ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜
82話 竜種のプライド?
《くだらねぇ…くだらねぇ…くだらねぇくだらねぇくだらねぇ!!!》
八岐大蛇は大きく笑いながら、醜悪な表情を浮かべた。
その表情の中で紫に光る双眸には、怒りが滲んでいる。
《思いやり?相手を想う気持ち?優しさ?なに言ってんだぁ、ゼン!!そんなんで強くなれるならよぉ、お前はなんで俺に負けてんだ?!》
怒りを振りまくように大きく叫ぶ八岐大蛇。
《そんな戯言は俺に勝ってから言えと、さっきも言ったよなぁ?!だいたいよぉ、ウォタの野郎は御方の特別な加護をもらってんだぜ!お前も知ってんだろ?俺らにはくれねぇのに奴にはなんで…くそっ!それだよ、俺が奴に勝てない理由はな!それしかねぇ!!》
少しずつイラ立ちを露わにしていく八岐大蛇に対して、ゼンは無言だが、その表情に焦りが浮かんでいた。
ミコトを人質に取られている限り、簡単には手出しができない。
もし八岐大蛇が怒りに任せてミコトを殺してしまえば、それは自分の死を意味しているのだ。
(これ以上やつを怒らせてはならんな。しかし、どうするか…このままではミコトの身が危うい。しかも、ミコトがやられれば私も消えてしまう。いっそのこと、オロチに事実を一つ話すか。奴の性格上、それを知ればミコト殺すようなことはしないと思うが…)
ゼンはそう考えて八岐大蛇へと視線を向け直す。
《あーイラついてきたぜ!》
八岐大蛇はそうこぼしながら、下を向いて後頭部をボリボリと掻いている。
ゼンは覚悟を決めた。
「(賭けではあるが…)おい、オロチ!!」
《あ"ぁ"?なんだよ!》
「お前に伝えておくことがある。」
《伝えておくこと…?》
ゼンの言葉に顔を上げる八岐大蛇。
「私とその娘の関係性についてだ。」
《お前と…この娘の…関係性?なんだ…言ってみろ。》
八岐大蛇は一度ミコトを見て、再びゼンを睨みつける。
それを見たゼンは、それでいいと言うように小さく笑うと説明し始めた。
「私とその娘はある契約で結ばれている。主従関係については先ほど言ったな。私がその娘に従っている。しかし、この契約はそう単純なものではない。」
《……》
八岐大蛇はどうやらゼンの言葉に興味があるようだ。
静かに耳を傾けている。
「お前は知らぬかもしれんが、少し前にこの世界には新たな魔法が生まれたのだ。その名を"ガチャ魔法"と言う。」
《ガチャ…?なんだそりゃ…》
「それは"プレイヤー"たちにしか使えぬ特殊な魔法。それを使えば、この世界や別世界の者とランダムに契約ができるのだ。」
《契約…?ランダムに…?言っている意味がよくわからねぇな。》
訝しげな表情を浮かべる八岐大蛇。
対して、ゼンは小さく息を吐く。
「本来、主従契約は双方の同意あってこそ成り立つ。この事はお前も知っているな?互いの心と心に忠誠を刻み合うものだ。だが、この魔法は違う。これよって選ばれた者は強制的に魔法を行使したプレイヤーと契約を結ばせられ、その者に従うことを義務付けられるのさ。」
《なんだそりゃ?隷属魔法の一種かなんかかよ。》
「私にもわらかんよ。私だって突然、御方たちの声が頭の中に響いたかと思えば、気づいたらその娘の元にいたのだからな。」
八岐大蛇は未だ半信半疑といった様子だ。
ゼンは無理もないと思った。
こんな片務的な契約魔法など隷属魔法しか思い浮かばない。
無理やり契約させられて従わせられるなど、奴隷の他に考えつくものはない。
しかし、ミコトとの関係はそんな暗く辛いものではないのもまた事実なのだ。
なんの魔法かと問われれば答える知識はないが、隷属魔法ではないということだけはわかる。
要するに、ゼンもこの魔法について詳しくは知らないのである。
「そして、この魔法は隷属魔法とは違う点がひとつある。」
ゼンの言葉に八岐大蛇が眉をひそめた。
ぶつぶつ言いながらも、この話に興味はあるようだ。
それを見たゼンはゆっくりと言葉を綴っていく。
「隷属魔法を含む他の契約系魔法において、契約相手が死んだ場合、どうなるか知ってるか?」
《どうなるもなにも…なんも起きねぇだろ?単に契約が破棄されるだけ。残された方は自由になる。》
「そうだ。だが、この魔法は違う。この魔法の契約条件は…主人の死は自分の死…と言うことだ。」
《あぁ…なんだそりゃ?なら、この娘が死んだらお前も死ぬのか?》
驚いて問いかける八岐大蛇の言葉に、ゼンは無言でうなずいた。
《今ここで俺がこの娘を握り潰せば、お前は…》
「その通りだよ。彼女が死ねば私は光の粒になって消えるだろうな。ミコトを人質に取られた時点で、私の負けは確定しているのだ。」
目をつむり、そう悔しげにこぼすゼンを八岐大蛇は静かに見つめていた。
今、八岐大蛇が何を感じているのかは彼自身しか知り得ない。
その瞳は何を見て、何を考えているのか…
それはわからないが、ゼンは八岐大蛇のプライドに賭けたのだった。
八岐大蛇の性格上、その勝ち方は不本意なはず。
相手が強者ならば実力でねじ伏せることを生き甲斐としている八岐大蛇が、自分との勝負をそんな形で終わらせるはずはない。
ゼンはそこに活路を見出そうとしたのだ。
自分の竜種としてのプライドなど関係ない。
全てはミコトを助けるために。
自分の主人を救うために。
(敵同士ではあるが奴とて竜種だ。強さにおけるプライドはかなり高い…さぁ、ミコトを離せ。)
しかし、そんなゼンの考えに反して、八岐大蛇は醜悪な笑みを浮かべてゆっくりと口を開いた。
《ゼン、残念だがお前の思惑通りにはいかねぇよ。それを話せば俺がこいつを解放すると睨んだんだろ?…悪いが、今回は俺にも事情があるんでな。だが、俺とお前のよしみだ…ククク、最後にチャンスをやるよ。》
「チャンスだと…なっ!?オロチ!やめろぉぉぉ!!」
八岐大蛇は叫ぶゼンの前で、ミコトを空高く投げ上げたのだ。
《この小娘の命が惜しいなら、自分で助けてみろ!!》
そう笑いながら叫ぶと、八岐大蛇は大きく開けた口をミコトに向けた。
その口元に紫色の波動が現れる。
「ちぃぃぃっ!」
ゼンは傷ついた体に鞭を打ち、ミコトの元へと急いだ。
気を失っている彼女の体を受け止めようと必死に宙を駆け抜ける。
しかし、向かう途中でブレスを放とうとする八岐大蛇の姿が目に入った。
(くそっ!間に合え!!!)
そう考えた瞬間、再び紫色のエネルギー波が放たれる。
ミコトに向かって一直線に走るブレス。
それを横目に、ゼンは必死でミコトの元へと辿り着くと、その体を引き寄せた。
(間に合った…ミコト…よかった…)
静かに眠るミコトを見て安心したゼンは、ミコトの髪を静かに一度だけ撫でた。
そして、迫り来るブレスに目を向ける。
(ミコトだけは守り通してみせる!!)
ゆっくりと、まるで走馬灯のようにスローモーションとなって近づいてくる紫の光を見つめながら、体を丸くして守るようにミコトを包み込んだゼンは静かに目を閉じた。
(ミコト…さらばだ。君と一緒に強くなれたらよかったが…私は道を誤ったようだ…)
後悔の念が込み上げてくる。
自分の弱さが悔しい…
やっと強さの在り方に気づけたのに…
君と共に強くなれたはずなのに…
しかし、もう遅いのだ。
自分が道を誤った結果がこれなのだ。
そうだ…これが運命ならば受け入れよう。
(君に選ばれてよかった…)
そう思った瞬間、ブレスが軌道を変えてゼンたちの真横をかすめていった。
「なっ!なんだ!?」
突然の出来事に何事かと目を開けるゼンの視線の先には、真っ黒なフードを被り、見たこともない長い剣を手にしたある男の姿が映し出されていた。
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