《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。

執筆用bot E-021番 

9-4.惨殺事件の犯人は、その男なんだよ!

 勇者のロングソードと、人狼ウェア・ウルフとなったネニの爪が、つばぜり合っていた。


 ご覧の通り、交渉失敗である。


「都市スバレイで惨殺事件を起こしているのはゴルドだ。この人狼はオレたちの味方なんだ」
 と、オレはそう言った。


「ンなわけないでしょーが。追い出されたからって、変な言いがかりをするのはやめなさい!」
 と、返された。


 まぁ、たしかにゴルドが素性を晒さない以上は、ネニのほうがどう見ても怪しい。人狼であることを、その姿で証明してしまっているのだ。


 勇者がネニのことを捕えようとしてくるものだから、ネニのほうも応戦せざるを得なくなった――という運びである。


「ッたくよ、てめェの交渉も当てにならねェなァ。どうすんだよ、おい!」
 と、ネニが怒鳴るように尋ねてきた。


「こうなりゃ仕方ない。実力行使で、ゴルドの素性を暴き出すしかないだろう」


「こっちはもう戦ってンだよ」


 日中は鮮やかな緑の広がる丘陵だ。いまは深更ということもあって真っ暗だ。ただゆいいつ月明かりだけが、舞台を薄明るく照らしていた。


「ふふっ。このときを待っていたぜ。これはまるでオレのために用意された舞台ではないか!」


 左手の5指を開いて顔を覆う。
 指の隙間からオレは顔をのぞかせた。


 勇者パーティから追放されたオレが、勇者パーティを見返す最大の好機チャンスではないか。


 勇者パーティに新規加入したゴルドは、強化術で勇者を強化している。一方で、ネニの強化バックアップをつとめるのはオレだ。


 真っ向から戦うということは、いったいどちらの強化術師が優秀なのか比較することになるにも等しい。


 これは、オレの強化術師としての実力を証明するために用意された舞台なのだ。


「ナナシィ! カッコウつけてねェで、さっさと強化術を施してくれ!」


 ネニは勇者パーティに押されているようだ。


「そう急かすな、ネニ。世界最強の強化術師のチカラを、とくと知るが良い! お見せしようか。我が強化術の真骨頂を」


 勇者がネニを切り伏せようと、剣を上段から振り下ろした。月明かりに照らされた一閃が、オレのところからもよく見えた。


 金剛鎧。聖女の祝福。


 付与した。
 皮膚が硬くなり、傷がついても修復される強化術だ。ネニのカラダが薄い光の膜につつまれた。勇者の一閃をはじいた。


「身に染みてわかるぜ。ナナシィの強化術が口だけじゃないってことがな。なんか万能感に包まれる」


「そうだろう。ネニよ。もっともホめてくれて構わんぞ」


 ゴルドの強化術を受けた勇者と、オレの強化術を受けたネニ。


 剣と爪でやり合っていた。あきらかにネニのほうが押している。ネニが受け切れない一太刀も、オレの強化術によって、弾くことが出来るのだ。


「ゴルドはパーティの奥に引っ込んでやがる。これじゃあ手が出せねェ」


「案ずるな」


 蛇蝎の匍匐。駿馬の奇跡。死神の接吻。


 付与した。
 これで速度が上がり、姿を捕えることが難しくなる。前衛の勇者、盾役タンクのカイトのあいだをすり抜けるようにして、ネニはゴルドに迫った。


 その俊敏は、さながら一陣の夜風であった。オレの強化術だけじゃなくて、ネニの人狼としてのチカラも上乗せされているのだろう。


 ネニの爪が、ゴルドに振り下ろされた。


 ゴルドはそれをショートソードで受け止めていた。そう言えば、前衛もこなせるとか言っていたな。憎たらしいヤツめ。


「獰猛なる精神。巨象の蹂躙」
 付与した。


 ネニはゴルドのことを組み伏せた。これで決まりだと思ったのだが、そうアッサリといかないのが勇者パーティだ。


 ウィザリアの発した火球ファイア・ボールが、ネニを襲った。


 強化術で防ぎきることが出来たようだが、爆発したさいに黒煙が発生した。その黒煙に乗じて、勇者がネニに斬りかかっていた。


 その隙に、ゴルドがカイトに匿われていた。ネニのほうも態勢を立て直して、オレの手前にまで後退してきた。


「さすが勇者パーティってところか」


「そう言うネニだって、とてもFランク冒険者の動きじゃないよ」


「人狼になってるからな。このモードだと、よく動ける」


「普段のダンジョン攻略も、その姿でやれば良いんじゃないのか?」


「他の冒険者をビビらせちまうだろうが」


 そう言えば、教会を追い出されたとか言っていた。人狼には人狼ならではの苦労とかが、あるのかもしれない。


「だけど、魔術師のくせに、魔法をぜんぜん使わないんだな」


「そりゃ、人狼のほうがチカラが出るからな」


「へぇ」


 それって、魔術師やってる意味あんのかね。突っ込みたいところだが、そんな余談してる場合ではない。


「しかし、ゴルドの本性を暴くのは、なかなか難しいな。あの野郎、組み伏せても本性を見せやがらなかった」


「ふふん。ならもう少し強化術を強めるだけだ。あとの筋肉痛が酷いだろうが、耐えてくれよ」


 今の感じならば、勝てる。
 これでオレの強化術師としての優秀さを証明することができる。ついでに、ゴルドを捕えて「10万ポロム」を獲得できる。


「ああ。やってやろうじゃねェーか」
 と、ネニが前傾姿勢になった。


 戦闘態勢になっているのかと思ったのだが、ネニはそのまま倒れ伏してしまった。


「え? なんだ?」


「寝るわ。疲れた」


 人狼モードが解けて、人の姿に戻っていた。裸である。うつ伏せに倒れているため、白い背中と肩甲骨の盛り上がりが見えた。しかしこんな大事な局面で欲情している場合ではない。


「えぇぇ――ッ。寝るなぁぁッ。起きてくれぇぇッ」


 揺すってみたのだが、
「くぅくぅ」
 と、心地良さそうな寝息を立てるだけだ。ヨダレまで垂らしてやがる。


「で? どうして人狼の味方なんかしてるのかしら? そこのところ詳しく教えてもらおうじゃない?」


 勇者。カイト。ウィザリア。そしてゴルドの4人が、オレを取り囲んだのだった。


 勇者なんかコブシの骨をポキポキ鳴らしている。


 一転して、窮地である。


 くそぅ。
 あと一歩のところで、万事うまく行くはずだったのに。これではすべてがオジャンだ。


「ま、待ってくれ。オレの話を聞いてくれよ。ネニはオレの味方で、悪いヤツじゃないんだよ」


「まだそんなこと言ってるわけ? どうせその女に誑かされたんでしょ。あんたは昔から、女の人によくダマされるんだから。チョットは気を付けなさいよ」


「なに? オレがいつダマされたって言うんだ」


「昔からよくダマされてたでしょーが。故郷にいたころ、あんた女盗賊に3度も誘拐されかけてるじゃない」


「子供のころの話を持ち出すんじゃねェ。当時は人を疑うことの出来ない善良な少年だっただけだ!」


「色気を見せられたら、すぐになびいちゃうんだから。そろそろ私たちのパーティに戻ってきたほうが良いんじゃない?」


「だ、誰が戻るか! だいたいオレの代役はもう見つけたんなら、オレなんて必要ないじゃないか」


「べつに強化術師が2人いても良いじゃない。あんたのチカラは強力だし、まぁ、なんて言うか……」


 勇者はモミアゲを耳にかけると、周囲をうかがうかのように首を振ってみせた。


「なんて言うか。なんだよ?」


「戻って来てくれたほうが、私としては、ありがたいって言うか?」


 刹那。
 オレのカラダには、雷が落ちたかのような衝撃がはしった。


 これはもしや『戻ってきてくれアピール』なのではないか? オレのチカラを必要とした勇者は、ついに折れたのだ。


 今こそあのセリフを――。『今さら戻って来いと言われても、もう遅い』を言い放ってやるときなのではないか。


 そうだ。
 幼きころより、オレのことを虐げつづけてきた――具体的には、寝小便をしたことを村中に言いふらしたりとか、寝ているあいだにオレの顔に落書きをしてきたりとか、走りでも腕相撲でも釣りで狩猟でも、オレより好成績を残してマウントを取ってきたりとか、あげていけば切りがない――悪逆非道なこの勇者にわからせてやるのだ。


 さあ。
 言ってやろう。
 そう思ったやさきである。


 ゴルドが割って入ってきた。


「勇者。この男は人狼の共犯ですよ。勧誘なんてやめてください。即刻、騎士にひきわたして捕えてもらいましょう。勇者にはもっと良い男がいるはずです。こんな男を相手にする必要などありませんよ」


 ゴルドは薄く笑って、勝ち誇ったような笑みを向けてきた。


「べ、べつに男として見てるわけじゃないわよ!」


「でしたら、さっさと捕えてしまいましょう」


「……そうね」
 と、勇者は仕方ないとため息を吐いて、オレのことを拘束したのだった。


 こうしてオレは捕えられたのである。めでたし、めでたし――なわけあるかーッ。


 これからどうしようか。

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