《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。
5-1.ついに出やがったな! 諸悪の根元!
「オー・マイ・ゴァァ――ッ」
無宗教のオレでも、思わずそう叫んでしまう危機であった。ダンジョンにて用心するべきはモンスターだけではない。罠もあるのだ。
デコポンが引っかかったのは、逆落とし穴である。落とし穴というのは通常、上から下に落っこちる。
逆落とし穴は、読んで字のごとし、下から上に連れて行かれるのである。上ならば良いじゃん――と、思うのは素人冒険者である。
上に連れて行かれるのにはチャントした理由がある。
ダンジョンというのは塔だ。上に伸びている。上層に行けば行くほど奥地ということになり、出現するモンスターも強力なのだ。
強引に上に連れて行かれたら、そのままモンスターの餌食ということになりかねない。
あの臆病のデコポンのことだ。なおさら心配だ。
助けに行きたいところだが、いかんせん、オレは個人としてはマッタク役に立たない。
せいぜいスライムを倒せるぐらいである。むろん、デコポンを助けに行くチカラなどありはしない。
強化術は、自分自身には使えないのだ。クソッ。オレも無双系の星のもとに生まれてくるべきだった。
「やっちまったーっ」
と、頭を抱えた。
周囲からの評判はさておき、オレはダンジョンには行きなれているし、こういう罠があることも知っていた。
もっと気を付けておくべきだった。
オレがシッカリしていれば、防げていたであろう事故である。聖人君子の次ぐらいに性格の良いオレは、罪悪感と後悔に押しつぶされそうになった。
どうする……。
「助けに行くべきだ」
という心の声。
しかし一方で。
「見捨てて逃げちゃえば良いんじゃないの?」
という声も多少あった。
天使と悪魔の葛藤――。
見捨てるしかなくない? だってこのままオレ1人で奥に進んでも、ムリゲーじゃん?死ぬだけだよ? っていうか、デコポンももう死んでるかもしれないし、冒険者である以上は、デコポンもそれを覚悟してるし、オレの責任だとは思ってないはずだし。……というのが悪魔の言い分である。
逃げちゃダメだ。天使の言い分である。
オレのなかの悪魔、メッチャ饒舌――ッ。
そのときである。
「あらッ。こんなところで、なにしてるのよ。土偶ね」
土偶と奇遇を間違えるようなバカが、オレの知り合いにいただろうか――と声のしたほうを振り向いた。
「おわぁぁッ。出やがったなァ」
諸悪の根源。
勇者。
巨乳。金髪。碧眼。巨乳。
美人だが何かといまにも言いだしそうな風貌の女である。すこし赤みがかった革の鎧は、ミノタウロスの皮から作ったものだ。腰にはロングソードをたずさえている。
「出やがったとは何よ! まるで私をバケモノみたいに言うんじゃないわよ」
「オレになんの用だ」
「あんたに用事があって来たんじゃないわよ。魔結晶ゴーレムが出たって聞いたから、それを探しに来てたのよ。あんたを見つけたのは、風船」
「偶然な」
「そう。偶然よ」
今、言うべきか。
あのセリフを、いま言うべきか。
今さら戻ってきても、もう遅い――と言ってやるべきか。否! あれは自分から言い出すものではない。相手が「戻って来て欲しい」と懇願してから言い放つ文言である。
なら勇者が「戻って来て欲しい」と、言い放つのを待つしかない。
勇者のほうも何か、考えているのか。互いに黙してにらみ合うようなカッコウになった。まるで因縁の相手との対決である。
「ところでナナシ」
「なんだね。勇者」
「なにやらお困りの様子じゃない。場合によっては、助けてやらないこともないわよ」
ドクン。
オレの心臓が鼓動した。
デコポンを助けに行くには、仲間がいる。仲間と言えるような間柄でなくとも、使える人間がいる。そこに都合良く勇者の登場である。
「場合によっては――というのは、どういうことだ。いちおう聞いておこうか」
「まぁ、あんたが、雑用でも何でも良いンで、勇者パーティに戻してくださいってお願いするのなら? 手伝ってやっても良いかなぁ、なんて」
「ほぉ。なんだ、つまり、オレに戻って来て欲しいというわけか!」
オレがそう言うと、勇者は顔を真っ赤にした。
「誰もそんなこと言ってないじゃない! あんたが戻りたいって言うのなら、まぁ、私は許してあげなくもない――って話よ」
なるほど。
やはりオレの読みは、正しかったようだ。オレがいなくなったことで、勇者パーティは困窮しているのだ。
しかし。
素直に戻って来てくれと言うのも、プライドが傷つく。頭を下げたくないという心が見え透いている。
ゆえに、勇者からしてみれば、オレに「戻らせてください」と、頭を下げさせようという魂胆なのである。
そうに違いない。
そうであってくれ!
「勇者パーティは、オレがいなくなって、さぞかし困っているのだろう。ん?」
「うぅん。ぜんぜん。この間だって、ドラゴンを倒して来たわよ。ほら、これがドラゴンで作った手甲よ。すっごい硬いうえに、軽くて便利なのよね」
と、たしかにドラゴンのウロコで作ったと思われる、手甲がされている。オレがパーティに属していたころは、見覚えのなかったものだ。
「う、うん?」
あれ?
あれれ?
オレがヌけたことで、勇者パーティが戦力ダウンして困ってるって前提が成り立ってないと、ザマァできなくない?
「あんたがいなくても、勇者パーティはやっていけてるわよ。っていうか、むしろ討伐スコアも伸びてるし。でもまぁ、戻って来たいって言うのなら、戻してあげても良いって話よ」
「いいや。べつにオレ戻りたくないが? 新しいパーティといっしょにやっていくつもりもしてるが?」
「新しいパーティ? あんた、新しいパーティを組んだの? どこの誰よ? 男? それとも女?」
と、歩み寄ってきた。
距離を縮めてくる。
「やけにセンサクするじゃないか」
「ええ。あんたなんかと組んでくれるヤツがいるなんて、どんなヤツなのか知っておきたいと思ったのよ」
「女だ」
「女! へ、へー。どれぐらいの娘よ? 可愛いの? どういう感じで仲間になったわけ?」
「なんでそこまで教えなくちゃならない。ははぁ。さては勇者パーティが上手くやっているというのはウソだな。オレに戻って来てもらいたいから、そういう細かいことを聞くんだろ」
「ンなわけないでしょーが」
気づけば、手が届く距離にまで縮まっていた。
「じゃあ、なんだ? 何が目的だ」
「だから、最初に言ったじゃない。あんたが『戻らせてください』って頭を下げるなら、手伝ってやらなくもない――って。さっさとそのパーティとやらを解散して、勇者パーティに戻って来れば良いじゃない」
勇者の魂胆がわからない。
何が目的だ?
オレに「戻らせてください」と頭を下げて欲しいと言う。つまり「戻って来て欲しい」と勇者が思っているのは間違いないのだ。
しかし勇者パーティは、上手くやっていると言う。上手くやっているのならば、オレを戻す理由などないはずだ。
じゃあなんで、戻って来て欲しい、のか。
ははん。
なるほど。
オレの灰色の脳細胞にかかれば、よゆうで推察できる。
やはり勇者パーティは困窮しているのだ。そのドラゴンの手甲だって、なにか別の方法で手に入れたのだろう。素直に戻って来てくださいと言えない気持ちは、わからなくもないぞ。
「オレに頭を下げさせようたって、そうはいかん。まぁ、お前が『戻って来てください』と頭を下げるなら、考えてやらんこともないが」
そうだ。
戻って来てください。そう言って頭を下げれば、オレはあのセリフを言い放ってやるのだ。
今さら戻って来いと言われても、もう遅い――と。
さあ、言うのだ。泣いて、媚びるが良い!
「はぁぁ? なんで私があんたに『戻って来て欲しい』とか言わなくちゃならないのよ!」
と、勇者はさらに詰め寄ってきた。
「じゃあ、なんでオレが『戻らせてください』なんて、頭を下げなくちゃならねェーんだよ」
にらみ合う。
気づけば、互いの吐息がかかる距離だった。
こうして向かい合ってみると、勇者とオレは同じぐらいの身長があった。
勇者は顔を赤くして、あわてて身を引いていた。
無宗教のオレでも、思わずそう叫んでしまう危機であった。ダンジョンにて用心するべきはモンスターだけではない。罠もあるのだ。
デコポンが引っかかったのは、逆落とし穴である。落とし穴というのは通常、上から下に落っこちる。
逆落とし穴は、読んで字のごとし、下から上に連れて行かれるのである。上ならば良いじゃん――と、思うのは素人冒険者である。
上に連れて行かれるのにはチャントした理由がある。
ダンジョンというのは塔だ。上に伸びている。上層に行けば行くほど奥地ということになり、出現するモンスターも強力なのだ。
強引に上に連れて行かれたら、そのままモンスターの餌食ということになりかねない。
あの臆病のデコポンのことだ。なおさら心配だ。
助けに行きたいところだが、いかんせん、オレは個人としてはマッタク役に立たない。
せいぜいスライムを倒せるぐらいである。むろん、デコポンを助けに行くチカラなどありはしない。
強化術は、自分自身には使えないのだ。クソッ。オレも無双系の星のもとに生まれてくるべきだった。
「やっちまったーっ」
と、頭を抱えた。
周囲からの評判はさておき、オレはダンジョンには行きなれているし、こういう罠があることも知っていた。
もっと気を付けておくべきだった。
オレがシッカリしていれば、防げていたであろう事故である。聖人君子の次ぐらいに性格の良いオレは、罪悪感と後悔に押しつぶされそうになった。
どうする……。
「助けに行くべきだ」
という心の声。
しかし一方で。
「見捨てて逃げちゃえば良いんじゃないの?」
という声も多少あった。
天使と悪魔の葛藤――。
見捨てるしかなくない? だってこのままオレ1人で奥に進んでも、ムリゲーじゃん?死ぬだけだよ? っていうか、デコポンももう死んでるかもしれないし、冒険者である以上は、デコポンもそれを覚悟してるし、オレの責任だとは思ってないはずだし。……というのが悪魔の言い分である。
逃げちゃダメだ。天使の言い分である。
オレのなかの悪魔、メッチャ饒舌――ッ。
そのときである。
「あらッ。こんなところで、なにしてるのよ。土偶ね」
土偶と奇遇を間違えるようなバカが、オレの知り合いにいただろうか――と声のしたほうを振り向いた。
「おわぁぁッ。出やがったなァ」
諸悪の根源。
勇者。
巨乳。金髪。碧眼。巨乳。
美人だが何かといまにも言いだしそうな風貌の女である。すこし赤みがかった革の鎧は、ミノタウロスの皮から作ったものだ。腰にはロングソードをたずさえている。
「出やがったとは何よ! まるで私をバケモノみたいに言うんじゃないわよ」
「オレになんの用だ」
「あんたに用事があって来たんじゃないわよ。魔結晶ゴーレムが出たって聞いたから、それを探しに来てたのよ。あんたを見つけたのは、風船」
「偶然な」
「そう。偶然よ」
今、言うべきか。
あのセリフを、いま言うべきか。
今さら戻ってきても、もう遅い――と言ってやるべきか。否! あれは自分から言い出すものではない。相手が「戻って来て欲しい」と懇願してから言い放つ文言である。
なら勇者が「戻って来て欲しい」と、言い放つのを待つしかない。
勇者のほうも何か、考えているのか。互いに黙してにらみ合うようなカッコウになった。まるで因縁の相手との対決である。
「ところでナナシ」
「なんだね。勇者」
「なにやらお困りの様子じゃない。場合によっては、助けてやらないこともないわよ」
ドクン。
オレの心臓が鼓動した。
デコポンを助けに行くには、仲間がいる。仲間と言えるような間柄でなくとも、使える人間がいる。そこに都合良く勇者の登場である。
「場合によっては――というのは、どういうことだ。いちおう聞いておこうか」
「まぁ、あんたが、雑用でも何でも良いンで、勇者パーティに戻してくださいってお願いするのなら? 手伝ってやっても良いかなぁ、なんて」
「ほぉ。なんだ、つまり、オレに戻って来て欲しいというわけか!」
オレがそう言うと、勇者は顔を真っ赤にした。
「誰もそんなこと言ってないじゃない! あんたが戻りたいって言うのなら、まぁ、私は許してあげなくもない――って話よ」
なるほど。
やはりオレの読みは、正しかったようだ。オレがいなくなったことで、勇者パーティは困窮しているのだ。
しかし。
素直に戻って来てくれと言うのも、プライドが傷つく。頭を下げたくないという心が見え透いている。
ゆえに、勇者からしてみれば、オレに「戻らせてください」と、頭を下げさせようという魂胆なのである。
そうに違いない。
そうであってくれ!
「勇者パーティは、オレがいなくなって、さぞかし困っているのだろう。ん?」
「うぅん。ぜんぜん。この間だって、ドラゴンを倒して来たわよ。ほら、これがドラゴンで作った手甲よ。すっごい硬いうえに、軽くて便利なのよね」
と、たしかにドラゴンのウロコで作ったと思われる、手甲がされている。オレがパーティに属していたころは、見覚えのなかったものだ。
「う、うん?」
あれ?
あれれ?
オレがヌけたことで、勇者パーティが戦力ダウンして困ってるって前提が成り立ってないと、ザマァできなくない?
「あんたがいなくても、勇者パーティはやっていけてるわよ。っていうか、むしろ討伐スコアも伸びてるし。でもまぁ、戻って来たいって言うのなら、戻してあげても良いって話よ」
「いいや。べつにオレ戻りたくないが? 新しいパーティといっしょにやっていくつもりもしてるが?」
「新しいパーティ? あんた、新しいパーティを組んだの? どこの誰よ? 男? それとも女?」
と、歩み寄ってきた。
距離を縮めてくる。
「やけにセンサクするじゃないか」
「ええ。あんたなんかと組んでくれるヤツがいるなんて、どんなヤツなのか知っておきたいと思ったのよ」
「女だ」
「女! へ、へー。どれぐらいの娘よ? 可愛いの? どういう感じで仲間になったわけ?」
「なんでそこまで教えなくちゃならない。ははぁ。さては勇者パーティが上手くやっているというのはウソだな。オレに戻って来てもらいたいから、そういう細かいことを聞くんだろ」
「ンなわけないでしょーが」
気づけば、手が届く距離にまで縮まっていた。
「じゃあ、なんだ? 何が目的だ」
「だから、最初に言ったじゃない。あんたが『戻らせてください』って頭を下げるなら、手伝ってやらなくもない――って。さっさとそのパーティとやらを解散して、勇者パーティに戻って来れば良いじゃない」
勇者の魂胆がわからない。
何が目的だ?
オレに「戻らせてください」と頭を下げて欲しいと言う。つまり「戻って来て欲しい」と勇者が思っているのは間違いないのだ。
しかし勇者パーティは、上手くやっていると言う。上手くやっているのならば、オレを戻す理由などないはずだ。
じゃあなんで、戻って来て欲しい、のか。
ははん。
なるほど。
オレの灰色の脳細胞にかかれば、よゆうで推察できる。
やはり勇者パーティは困窮しているのだ。そのドラゴンの手甲だって、なにか別の方法で手に入れたのだろう。素直に戻って来てくださいと言えない気持ちは、わからなくもないぞ。
「オレに頭を下げさせようたって、そうはいかん。まぁ、お前が『戻って来てください』と頭を下げるなら、考えてやらんこともないが」
そうだ。
戻って来てください。そう言って頭を下げれば、オレはあのセリフを言い放ってやるのだ。
今さら戻って来いと言われても、もう遅い――と。
さあ、言うのだ。泣いて、媚びるが良い!
「はぁぁ? なんで私があんたに『戻って来て欲しい』とか言わなくちゃならないのよ!」
と、勇者はさらに詰め寄ってきた。
「じゃあ、なんでオレが『戻らせてください』なんて、頭を下げなくちゃならねェーんだよ」
にらみ合う。
気づけば、互いの吐息がかかる距離だった。
こうして向かい合ってみると、勇者とオレは同じぐらいの身長があった。
勇者は顔を赤くして、あわてて身を引いていた。
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