《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。

執筆用bot E-021番 

2-1.パーティに入れていただけませんか?

 ギルド。
 都市のなかでも、丘の上にあって、石段をのぼっていく必要がある。


 建物の形は、あれに似ている。エリンギ。断固として言っておくが卑猥な意味ではない。屋根の感じとかが、まさしくエリンギなのだ。


 石段をのぼってエリンギの中に入ると、木造の円形の部屋が広がっている。冒険者たちがうごめく部屋の中央に受付がある。


「いらっしゃいませ」


 あろうことか、オレとマグロの応対をしてくれた受付嬢は、オレに勇者パーティからの解雇を言い渡した受付嬢だった。


 解雇を言い渡したのも仕事であって、たぶん悪気はないのだろう。


「どうも」


「あ、勇者パーティを解雇されたお荷物さまですね」


「お荷物さまって言うなッ」


 前言撤回だァ。
 ゼッタイ悪気がある。


「これは失礼しました。冒険者たちの数が多くて、ちくいち名前を覚えておりませんので」


「じゃあ、お荷物さまも忘れてくれ。モンスターの素材を持ってきたんだ。買い取ってくれ」


「承知いたしました。これは……スケルトン・ナイトの骨ですね。ナナシさまが討伐されたのですか?」


「名前覚えてンじゃねェーかよ!」


「失礼いたしました」


 討伐したのはオレではなくて、マグロだと説明した。マグロの討伐数に換算されていた。
 強化術ではどうやっても、自分の手柄には出来ない。


 スケルトン・ナイトの骨と武具を買い取ってもらった。200ポロムの魔結晶に交換してもらった。コブシ大ほどの魔結晶2つ分である。


 マグロにかすめ取られないうちに、その2つはオレが受け取った。


 ギルドを出る。
 もう夕方になっていた。


「今日は御世話になりました」
 マグロがそう言って、頭を下げた。
 

 素直に感謝されるなんて思ってなかったので、虚を突かれてしまった。


「いや。こちらこそ世話になった」


「それでは」
 と、マグロが背を向けて立ち去った。


 今日は苦難もあったが、出会いもあって悪くない1日だったな。明日も良い1日になれば良いなぁ。よーし、宿屋にでも泊まってユックリと休むとしようか……。


 じゃねぇ!


 仲間を探しているのである。このままマグロを逃がす手はない。了承してくれるかはさておき、パーティを組んでもらう提案をするべきだ。


「待て待て待て!」


 マグロを追いかけることにした。が、見失ってしまった。行き交う人たち、水売りだとかパン売りたちの雑踏のなかから、見つけ出すのは難しい。


 おのれ逃げ足の速いヤツめ。


 周りの人に聞いて、マグロの行き先を尋ねることにした。どうやらマグロは、《炊き立て新米》というパーティに属しているらしい。


 ほかのパーティに属しているのなら仕方がない。勧誘は難しい。
 トホホ。セッカク良い駒――じゃなくて仲間になれそうだったのになぁ。


 いや。待てよ。
 逆に考えるんだ。


 オレが、その《炊き立て新米》に入れてもらうという手もある。その《炊き立て新米》が、どこに拠点を構えているのか聞きだすことにした。


 どうやら拠点を持ってはいないらしい。ギルドの近くにある宿屋に宿泊しているだろう、という話を聞きつけて、オレはそこへ向かうことにした。


 で。
 宿屋1階。食堂。


「うぉぉぉぉッ」
「バクバクバク、んぐんぐっ」
「むしゃむしゃむしゃ」
 と、汚らしい咀嚼音の嵐を巻き起こしている3人がいた。


 厭でも目に付く3人組である。


 木造テーブルの上には、さまざまな料理が並べられている。


 鳥の照り焼き、豚の角煮。ホウレンソウやらニンジンのソテー。カルボナーラとナポリタンパスタが大皿に盛りつけられている。この近くで取れるヴァレリカフィッシュを焼いたものと思われるものを、骨ごと貪り食っていた。


 その暴食たるや、ドラゴンが人間を食らう光景に通ずるものがある。その迫力に思わず退散してしまいそうになったが、その席についている1人が、マグロだった。


「おい」
 と、背後にまわって声をかけた。


「んぐんぐんぐっ。今、ちょっと……話せませんので、後で……もぐもぐ」


「母さんが病気じゃなかったのかよ」


「うげっ」


 振り向いたマグロは、オレの顔を見るとそう声を発した。口元が、ナポリタンで赤く染まっていた。


「ずいぶんと食事を楽しんでいるようだが、この食費はどうしたんだ? まさか今日のスケルトン・ナイトの分をぜんぶ費やしたんじゃないだろうな」


「チョットお腹が……」


 鳥の手羽先を手に持つと、マグロはその場から退散しようとした。どこまでも食い意地の張ったヤツである。


「ウソを吐くんじゃない。母さんが病気だとか言っていたが、あれはウソだったわけか?」


「申し訳ありません。つい。お腹が空いていたので、魔結晶が必要だったのであります」
 と、マグロはうなだれた。


「人の情につけ込むとは姑息なヤツめ。腹が減っていたのなら素直にそう言えば良かったものを」


「言えば、魔結晶をゆずってくれたのですか?」


「いや」
 たぶん、譲ってなかっただろうな。


「それで何かマグロに御用なのでしょうか? まさかウソを吐いていたことを、咎めに来ただけですか?」


 そう尋ねると、マグロは蒸かしたジャガイモをかじっていた。美味そうに食いやがる。贅沢なことにバターを乗せているようだ。


「おっと、そうだった。君は《炊き立て新米》とかいうパーティに属しているそうじゃないか」


「属しているのではなくて、マグロがリーダーです。ここにいる2人がパーティメンバーとなります」


 いかにも魔術師といった帽子をかぶっている少女と、髪を真ん中分けにして額を露出させた少女の2人だった。
 2人ともオレのほうに見向きもせずに、食事にいそしんでいる。


「パーティリーダーだったのか」


「それがなんでしょうか?」


 蒸かしたジャガイモを食べきって、指先をしゃぶっていた。


「ならば話は早い。このオレを仲間に入れてみないか? 今日の戦いを見てもわかる通り、オレは役に立つぜ」


「あ、わかりました」


「いいのか?」


「それでは入会費用として、魔結晶を出してください」
 と、舐めしゃぶっていた手を広げて、要求してくる。


「魔結晶を取るのかよ」


「ええ。食費にすべて費やしてしまい、宿代がなくなりましたので、部屋が欲しければ魔結晶を出してください」


「宿代がなくなっただァ? どれだけ食費に費やしてるんだよ」


「すべてです。何よりも食事が第1ですので。腹が減っては呼吸が出来ぬと言いますゆえ」


「言わねェよ。わかった、わかった。これで良いんだろ」


 魔結晶を2つさしだした。
 まだ少しは手元に余っているが、宿代というと、これぐらいで充分のはずだ。


「はい。たしかに受け取りました。これであと餃子とラーメンも頼めますね」


「おい、待てッ。それは宿代にするって話だっただろ」


「あ、そうでした」


「大丈夫かよ」


 これで仲間にしてもらえるなら、必要出費だろう。


 オレの強化術に怖れおののき、神のように崇拝したすえに、「どうか仲間になってください」と頭を下げてもらい、オレはしぶしぶ仲間に加わる――というのが、当初の予定だった。


 チョットばかり予定が狂ったとはいえ、まぁ、誤差の範囲としておこう。


 とにかく手駒さえ手に入れば、こっちのもんである。オレの強化術に依存して、崇拝するようになるのも、そう遠い日のことではない。……はずである。


 ふふふっ。
 見ていろよ、オレを追放した勇者パーティめ。


 これからオレはこの《炊き立て新米》パーティで成りあがってみせるからな。あとで戻ってきてくれと言われたさいに、「もう遅い」と言い放ってやる下地はこれで出来た。

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