《完結》勇者パーティーから追放されたオレは、最低パーティーで成り上がる。いまさら戻って来いと言われても、もう遅い……と言いたい。

執筆用bot E-021番 

1-2.怯えてる冒険者なら狙い目ですよね?

 通称「お荷物くん」ことオレは、初心者の塔に来ていた。
 は? 誰がお荷物くんだー! ……くそぅ。


 ダンジョンというのは、自然と生えてくる。まぁ、キノコみたいなもんだ。ニョキニョキってな具合だ。


 このオレの眼前にそそり立つ、灰色の塔も例外ではない。基本的にはスケルトンとスライムしか出て来ないという、良心的な塔である。


 Fランク冒険者――すなわち、「よぉーし、オレは今日から冒険者だぜ」とかイキリちらかしている、生意気な新米が最初に足を踏み入れることが定番になっている塔だ。
 勇者パーティなら、鼻息だけで踏破できるような塔である。


 なぜ、オレがその初心者の塔に来てるか。
 むろん、仲間を見つけるためである。


 自分のために都合良く働いてくれる駒を、ギルドで見つけることが出来なかった。


 人間、誰にも失敗はある。責めるべきじゃない。そこでオレは、知恵をしぼった。
 新米冒険者なら仲間に出来るだろう、という算段である。新米ならオレが「お荷物くん」と呼ばれていることも知らないはずだ。


 さすが元勇者パーティの冒険者。見事な戦略である。


 初心者の塔に来る冒険者。
 その多くが理想と現実の格差ギャップを前にして、泣きべそをかくことになる。「ふはは、オレさまは今日から冒険者だぜ」とイキがっている冒険者の多くは、帰りには「冒険者ってやべぇ。めっちゃ怖いじゃん」と泣き面になって戻ってくるのだ。


 スケルトンやスライムは、一般的に弱小モンスターと呼ばれている。Fランク相当のモンスターである。
 イザ対面してみると意外と怖いし、意外と強いのだ。
 ナめてかかれば殺される。
 小便を漏らすならまだ良い。血を流し、最悪、命を落とす。


「ふふふっ。新米冒険者たちめ。モンスターの怖ろしさを実感するが良い」


 魔王さながらの心境となった。


 おっと、忘れてはいけない。
 泣きべそをかいている冒険者を見て、悦に浸るのが目的ではない。


 仲間を探しに来たのである。
 特に、モンスターの恐怖を前に、挫けそうになっている冒険者こそ狙い目である。


 モンスターに襲われて窮地に陥った冒険者を救う――という場面を演出できれば、なおさら良い。


「オレとパーティ組めば、楽できるぜ」
 と、オレを売りこめば良いのだ。
 完璧な作戦である。


 名付けて【怯えてる冒険者を仲間にする作戦】だ。


「さてさて、魔族を前にして怯えている冒険者はいないもんか」


 手ぐすね、舌舐めずり、目はらんらん。
 悪の親玉みたいな心持で、ダンジョンのなかに足を踏み入れた。


 ダンジョンは石造りだ。細長い石の通路が伸びている。しばらくすると広間に出る。その連続だ。蟻の巣のようなものだ。


 最初の大部屋。
 壁から青色スライムがにじみ出るように出てきた。


 新米冒険者たちが20人ほど。剣を振り回して戦っていた。太刀筋も微妙だし、立ち回りも危なかったけれど、どの冒険者もスライム相手に奮闘していた。


 むむっ。
 思っていたよりも勇敢である。


 自分のときはスライム相手でも、ビビってたけどなぁ。自分の苦労がウソみたいで、なんだか悔しくなってしまう。


 まぁ、しょせんスライムである。スライムぐらいなら新米でも、倒せないことはない。素直に先輩冒険者として、勇敢なるヒヨッコどもを賞賛してやろう。


 細い通路を抜けると、また大部屋がある。


 今度は壁からスケルトンが生み出されていた。ダンジョンというのは、多大な魔力を宿している。それが具現化したものが、モンスターだ。


 人間のカラダが異物を排除する仕組みと同じく、塔も侵入者を排除しようとモンスターを生み出すのだ。


「うおりゃぁぁ」
「どりゃぁぁッ」
 と、冒険者たちは咆哮猛々しく、スケルトンも粉砕していた。


 なんという手際か。近年は、新米冒険者も勇敢になっているのだろうか。それとも、冒険者になる前に、訓練でも受けているのだろうか。


 むむむッ。
 オレは焦燥感にうろたえる。


【怯えている冒険者を仲間にする作戦】が、これでは上手くいかない。


 新米冒険者は20人ほどいたが、半分ぐらいはそこで引き返すことにしたようだ。


 モンスターを倒せば、魔結晶、という物質をドロップする。魔力の源だ。それは通貨にもなるし、火を起こしたり、明かりをつけたりするエネルギー源にもなる。


 あるていど、魔結晶が手に入れば、深入りする必要はないのだ。


 ど、どうする、オレ。
 魔結晶を手に引き返していく冒険者たちから、仲間を勧誘するべきか。それならオレもこのあたりで引き返すべきだ。


 あるいは、まだ先に進もうとしている果敢な者たちに勧誘をかけるべきか。そっちの場合は、オレも次の部屋に進むことになる。


 考えている余裕はなかった。
 すでに半分は引き返し、もう半分は奥地へと進んでいる。


 これ以上の奥地は危険でもある。新米冒険者たちは、そんなに突き進んで大丈夫なのだろうか――という老婆心もあって、オレも奥地へ足を進めることにした。


 オレは優しいのだ。

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