《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。

執筆用bot E-021番 

10-3.そんな作戦聞いてないんですけども?

「そこまでよ!」


 人狼となったゴルドに迫られて、今度こそ命の危機を覚えていた。こんな夜更けでは、誰も助けに来てくれないだろう。絶望していたのだが、意外にも声が割り込んだ。勇者の声だった。


「なにッ」
 と、ゴルドは勢いよく天を見あげていた。建物の屋上から、壁をつたって勇者が下りてきた。
オレとゴルドのあいだに割って入った。


「おっ、ナイスタイミング」


 考えてみれば、オレをこの場所に呼び出したのは勇者だ。
 勇者がここにいるのは、何も意外なことではない。


「あんたを餌にして、ゴルドの素性を暴いてやろうって作戦は、上手くいったみたいね」


「え? オレを餌にして、ゴルドの素性を暴く? そんな作戦オレは、これっぽっちも聞いてないが」


「敵を欺くには、まず干物からって言うでしょう」


 勇者はカラダをゴルドに、背中をオレに向けた状態で立っていた。
 首だけ振り返って、そう言った。


「味方な」


「それよ、それ」


 わざと間違えているんじゃなかろうか――と、ときどき思うことがある。


「なに? オレは餌にされてたの?」


「ええ。だから夜更けにこの場所に呼び出したのよ。ゴルドが人狼だって、あんたが言うから、試してみようと思って」
 と、悪びれる様子もなく勇者は言った。


「だからって、なにもオレを餌にすることないだろーっ。他のヤツでも良いじゃないかッ」


「あんたは前に一度、人狼に襲われそうになってるでしょーが。餌として人狼を釣るには都合が良かったのよ! 実際、ゴルドが人狼だって、判明したじゃない」


 カラダごと振り返って、そう怒鳴ってきた。
 それを言われると、返す言葉に困る。


 しかし餌として利用されたと思うと、どうも不愉快である。
 世界最強の魔術師であるこのナナシさまが、そんな粗雑に扱われて良いはずがない。


「だいたい、お前がゴルドの告白プロポーズを断るから、オレが襲われるハメになったんじゃないか」


 そう考えてみれば、オレが襲われたのも勇者の責任である。


「はぁ? なんで私が、こんなキザなアシメ野郎の嫁にならなくちゃいけないのよ。だいたい言葉づかいもキモイし」
 と勇者は、ゴルドのことを指差してそう言った。


 グヌヌ、とゴルドは唸ってつづけた。
「やはりあなたたちは、相思相愛のようですね」


「どこをどう見れば、そうなるのよ。このオタンコナス!」


「そうだ、勇者。もっと言ってやれ! だいたい勇者がオレのことを好きなら、パーティから追放したりするはずないだろ」


 勇者の舌鋒がゴルドに向くかと思いきや、オレのほうに戻ってきた。


「だって、それは、あんたが私のプリンを食べるからでしょーが。しかもなんの仕事もしないし。軽い気持ちで出て行けって言ったのに、ホントに出て行くと思わないじゃないの!」


「軽い気持ち? 軽い気持ちだと? いったいオレがどんな気持ちで追放されたと思ってるんだ。オレはいたく傷ついたね」


「だからそれは、『パーティに戻らせてください』って、一言謝れば済む話じゃない!」


「いいや。『パーティに戻って来てください』って言われるまで、オレは戻るつもりはないね!」


 にらみ合いである。
 オレのことを追放したあげくに、人狼を釣るための餌として使う。


 この勇者のどこをどう見れば、オレのことが好きだという解釈が出来るというのか。
 ゴルドはどうやら脳みそまで、人狼のようだ。


「ヤカマシイ! 痴話ゲンカに巻き込むな。素性を知られた以上は、放っておけん。ここでふたりとも殺してやる」
 と、ゴルドは口調を乱して跳びかかってきた。


「ナナシ」
「わかってる」


 勇者に強化術をかけた。勇者はそれを受けて、ゴルドの背後に回った。


 そして、いともたやすくゴルドのことを昏倒させたのだった。


「強化術のほうは劣ってないみたいね」


「当たり前だ。オレを誰だと思っている。ただひたすら強化術をきわめし男だぜ」


「自分がモンスターと戦いたくないからでしょ」


「なッ……」


 この勇者、見抜いてやがる。


「だいたいね、あんたいつまで私のことを、勇者って呼ぶつもりよ。いい加減に名前で呼びなさいよ。追い出されてから一度も、私の名前を呼んでないでしょーが」


「いいだろ別に。ユウナも勇者もそんなに大差ないじゃないか」


「大差あるわよ。肩書きと名前でしょーがっ。あんたには、そんなこともわからないわけ? バッカじゃないの!」


「いちいち、そうやって人を煽るような言い方をしやがって。もう少しマシな言い方があるだろ!」


「はぁ?」


 昏倒しているゴルドを置き去りにして、オレとユウナとしばし口舌を戦わせることになった。

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