《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。

執筆用bot E-021番 

15-4.ミステリはもう、需要ないですかね?

 嵐の山荘クローズド・サークル――という言葉がある。端的に説明するなら、閉じ込められた屋敷とかで、殺人事件が起きる展開のことだ。


 世の中の名探偵たちが夢に見るほど憧れている状況である。


 殺人事件を夢見てる名探偵ってどうなんよ――と、思われるかもしれないが、事件が起きなければ、探偵もオマンマの食い上げなのだ。


 名探偵とかいう連中は「はよ、誰か死ねや」と思っているものだ。


 オレは今まさに、そういう状況下にいるのではないかしら? 


 出口はない。助けも来ない。しかも眠らせた犯人が、この中にいる。おぉ。嵐の山荘クローズド・サークルである。――って、感動している場合ではない。


 しかしまぁ、今日びこんなミステリ的な展開なぞ、誰も喜びはしない。誰得だよって話であるが、まぁここはダンジョンであるから、大目に見てやるか。いや。誰視点だよ。わはは。


「まさかお前じゃないだろうな」
 と、オレは勇者に問いかけた。


「何が?」
 と、勇者は問い返してきた。


 ガデムンとタンポポンとクロコの3人は1組となって、周囲の探索に出払っていた。


 階段を箱で閉ざされた部屋で待機しているのは、オレと勇者とマグロの3人である。


 ときおりゴブリンやらオークが出てくるので、勇者が処理している。勇者がいるぶん、モンスターにたいする不安はない。


「冒険者を眠らせた犯人だよ」
 と、オレは、ネニの鼻チョウチンを突きながら言った。
 キレイな鼻チョウチンが出来るものだ。


 眠ってさえすれば、ネニは美少女である。


「そんなわけないでしょーが。カイトやウィザリアだって眠らされてるのよ。自分の仲間まで眠らせてどうすんのよ」


「それはまぁ、そうだが」


 そんなことを言い出せば、ガデムンやタンポポンだって仲間を眠らされているのだ。


「そう言う、そっちこそ、犯人じゃないの?」


「いいや。断じて違う。勇者だってわかるだろ。オレは睡魔スリープなんて魔法は使えない」


「わかんないじゃない。《勇者パーティ》から追放したあと、自力で習得してるかもしれないじゃない」


「なんで睡魔スリープなんて習得しなくちゃならないんだよ」


 習得できるものなら、もっと別の魔法を習得している。


「あんたなら、習得しかねないわ。女の子を眠らせて襲っちゃおうとか、眠らせた相手から魔結晶を盗んでやろうとか、そういう不埒なことを考えそうなんだもの」


「オレの印象イメージ最悪すぎんだろッ」


 いや。
 悪くないな。
 睡魔スリープの魔法を学んでおくべきか?


 ネニなら、やり方を知ってるかもしれない。あとで教えてもらおう。


 待てよ。
 いまこの状況だって、ネニやデコポンは、無防備なわけだ。ほかにも女冒険者たちがいる。たぶん《容姿端麗組》の連中だ。


 この場にマグロと勇者がいなければ、手を出してもバレないのでは? やりたい放題できるのでは?


「いま、不埒なこと考えてたでしょ」


「はぁ! 考えてねェし、これっぽちも考えてねェし!」


 なんなんだ、この勇者。
 なんでオレの思考を読んでいるのか。昔から、そうなのだ。オレの思考をだいたい言い当てやがるのだ。


 厄介である。
 最恐最悪の敵である。


「だいたいわかんのよ。ホント最低。この性欲魔神!」


 なんという不名誉な二つ名をつけてくれるのか。まぁ、性欲魔神という肩書は、そんなに悪い響きではないな。


 パチン。
 ネニの鼻チョウチンが弾けた。起きるのかと思ったけれど、寝返りを打っただけだった。


「おう。無事だったか」
 と、ガデムン、タンポポン、クロコの3人が戻ってきた。


「そちらこそ無事でなによりです。どうでしたか? 水はありましたか?」


「悪報と吉報があるぜ」


 ガデムンたちの探索によると、出口は見つからなかった――とのことだ。ただし、水の湧き出ている場所はあった、ということだ。


 気がきくことに、水筒にいれてその水を汲んでくれてきた。


 おかげでノドの渇きをうるおすことは出来た。


「ありがとうございます。助かりました」


「しかし、この6人のなかに、眠らせてくるヤツがまぎれ込んでいるとは思いたくねェなァ」
 と、ガデムンは、ひときわ大きな水筒を持っていた。ガブガブ、と水を浴びるように飲んでいた。


 実際、ほとんどコボれていて、(革の鎧レザー・アーマーを濡らしていた。モッタイナイ気もするが、湧いているのなら良い。


「このなかに犯人がいるとして、なんで冒険者を眠らせてるんでしょうか」
 と、オレは質問を投げかけた。


「ンなもん、決まってるじゃねェーか。オレたちを殺すためだよ」
 と、ガデムンは、水筒の水をスキンヘッドの頭にぶっかけていた。この薄暗闇のなかでも、その禿頭が見事に輝いていた。


「殺すなら、殺せば良いでしょう。でも、眠らせてくるだけ――ってのが、中途半端じゃないですかね?」


「殺すのは手間なんだよ。眠らせるだけなら、円滑スムーズに出来るし、周りに不審に思われなくて楽だろ。万が一、冒険者と戦いにでもなってみろ。負けちまうかもしれねェだろうが。眠らせて、あとはモンスターに任せておけば、冒険者たちは勝手に死んでいくわけだ。わざわざ自分でトドメを刺すことねェだろ。戦いになっちまったら『魔結晶カメラ』に犯人の映像も映りこんじまうしな」


「はぁ」


 見事な推理である。
 推理っていうか、もしや自白してんのか? え? オレがやりました――ってことですかね?


「こうやってオレたちを閉じ込めて、眠らせていく作戦なんだよ。だとすりゃあ、この階段をふさいでるのも、犯人の仕業だろうな」
 と、ガデムンは持っていた水筒を、その巨大な箱に投げつけた。箱は冷然と、水筒を弾き返していた。


「これ、魔法で出したんでしょうかね」


「物理的に運んで来られる大きさじゃねェからな。まぁ、オレぐらいの怪力なら運んでこれるがな」


 ガハハ、とガデムンは得意気に笑っている。
 えー。
 自白してんのか、推理なのか、わかんないんですがッ。


「誰かの仕業として、動機はなんなんでしょうか?」


「ンなもん、ライバルの冒険者を減らそうって考えに決まってンだろ。オレなんて、いつも他の冒険者を叩き殺してやろうとか思ってるしな。ほかの冒険者減ってくれれば、もうちょいオレのところも需要が出てくるのになぁ」


 やはり自白なのか。
 周囲から疑惑の目を向けられることに気づいたのか、ガデムンはあわてて頭を振った。かぶりを振ったついでに、頭に付着していた水滴が飛散していた。


「いやいや。オレはべつにやってねェからな。あくまで推理だよ。推理」
 とのことだ。


 なんだ、テッキリ自白してるのかと思ってしまった。


「これはたぶん、鉱石か何かですよね」
 と、オレは階段をふさぐその箱を、手の甲でノックするようにして叩いてみた。カンカン。乾いた音が響く。


「こんな特殊な鉱石、見たことねェがな」


睡魔スリープも使えるし、こんな鉱石も出せるってことは、犯人は魔術師ってことにまりますがね。しかもかなり凄腕の」


「たしかに、そう推理できるわな。だったらオレじゃねェぞ。オレは見てくれの通り、前衛の戦士だからな」


 たしかにガデムンの図体が、後衛の魔術師ということはないだろう。もしその身形で魔術師をやっているのなら、宝の持ち腐れである。
 魔法を使うまえに、コブシでゴブリンぐらいなら潰せそうだ。


「なら私も違うわ」
 と、勇者が言う。


 たしかに勇者も、前衛剣士である。多少は魔法も使えるようだが、こんな鉱石を出せた覚えはない。


 オレも犯人ではない。そんなことは、オレ自身がイチバン良くわかっている。


 内に秘めたるもう1人のオレが目覚めていれば、別の話だが、今のところそんな覚えもない。オレとずっといっしょにいたマグロも犯人ではない。


 だったら――。
 と、タンポポンとクロコのほうに、オレは目を向けた。


 ふたりはあわてて否定していた。


 タンポポンも前衛の戦士。得物はムチだということだ。その証拠に携帯していたムチを見せてくれた。叩かれたい。


 クロコはオレと同じく強化術師であって、魔法は使えないということだ。


 と――すると、みんなを眠らせてるヤツは、ここにはいない、第三者、ということだろうか?

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