《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。

執筆用bot E-021番 

6-2.筋肉痛がすごいから、気を付けてね!

「これは、悲惨だな。まさか下層でこんな光景を目にすることになるとはな」


 石造りの空間。もうすこしでダンジョンの出口というところで、凄絶ヤバい景色を目の当たりにすることになった。


 床や壁面を濡らす血液。飛散している人肉。臓物と思われるものも飛び散っている。そして鼻につく死の香り。


 そうだ。ここは、ダンジョン、なのだ。思い出させられる情景であった。


「うおぇぇっ」
 と、デコポンは嘔吐していた。


「大丈夫か?」


「ナナシィは大丈夫なのじゃ?」


「オレは、見慣れてるからな」


「み、見慣れてるって、まさか今まで大量の殺人を……っ」


「違げェ。上層に行けば良くあることだ。自分が優れた冒険者だと信じ込んで、モンスターに返り討ちにされることは、決して少なくない」


「ナナシィは、こんなところで戦っておったのか?」


 デコポンが寄り添って来た。その頭にオレは手を置いた。


「案ずることはない。オレがついてる」


「う、うむ」
 と、革の鎧レザー・アーマーの袖で、口もとをぬぐっていた。腹が減ってヨダレが出たわけではなくて、さっきの吐しゃ物をぬぐったのだろう。


 ドスン……ドスン


 地響きとともに、足音のようなものが接近してくる。薄闇の向こうから、その巨体は姿を現した。
 全身を紫色にかがやかせるゴーレムである。


 これは。
「まさかこんな下層でめぐり合わせるとはな。魔結晶ゴーレムだ」


 オレの5倍ぐらいの大きさがある。魔結晶が人の形をなしたものだ。


 ここにいる冒険者たちを惨殺したのも、魔結晶ゴーレムだろう。
 返り血で赤く染まっている。


「こ、これが……」
 と、デコポンはシリモチをついていた。


「ここを抜けなくちゃ帰れねェが、どうやらそう簡単に通してくれなさそうだな」


「に、逃げるのじゃ。私は上層に向かった勇者を呼んでくるのじゃ」


「いや待て」


 逃げ出そうとするデコポンの腕をつかんだ。


「な、なにをするんじゃッ」


「こいつはオレたちでやるぞ」


「うげぇ」


「どうした? またゲロか?」


「違う。うなり声じゃわ。こんなの私にはムリなのじゃー。逃げるのじゃー」


 足を車輪みたいにして回転させるデコポン。
 腕をつかんで、この場に留めた。


「待て待て待て。この魔結晶ゴーレムを倒せば、大量の魔結晶が手に入る。だからこそ、勇者たちも探しに来ているわけだ」
 と、オレは前方から迫るゴーレムを指差して言った。


「それで?」


「こいつを倒せば、大富豪だ。デコポンの言ってた、故郷を買い取るって目的にグッと近づくと思うが?」


「お、おう。しかしじゃな、う、うむむ」


「なんだ?」


「ワシには倒せん。っていうか、怖い。さっさと逃げるのじゃよ」


「良いのか、それで? 故郷を買い取りたいんだろ。勇者に手伝ってもらえば、ヤツの手柄になるぞ」


「……しかし。ワシには……」


 今まで真っ先に逃げていたデコポンだったが、今回ばかりは逡巡しているようだ。


 戦うか、逃げるか。


 その逡巡はオレにだってよくわかる。デコポンが逆落とし穴によって、上層へ連れて行かれたときには、オレも激しく懊悩した。


 きっとあのときのオレみたいな懊悩が、デコポンの脳内でも繰り広げられているのだろう。


 しかし戦ってもらわねば困る。


 勇者に頼るなんてまっぴらゴメンだ。オレにだってプライドというものがあるのだ。他人の目玉焼きにソースをかけてくるようなヤツに、なにゆえ頼らねばならんのか。


「安心しろ。オレを誰だか忘れたかい? 勇者パーティで、長らく強化術師を担当してきた、このナナシさまが付いているじゃないか」


「追放されておるがな」


「それは言うな」


「ナナシィを信じて良いのじゃな?」


「ああ。なんの苦労もない。ただそこにいるだけで良い」


 デコポンは水晶みたいな青い双眸をオレに向けてきた。


 こうして真正面からデコポンを見てみると、額がやたらと広いということに気づいた。そのせいか顔立ちも幼く見える。


「頼むぞ」


「任せろ」


 デコポンは大盾を構えて、魔結晶ゴーレムににじり寄った。ゴーレムと対峙する。ゴーレムが腕を振り上げた。


「守護針」
 と、強化術をとなえる。


 デコポンの装備している大盾から、ウニのごとく大量の針が生えた。それが魔結晶ゴーレムを貫いた。


 魔結晶ゴーレムのカラダをけずる針の音が響く。
 魔結晶ゴーレムが後ろによろめいた。が、態勢を立て直して、針を殴りつけた。


 針がバキバキと折られてゆく。折られた針が床に散らばった。


 ゴーレムを前傾姿勢になると、デコポンに向かって疾走した。
 その巨体とは不釣りあいな素早い走りだった。踏み込むたびに、ダンジョン全体が揺れているかのようだった。


「ひぇ」
 と、デコポンが不安気にオレのほうを振り向いてきた。


「心配するな。前だけ見てろ。オレの強化術はまだまだこんなものではない」


「お、おう」
 と、デコポンはやや奮い立ったようで、前に向きなおっていた。


「大盾強化。アイアスの盾」


 デコポンの盾が2回りほど大きくなる。さらに盾の前方にも魔法の盾が幾重にも展開された。


 ゴーレムとデコポンが衝突する。魔法の盾をいくつか砕かれたが、ゴーレムの疾走を食い止めることが出来た。


「仕上げだ。デコポン。ヤツを押し潰せ」


「お、押しつぶすゥ?」


「出来るはずだ」


 強化術。


 闘牛の加護。
 戦士の矜持。
 悪魔の心臓。
 次々と強化術をほどこしていく。


 デコポンとゴーレムが取っ組み合うような構図になった。巨大化した盾で押すデコポン。それを押し返そうとするゴーレム。チカラとチカラの衝突だった。


「ふッ。チェック・メイトだ」


 ゴーレムが壁に叩きつけられた。そしてもう一度、守護針を発生させた。ゴーレムのカラダがその場でジェンガのように崩壊したのだった。


「す、すごいのじゃ。これがナナシィの強化術……。私ではゼッタイに倒せない相手だったのじゃ」


「ああ。そう言えば、マグロにも言ったんだけどさ」


「なんじゃ?」


「術が解けたら筋肉痛とかすごいから、気を付けてね」


「へ?」


 ギャァァ――ッ、という筋肉痛による悲鳴が、ダンジョンに響きわたったのだった。

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