《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。
11-1.魔法で飲水が出せるなら便利なのに!
「あー、殺し屋になりたいなぁ」
平原。
オレをはじめとする《炊き立て新米》パーティは馬車に乗っていた。
リーダーはマグロなんだから、そこは「マグロをはじめとする」と言うべきだろうか――。いやでも、実質オレがリーダーみたいなもんだし、オレをはじめとする、ってことで良いだろ。
マグロをはじめとする――となったら、なんかオレが付属品みたいになってしまう。それは気に入らない。
馬車の荷台である。
平坦な街道なのに、振動が激しい。車輪からギィギィと耳障りな音が聞こえる。しかも御者はいまにも死にそうな老爺である。天幕も張られておらず、容赦なく日差しがふりそそく。このままでは人間の素焼きが出来上がってしまう。
「悪りぃ。なんか聞き違えたみたいだわ。なんつった?」
と、ネニが問い返してきた。
「だから、殺し屋になりたいな――って」
「ああ。聞き違えてなかったわ」
「なら良かった」
座っているだけなのに、汗がダラダラと流れてくる。
さすがのネニも眠っていられなかったようで、荷台に腰かけている。デコポンも熱にやられたようで、ボーッとした顔をしている。
マグロだけはこの暑気をものともせずに、おにぎりを頬張っていた。
「この熱で、頭がやられちまったか?」
「いいや」
「じゃあなんで殺し屋が出てくんだよ」
「冒険者ってのも、飽きてきたなぁ――と、思ってさ」
冒険者なんて星の数ほどいる。命がかかった仕事だというのに、次から次へとポコポコと冒険者が生まれてくる。
そんなに数がいるなら、別にオレが冒険者をやる必要もないんじゃね……と思った次第である。
「勇者に『今さら戻って来てくれと言われても、もう遅い』って言うためにガンバるんじゃなかったのかよ。まぁ、その目的もくだらないうえに、不純だけどよ」
「なにがくだらないだ。オレにとっては重大な問題だ」
「じゃあ、冒険者を辞めるわけにゃ、いかねェだろうが。つーか、なんで殺し屋なんだよ」
「イケてるから?」
殺し屋とか、暗殺者といった響きは、なんかこう、心臓あたりをくすぐられるような響きがある。
「夢見すぎだろ。人を殺して稼ぐ連中なんて、ロクでもねェ。まぁ、ナナシィぐらいのクズならお似合いかもしれねェが」
「いや。オレはクズなんじゃなくて、ハードボイルドなんだよ。つまりイケてるってこと。仲間の死にも動じない強い男なわけ」
「誰の話してんだ?」
と、ネニが首をかしげた。
ネニのかぶっているツバの広い三角帽子が傾いた。帽子からは白銀の長い髪がコボれている。
「オレの話に決まってんだろ。なんでここで他人の話をしなくちゃならないんだよ」
「まぁ、暗黒ギルドってのがあるが」
冒険者ギルドみたいに、そういう闇の稼業の者たちにもギルドがある。殺しや窃盗などの依頼をこなしていると聞いたことがある。
そんな物騒な連中が、どうして消えないのか――と言うと、王国貴族のお偉いさんが裏にいるとか、そんなウワサがある。
貴族社会は、そんな連中を使わなければならないほどに、ドロドロしてるんだろう。
「そこに所属してみよーかな」
と、オレはそう呟いた。
べつに深い考えがあるわけではない。思いつきである。
「やめとけ、やめとけ。そもそもナナシィは強化術師なんだし、自分じゃなんも出来ねェだろうが」
「なんか地味に、強化術師のこと貶ってないか?」
「貶ってねェよ。ナナシィのことは貶ってるが」
「ああ、そう」
この暑さのせいで、怒る気にもならない。
暑ちぃのじゃー、とデコポンも薄手のシャツ1枚の姿になっている。襟ぐりのあたりをパタパタ引っ張って、涼を得ようとしていた。
非常に薄いシャツで、どうにかすれば乳房や脇といった繊細なところが見れるんじゃないか、とさっきから目を凝らしているのだが、なかなか隙が生まれない。
「冒険者って死ぬ危険性があるくせに、見返りが薄いとオレは思うんだよな。リスクが大きいって言うかさ」
「ああ。そうだな。殺し屋もいっしょだろうけどな」
「それに、モンスターと戦うのもダルいし」
「人殺すほうがダルいだろうが。そもそもナナシィは後衛で強化術かけてるだけで、ぜんぜん戦わねェだろうが」
ネニはそう怒鳴ると、トンガリ帽子を脱いで、その帽子でみずからをあおいでいた。
「それに、金欠だ」
金――魔結晶があれば、もうちょっと良い馬車を雇えたのだ。せめて天幕を張ってくれている馬車ぐらい雇えた。《炊き立て新米》は常に金欠だ。
どれだけ魔結晶が手に入っても、すぐに溶けていく。この3人娘はぜんぜん働かないくせに、よく食べるのだ。
「たしかに、この金欠は解消しなくちゃならねェがな」
と、ネニはその白銀の髪をかきあげた。
ふわっと甘い香りが漂ってきた。こう見えても女の子である。いや。見た目だけなら、美少女なのだ。ただ人狼であることと、口調が荒いのが厄介だ。
あ、そうだ――とネニがつづける。
「ナナシィの強化術で、私たちのこと涼しく出来ねェのかよ」
「そういう強化術はないんだよ」
ウソだ。
出来る。が、したくない。
強化術は自分にはかけれないのだ。マグロとデコポンとネニだけが涼しくなると言うだけで、オレはいっこうに涼しくならない。むしろ強化術を使うぶんだけ、疲れる。最悪である。
いちおう強化術にだって体力を使うのだ。オレがなんの苦労もしていないとか思っているヤツがいたなら、強化術がいかに苦しい魔法なのか聞かせてやりたいところだ。
「マジで? なんかウソくせェな」
「マジだって、あー。水、水」
ノドが乾いた。
水筒に入っている水を飲もうとしたときだ。
ゲフォッ、とマグロが盛大にむせていた。どうやら米粒をノドに詰まらせたらしい。オレが飲もうとしていた水を、ひったくるとゴクゴクとノドを鳴らしてガブ飲みしやがった。
「あーっ、助かったー。マグロは死ぬかと思ったのでありますよ」
「オレの水なんですけどーッ、オレが死にそうなんですけどーッ」
ネニが魔法で水を出せるけれど、魔法で出した水に、ノドを潤う効果はない。そんな効果があったら、水売りたちのオマンマが食い上げである。
「心配ないのです。もう王都は、すぐそこに見えているのでありますよ」
緑の平原のなか。城壁に囲まれた大きな都市がある。
この国の都――王都テンペストである。
平原。
オレをはじめとする《炊き立て新米》パーティは馬車に乗っていた。
リーダーはマグロなんだから、そこは「マグロをはじめとする」と言うべきだろうか――。いやでも、実質オレがリーダーみたいなもんだし、オレをはじめとする、ってことで良いだろ。
マグロをはじめとする――となったら、なんかオレが付属品みたいになってしまう。それは気に入らない。
馬車の荷台である。
平坦な街道なのに、振動が激しい。車輪からギィギィと耳障りな音が聞こえる。しかも御者はいまにも死にそうな老爺である。天幕も張られておらず、容赦なく日差しがふりそそく。このままでは人間の素焼きが出来上がってしまう。
「悪りぃ。なんか聞き違えたみたいだわ。なんつった?」
と、ネニが問い返してきた。
「だから、殺し屋になりたいな――って」
「ああ。聞き違えてなかったわ」
「なら良かった」
座っているだけなのに、汗がダラダラと流れてくる。
さすがのネニも眠っていられなかったようで、荷台に腰かけている。デコポンも熱にやられたようで、ボーッとした顔をしている。
マグロだけはこの暑気をものともせずに、おにぎりを頬張っていた。
「この熱で、頭がやられちまったか?」
「いいや」
「じゃあなんで殺し屋が出てくんだよ」
「冒険者ってのも、飽きてきたなぁ――と、思ってさ」
冒険者なんて星の数ほどいる。命がかかった仕事だというのに、次から次へとポコポコと冒険者が生まれてくる。
そんなに数がいるなら、別にオレが冒険者をやる必要もないんじゃね……と思った次第である。
「勇者に『今さら戻って来てくれと言われても、もう遅い』って言うためにガンバるんじゃなかったのかよ。まぁ、その目的もくだらないうえに、不純だけどよ」
「なにがくだらないだ。オレにとっては重大な問題だ」
「じゃあ、冒険者を辞めるわけにゃ、いかねェだろうが。つーか、なんで殺し屋なんだよ」
「イケてるから?」
殺し屋とか、暗殺者といった響きは、なんかこう、心臓あたりをくすぐられるような響きがある。
「夢見すぎだろ。人を殺して稼ぐ連中なんて、ロクでもねェ。まぁ、ナナシィぐらいのクズならお似合いかもしれねェが」
「いや。オレはクズなんじゃなくて、ハードボイルドなんだよ。つまりイケてるってこと。仲間の死にも動じない強い男なわけ」
「誰の話してんだ?」
と、ネニが首をかしげた。
ネニのかぶっているツバの広い三角帽子が傾いた。帽子からは白銀の長い髪がコボれている。
「オレの話に決まってんだろ。なんでここで他人の話をしなくちゃならないんだよ」
「まぁ、暗黒ギルドってのがあるが」
冒険者ギルドみたいに、そういう闇の稼業の者たちにもギルドがある。殺しや窃盗などの依頼をこなしていると聞いたことがある。
そんな物騒な連中が、どうして消えないのか――と言うと、王国貴族のお偉いさんが裏にいるとか、そんなウワサがある。
貴族社会は、そんな連中を使わなければならないほどに、ドロドロしてるんだろう。
「そこに所属してみよーかな」
と、オレはそう呟いた。
べつに深い考えがあるわけではない。思いつきである。
「やめとけ、やめとけ。そもそもナナシィは強化術師なんだし、自分じゃなんも出来ねェだろうが」
「なんか地味に、強化術師のこと貶ってないか?」
「貶ってねェよ。ナナシィのことは貶ってるが」
「ああ、そう」
この暑さのせいで、怒る気にもならない。
暑ちぃのじゃー、とデコポンも薄手のシャツ1枚の姿になっている。襟ぐりのあたりをパタパタ引っ張って、涼を得ようとしていた。
非常に薄いシャツで、どうにかすれば乳房や脇といった繊細なところが見れるんじゃないか、とさっきから目を凝らしているのだが、なかなか隙が生まれない。
「冒険者って死ぬ危険性があるくせに、見返りが薄いとオレは思うんだよな。リスクが大きいって言うかさ」
「ああ。そうだな。殺し屋もいっしょだろうけどな」
「それに、モンスターと戦うのもダルいし」
「人殺すほうがダルいだろうが。そもそもナナシィは後衛で強化術かけてるだけで、ぜんぜん戦わねェだろうが」
ネニはそう怒鳴ると、トンガリ帽子を脱いで、その帽子でみずからをあおいでいた。
「それに、金欠だ」
金――魔結晶があれば、もうちょっと良い馬車を雇えたのだ。せめて天幕を張ってくれている馬車ぐらい雇えた。《炊き立て新米》は常に金欠だ。
どれだけ魔結晶が手に入っても、すぐに溶けていく。この3人娘はぜんぜん働かないくせに、よく食べるのだ。
「たしかに、この金欠は解消しなくちゃならねェがな」
と、ネニはその白銀の髪をかきあげた。
ふわっと甘い香りが漂ってきた。こう見えても女の子である。いや。見た目だけなら、美少女なのだ。ただ人狼であることと、口調が荒いのが厄介だ。
あ、そうだ――とネニがつづける。
「ナナシィの強化術で、私たちのこと涼しく出来ねェのかよ」
「そういう強化術はないんだよ」
ウソだ。
出来る。が、したくない。
強化術は自分にはかけれないのだ。マグロとデコポンとネニだけが涼しくなると言うだけで、オレはいっこうに涼しくならない。むしろ強化術を使うぶんだけ、疲れる。最悪である。
いちおう強化術にだって体力を使うのだ。オレがなんの苦労もしていないとか思っているヤツがいたなら、強化術がいかに苦しい魔法なのか聞かせてやりたいところだ。
「マジで? なんかウソくせェな」
「マジだって、あー。水、水」
ノドが乾いた。
水筒に入っている水を飲もうとしたときだ。
ゲフォッ、とマグロが盛大にむせていた。どうやら米粒をノドに詰まらせたらしい。オレが飲もうとしていた水を、ひったくるとゴクゴクとノドを鳴らしてガブ飲みしやがった。
「あーっ、助かったー。マグロは死ぬかと思ったのでありますよ」
「オレの水なんですけどーッ、オレが死にそうなんですけどーッ」
ネニが魔法で水を出せるけれど、魔法で出した水に、ノドを潤う効果はない。そんな効果があったら、水売りたちのオマンマが食い上げである。
「心配ないのです。もう王都は、すぐそこに見えているのでありますよ」
緑の平原のなか。城壁に囲まれた大きな都市がある。
この国の都――王都テンペストである。
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