屋の中央に鎮座ましましておられる箱に、オレは背中を衝突させることになった。
勇者の剣がオレの鼻先に突き付けられる。
「ほかに思いつくような弁解はないな」
残念ながら、どうやらオレが犯人のようである。――って違う。オレはそんなことやった覚えはない。
じゃあ、あれか?
オレのなかに魔王の人格を宿ってて、そいつが目覚めてしまったとか、そういう超展開なのか。
「あんたが犯人なら、ほかにも納得のいくことがあるわ。このやり方も、あんたらしいものじゃない」
「オレらしいとは、どういうことか説明してもらおうかな」
「あんたには人を殺す度胸なんてないでしょ。だから眠らせて、ほかのモンスターにトドメをさせるという狡い方法で、冒険者たちを殺そうとしたのよ」
なるほど。
たしかにオレには、人を殺す度胸なぞ持ち合わせていない。
冒険者なんだから、そりゃ死体は見慣れている。けど、殺人を犯すとなると、話は変わってくる。
「たしかにオレが犯人なら、やりそうな手法だな。強化術師であるオレは、マトモに戦っても、前衛戦士には勝てないだろうしな」
「でしょ。……ってだから、納得してんじゃないわよ!」
「そんなこと言われても、お前の言うことが的確だから仕方ねェだろーッ」
「どういう切れ方よ! 納得したら、あんたが犯人ってことで決まっちゃうでしょーがッ」
「それもそうなんだが……」
「何か、犯人じゃないって納得できるような根拠を述べなさいよ」
「今日は、オレの誕生日だ」
「だから?」
「そんなめでたい日に、こんな事件を起こすヤツはいない」
「理由になってないわよ。しかもあんた、今日が誕生日じゃないでしょ」
「うん」
適当に言ってみただけだ。
冷や汗ダラダラである。
オレが犯人ではないという根拠を、ひとつも挙げることが出来ないのだ。困ったあげくに、誕生日だとかいうしょーもないウソまで吐いてしまった。
はぁ、と勇者は呆れたようにため息を吐いた。
それと同時に、突き出していた剣をおろした。
「もっと他に言うことあるでしょうに」
「たとえば?」
「《勇者パーティ》に戻らせてください――ってここで頭を下げるなら、あんたのことを信用してあげても良いわよ?」
「は? 今そんなこと、ぜんぜん関係なくね?」
「関係あるわよ。あんたのことを信用できるかどうか、って話じゃない。ほら、私のプリンを食べたことを、謝りなさいよ。謝ったら許してあげるから」
「くっ……」
姑息なヤツめ。
オレが窮地に陥ったと見て、マッタク関係のない要求を突き付けてきやがった。
オレは『今さら戻って来てくれと言われても、もう遅い』を言うために、冒険しているのだ。
そんなネタで、ここまで引っ張ってきたのである。ここに来て、まさかオレは敗北を喫してしまうというのか。
オレの冒険譚も、これで終幕だというのかッ。
「《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
ティーガー戦車異世界戦記 ~小さな希望を紡ぐ姫と鋼鉄の王虎を駆る勇者~
-
10
-
-
[毎日更新停止中 1分読書] 幼馴染に裏切られた最弱職業冒険者がセフレとともに頂点をとる
-
5
-
-
黒の魔術師
-
3
-
-
十年浪人して剣魔学院に入学したおっさん、聖女に見出だされたチートスキル『ハードパンチャー』で黄金の右を放つ~剣も魔法も赤点の劣等生なので悪役令嬢にパーティを追放されたけど今更戻ってこいとかもう遅い~
-
9
-
-
夜をまとう魔術師
-
5
-
-
100年生きられなきゃ異世界やり直し~俺の異世界生活はラノベみたいにはならないけど、それなりにスローライフを楽しんでいます~
-
6
-
-
幼馴染みが婚約者になった
-
8
-
-
《未来視》で一命を取り留めまくりました
-
9
-
-
【完結】パーティを追放された若き【医者】、実は世界最強の【細菌使い】〜患者を救うより、悪党を殺す方向で世界を良くしながら成り上がる!〜
-
5
-
-
お母さんは魔王さまっ~朝薙紗凪が恋人になりたそうにこちらを見ている~
-
4
-
-
僕のお姫様
-
2
-
-
《完結》解任された帝国最強の魔術師。奴隷エルフちゃんを救ってスローライフを送ってます。え? 帝国が滅びかけているから戻ってきてくれ? 条件次第では考えてやらんこともない。
-
7
-
-
予備心装士の復讐譚 ~我が行くは修羅と恩讐の彼方なりて~
-
8
-
-
その心が白銀色に染まるなら
-
2
-
-
彼の名はドラキュラ~ルーマニア戦記~改訂版
-
11
-
-
夏の仮睡
-
6
-
-
貧相なドラゴンだとバカにされたが、実は最速でした。いまさら雇いたいと言われても、もう遅い。
-
2
-
-
勇者はなぜチーレムなのか?~剣と魔法の異世界白書~
-
6
-
-
異世界でひたすらコンティニュー!
-
5
-
-
魔王と勇者は転生者ー絶対こいつには殺されん!ー
-
1
-
コメント