《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。
6-2.筋肉痛がすごいから、気を付けてね!
「これは、悲惨だな。まさか下層でこんな光景を目にすることになるとはな」
石造りの空間。もうすこしでダンジョンの出口というところで、凄絶い景色を目の当たりにすることになった。
床や壁面を濡らす血液。飛散している人肉。臓物と思われるものも飛び散っている。そして鼻につく死の香り。
そうだ。ここは、ダンジョン、なのだ。思い出させられる情景であった。
「うおぇぇっ」
と、デコポンは嘔吐していた。
「大丈夫か?」
「ナナシィは大丈夫なのじゃ?」
「オレは、見慣れてるからな」
「み、見慣れてるって、まさか今まで大量の殺人を……っ」
「違げェ。上層に行けば良くあることだ。自分が優れた冒険者だと信じ込んで、モンスターに返り討ちにされることは、決して少なくない」
「ナナシィは、こんなところで戦っておったのか?」
デコポンが寄り添って来た。その頭にオレは手を置いた。
「案ずることはない。オレがついてる」
「う、うむ」
と、革の鎧の袖で、口もとをぬぐっていた。腹が減ってヨダレが出たわけではなくて、さっきの吐しゃ物をぬぐったのだろう。
ドスン……ドスン
地響きとともに、足音のようなものが接近してくる。薄闇の向こうから、その巨体は姿を現した。
全身を紫色にかがやかせるゴーレムである。
これは。
「まさかこんな下層でめぐり合わせるとはな。魔結晶ゴーレムだ」
オレの5倍ぐらいの大きさがある。魔結晶が人の形をなしたものだ。
ここにいる冒険者たちを惨殺したのも、魔結晶ゴーレムだろう。
返り血で赤く染まっている。
「こ、これが……」
と、デコポンはシリモチをついていた。
「ここを抜けなくちゃ帰れねェが、どうやらそう簡単に通してくれなさそうだな」
「に、逃げるのじゃ。私は上層に向かった勇者を呼んでくるのじゃ」
「いや待て」
逃げ出そうとするデコポンの腕をつかんだ。
「な、なにをするんじゃッ」
「こいつはオレたちでやるぞ」
「うげぇ」
「どうした? またゲロか?」
「違う。うなり声じゃわ。こんなの私にはムリなのじゃー。逃げるのじゃー」
足を車輪みたいにして回転させるデコポン。
腕をつかんで、この場に留めた。
「待て待て待て。この魔結晶ゴーレムを倒せば、大量の魔結晶が手に入る。だからこそ、勇者たちも探しに来ているわけだ」
と、オレは前方から迫るゴーレムを指差して言った。
「それで?」
「こいつを倒せば、大富豪だ。デコポンの言ってた、故郷を買い取るって目的にグッと近づくと思うが?」
「お、おう。しかしじゃな、う、うむむ」
「なんだ?」
「ワシには倒せん。っていうか、怖い。さっさと逃げるのじゃよ」
「良いのか、それで? 故郷を買い取りたいんだろ。勇者に手伝ってもらえば、ヤツの手柄になるぞ」
「……しかし。ワシには……」
今まで真っ先に逃げていたデコポンだったが、今回ばかりは逡巡しているようだ。
戦うか、逃げるか。
その逡巡はオレにだってよくわかる。デコポンが逆落とし穴によって、上層へ連れて行かれたときには、オレも激しく懊悩した。
きっとあのときのオレみたいな懊悩が、デコポンの脳内でも繰り広げられているのだろう。
しかし戦ってもらわねば困る。
勇者に頼るなんてまっぴらゴメンだ。オレにだってプライドというものがあるのだ。他人の目玉焼きにソースをかけてくるようなヤツに、なにゆえ頼らねばならんのか。
「安心しろ。オレを誰だか忘れたかい? 勇者パーティで、長らく強化術師を担当してきた、このナナシさまが付いているじゃないか」
「追放されておるがな」
「それは言うな」
「ナナシィを信じて良いのじゃな?」
「ああ。なんの苦労もない。ただそこにいるだけで良い」
デコポンは水晶みたいな青い双眸をオレに向けてきた。
こうして真正面からデコポンを見てみると、額がやたらと広いということに気づいた。そのせいか顔立ちも幼く見える。
「頼むぞ」
「任せろ」
デコポンは大盾を構えて、魔結晶ゴーレムににじり寄った。ゴーレムと対峙する。ゴーレムが腕を振り上げた。
「守護針」
と、強化術をとなえる。
デコポンの装備している大盾から、ウニのごとく大量の針が生えた。それが魔結晶ゴーレムを貫いた。
魔結晶ゴーレムのカラダをけずる針の音が響く。
魔結晶ゴーレムが後ろによろめいた。が、態勢を立て直して、針を殴りつけた。
針がバキバキと折られてゆく。折られた針が床に散らばった。
ゴーレムを前傾姿勢になると、デコポンに向かって疾走した。
その巨体とは不釣りあいな素早い走りだった。踏み込むたびに、ダンジョン全体が揺れているかのようだった。
「ひぇ」
と、デコポンが不安気にオレのほうを振り向いてきた。
「心配するな。前だけ見てろ。オレの強化術はまだまだこんなものではない」
「お、おう」
と、デコポンはやや奮い立ったようで、前に向きなおっていた。
「大盾強化。アイアスの盾」
デコポンの盾が2回りほど大きくなる。さらに盾の前方にも魔法の盾が幾重にも展開された。
ゴーレムとデコポンが衝突する。魔法の盾をいくつか砕かれたが、ゴーレムの疾走を食い止めることが出来た。
「仕上げだ。デコポン。ヤツを押し潰せ」
「お、押しつぶすゥ?」
「出来るはずだ」
強化術。
闘牛の加護。
戦士の矜持。
悪魔の心臓。
次々と強化術をほどこしていく。
デコポンとゴーレムが取っ組み合うような構図になった。巨大化した盾で押すデコポン。それを押し返そうとするゴーレム。チカラとチカラの衝突だった。
「ふッ。チェック・メイトだ」
ゴーレムが壁に叩きつけられた。そしてもう一度、守護針を発生させた。ゴーレムのカラダがその場でジェンガのように崩壊したのだった。
「す、すごいのじゃ。これがナナシィの強化術……。私ではゼッタイに倒せない相手だったのじゃ」
「ああ。そう言えば、マグロにも言ったんだけどさ」
「なんじゃ?」
「術が解けたら筋肉痛とかすごいから、気を付けてね」
「へ?」
ギャァァ――ッ、という筋肉痛による悲鳴が、ダンジョンに響きわたったのだった。
石造りの空間。もうすこしでダンジョンの出口というところで、凄絶い景色を目の当たりにすることになった。
床や壁面を濡らす血液。飛散している人肉。臓物と思われるものも飛び散っている。そして鼻につく死の香り。
そうだ。ここは、ダンジョン、なのだ。思い出させられる情景であった。
「うおぇぇっ」
と、デコポンは嘔吐していた。
「大丈夫か?」
「ナナシィは大丈夫なのじゃ?」
「オレは、見慣れてるからな」
「み、見慣れてるって、まさか今まで大量の殺人を……っ」
「違げェ。上層に行けば良くあることだ。自分が優れた冒険者だと信じ込んで、モンスターに返り討ちにされることは、決して少なくない」
「ナナシィは、こんなところで戦っておったのか?」
デコポンが寄り添って来た。その頭にオレは手を置いた。
「案ずることはない。オレがついてる」
「う、うむ」
と、革の鎧の袖で、口もとをぬぐっていた。腹が減ってヨダレが出たわけではなくて、さっきの吐しゃ物をぬぐったのだろう。
ドスン……ドスン
地響きとともに、足音のようなものが接近してくる。薄闇の向こうから、その巨体は姿を現した。
全身を紫色にかがやかせるゴーレムである。
これは。
「まさかこんな下層でめぐり合わせるとはな。魔結晶ゴーレムだ」
オレの5倍ぐらいの大きさがある。魔結晶が人の形をなしたものだ。
ここにいる冒険者たちを惨殺したのも、魔結晶ゴーレムだろう。
返り血で赤く染まっている。
「こ、これが……」
と、デコポンはシリモチをついていた。
「ここを抜けなくちゃ帰れねェが、どうやらそう簡単に通してくれなさそうだな」
「に、逃げるのじゃ。私は上層に向かった勇者を呼んでくるのじゃ」
「いや待て」
逃げ出そうとするデコポンの腕をつかんだ。
「な、なにをするんじゃッ」
「こいつはオレたちでやるぞ」
「うげぇ」
「どうした? またゲロか?」
「違う。うなり声じゃわ。こんなの私にはムリなのじゃー。逃げるのじゃー」
足を車輪みたいにして回転させるデコポン。
腕をつかんで、この場に留めた。
「待て待て待て。この魔結晶ゴーレムを倒せば、大量の魔結晶が手に入る。だからこそ、勇者たちも探しに来ているわけだ」
と、オレは前方から迫るゴーレムを指差して言った。
「それで?」
「こいつを倒せば、大富豪だ。デコポンの言ってた、故郷を買い取るって目的にグッと近づくと思うが?」
「お、おう。しかしじゃな、う、うむむ」
「なんだ?」
「ワシには倒せん。っていうか、怖い。さっさと逃げるのじゃよ」
「良いのか、それで? 故郷を買い取りたいんだろ。勇者に手伝ってもらえば、ヤツの手柄になるぞ」
「……しかし。ワシには……」
今まで真っ先に逃げていたデコポンだったが、今回ばかりは逡巡しているようだ。
戦うか、逃げるか。
その逡巡はオレにだってよくわかる。デコポンが逆落とし穴によって、上層へ連れて行かれたときには、オレも激しく懊悩した。
きっとあのときのオレみたいな懊悩が、デコポンの脳内でも繰り広げられているのだろう。
しかし戦ってもらわねば困る。
勇者に頼るなんてまっぴらゴメンだ。オレにだってプライドというものがあるのだ。他人の目玉焼きにソースをかけてくるようなヤツに、なにゆえ頼らねばならんのか。
「安心しろ。オレを誰だか忘れたかい? 勇者パーティで、長らく強化術師を担当してきた、このナナシさまが付いているじゃないか」
「追放されておるがな」
「それは言うな」
「ナナシィを信じて良いのじゃな?」
「ああ。なんの苦労もない。ただそこにいるだけで良い」
デコポンは水晶みたいな青い双眸をオレに向けてきた。
こうして真正面からデコポンを見てみると、額がやたらと広いということに気づいた。そのせいか顔立ちも幼く見える。
「頼むぞ」
「任せろ」
デコポンは大盾を構えて、魔結晶ゴーレムににじり寄った。ゴーレムと対峙する。ゴーレムが腕を振り上げた。
「守護針」
と、強化術をとなえる。
デコポンの装備している大盾から、ウニのごとく大量の針が生えた。それが魔結晶ゴーレムを貫いた。
魔結晶ゴーレムのカラダをけずる針の音が響く。
魔結晶ゴーレムが後ろによろめいた。が、態勢を立て直して、針を殴りつけた。
針がバキバキと折られてゆく。折られた針が床に散らばった。
ゴーレムを前傾姿勢になると、デコポンに向かって疾走した。
その巨体とは不釣りあいな素早い走りだった。踏み込むたびに、ダンジョン全体が揺れているかのようだった。
「ひぇ」
と、デコポンが不安気にオレのほうを振り向いてきた。
「心配するな。前だけ見てろ。オレの強化術はまだまだこんなものではない」
「お、おう」
と、デコポンはやや奮い立ったようで、前に向きなおっていた。
「大盾強化。アイアスの盾」
デコポンの盾が2回りほど大きくなる。さらに盾の前方にも魔法の盾が幾重にも展開された。
ゴーレムとデコポンが衝突する。魔法の盾をいくつか砕かれたが、ゴーレムの疾走を食い止めることが出来た。
「仕上げだ。デコポン。ヤツを押し潰せ」
「お、押しつぶすゥ?」
「出来るはずだ」
強化術。
闘牛の加護。
戦士の矜持。
悪魔の心臓。
次々と強化術をほどこしていく。
デコポンとゴーレムが取っ組み合うような構図になった。巨大化した盾で押すデコポン。それを押し返そうとするゴーレム。チカラとチカラの衝突だった。
「ふッ。チェック・メイトだ」
ゴーレムが壁に叩きつけられた。そしてもう一度、守護針を発生させた。ゴーレムのカラダがその場でジェンガのように崩壊したのだった。
「す、すごいのじゃ。これがナナシィの強化術……。私ではゼッタイに倒せない相手だったのじゃ」
「ああ。そう言えば、マグロにも言ったんだけどさ」
「なんじゃ?」
「術が解けたら筋肉痛とかすごいから、気を付けてね」
「へ?」
ギャァァ――ッ、という筋肉痛による悲鳴が、ダンジョンに響きわたったのだった。
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