ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜

noah太郎

74話 重なる想い


「撤退だと!?」


フクオウは声を抑えつつ、オサノに詰め寄った。


「そうだ…」

「なぜだ?!まだ失敗と決まってはおらぬだろう!」

「いや…おそらく失敗だ。」

「…むぅ、しかし仮に失敗だとしてもだ!奴はまだ飲んでいる途中だぞ!」

「だからだ!」


オサノはフクオウの言葉を押さえつけるように睨みつけた。


「奴は今、酒を飲むことに気を取られている。今ならなんとか逃げ切れる可能性が高いのだ。」

「しかし…!」


納得いかない様子のフクオウがオサノを睨らんだ。


「オサノ…本当にタケルがそう決めたの?」


間に割って入るようにソウタがオサノに問いかける。


「あぁ、そうだ。これはタケルの判断だ。みな素直に従ってほしい。」


オサノは難しい顔をしてそう告げるが、その言葉にソウタも他のメンバーも納得はしていないようだった。

その様子を見て、オサノは頭をかきながら大きくため息をつくと小さくつぶやいた。


「仕方ない。これはあまりしたくなかったが…『あらなみ』!」


その瞬間、オサノの周りから突然巨大なオーラが現れ、ソウタやフクオウらを飲み込んでいく。

彼の行動を予想していなかったメンバーたちは、驚きとともに波のような大きなオーラに巻き込まれ流されていった。


「なっ!」


オサノの行動にソウタは驚きを隠せない。


「オサノ!あんた…っぷ!!」


シェリーも声を上げたが、顔ごとオーラに飲み込まれてしまう。


「オッ…オサノォォォ!…っぷ、これは…どういう…!?」


流されながらも必死に抵抗し、波間から顔を出したソウタがオサノに向かって声を荒げるが、その視線の先ではさらに驚くべき光景が広がっていた。

オサノの後ろ側で大きな白い障壁が姿を現すと、半球体状に広がっていったのだ。


(あっ…あれはタケルの…『カンヤライ』…か!まさか…)


それを見たソウタはオサノの行動の意味を理解した。
そして、怒りが込み上げてくる。


「オサノッ!タケルゥッ!!お前ら、ふざけるなぁぁぁ!」


その様子を少しの間見据えていたオサノ。
まもなくしてソウタの声は聞こえなくなり、巨大なオーラの波は姿を消した。


「ソウタ…みんな…許せ…」


オサノはそう小さくこぼすと、タケルへと視線を向けた。





タケルのスキル発動に気を止める事なく、八岐大蛇は最後の酒樽に頭を突っ込んでいた。


「ちっ…気にもしてないや。」


タケルはその様子を見て小さく笑うと、霞の構えを一度解いた。

振り返ればすでに仲間達の姿は見えない。
オサノがうまく引き離してくれたのだろう。


「オサノには嫌な役を任せちゃったな…みんなも怒っているだろうなぁ。」


ぼそりとつぶやくと、静かに目を閉じたタケル。

もともとこの作戦がうまくいかないと判断した時は、仲間たちは逃す。

当初より、タケルはオサノの反対を押し切ってそう決めていたのだ。

作戦が失敗すれば、全滅する可能性が高いことは明白。
なにも全員死ぬ事はない…責任は全て自分が取ると…

オサノはなかなか納得してくれなかったが、タケルの頑とした態度に最後は折れた。


『絶対死ぬな…』


涙を流して男泣きして、無理な条件を突きつけてくるオサノの顔が忘れられない。


「あんな顔で泣かれたらなぁ…」


こんな時でも笑みがこぼれた自分に少しだけ驚きつつ、タケルは静かに目を開けた。


「きなこに会えるかな…」


ゆっくりと空を見上げれば、障壁越しに星たちの瞬きがうかがえた。

気づけば頬を温かいものが伝っていく。


(あっちは行けたら、きなこに謝らなくちゃ…怒られるだろうなぁ。なんでみんなを置いてきたんだって、絶対言われるな。)


小さく口元で笑みを浮かべると、タケルは再び八岐大蛇へと視線を戻した。

相変わらずがぶがぶと酒を飲み続ける八岐大蛇。


「この野郎…人の気も知らないで…」


あきれつつもイラ立ちを感じたタケルは、刀を両手に持ち直すと剣道でもよく目にする正眼の構え( 中段の構え )をとった。

そして、そのまま刀を上に持ち上げる。

天の構え( 上段の構え )と呼ばれ、斬り下ろすことのみに限れば、全ての構えの中でも最速の行動が可能である体勢をとったタケル。

刀に全てを載せて叩き込むという彼の想いが現れた構えだった。

ゆっくりと息を吸い込んで、刀を持つ手に力を込める。
一度大きく息をはいて体を脱力させると、タケルは小さく口を開いた。


「スキル…『クマソガ…おわっ!!?」


そこまで言った瞬間、首筋に冷たいものが当てられ、タケルは大きく動揺してしまう。

構えを解いて後ろを振り返れば、そこには笑っているミコトの姿があったのだ。


「ミッ…ミコト!?なっ…なんでここに…!」


驚き焦るタケルにミコトは笑顔で応える。


「えへへ…なんでだろうね。」

「えへへっじゃないよ!なんでここにいるんだ!ここにいたら死ぬかもしれないんだよ!?」


その言葉にタケルはつい声を荒げてしまう。
しかし、笑っていたミコトが突然真顔になって口を開いた。


「そうだよ…こんなところに一人でいたら死んじゃうよ…」

「だったら…なんでみんなのところにいなかったの!」

「それはタケルくんだって…」

「僕にはリーダーとして…この作戦の考案者として責任があるんだ!だから…」

「そんなのずるいじゃん!!」


珍しく声を荒げるミコトに、タケルはつい口を止めてしまった。

彼女の目には涙が浮かび、ジッとこちらを睨みつけている。


「…責任責任って、それはタケルくんだけが背負い込むことなの?」

「そうさ…僕は北の村を滅ぼしてしまっているからね。その罪も、今回の件も、責任は全部僕にあるんだよ。」

「でも、みんなはそうは思っていないと思うよ。」

「みんながそう思ってなくても、僕はそう思ってる。」

「本当に男の子ってバカだ…」


その言葉を聞いてミコトは小さくつぶやいた。


「誰が悪いとか、誰に責任がとか、そんなのバカみたい!残された人の悲しみは!?タケルくん、その責任取れるの?」

「そっ…それは…無理だよ。」

「だったらそんなの自己満足じゃない!責任があるって言うなら最後までちゃんととってよ!責任とって死ぬなんてことはただの独りよがりなんだってば!どうしてわからないの…」


ミコトの勢いに負けたタケルは、次の言葉がみつからなかった。

少しの沈黙の後、うつむいたままのミコトが静かに話し始める。


「私は戦うよ…」


その目からは大きな涙がこぼれ落ちていく。


「タケルくんは死なせない…」


落ちる雫が地面を静かに濡らしていく。


「これ以上、イノチくんを悲しませたくない…仲間は誰も…死なせないよ!」


その言葉とともに、泣きながらも力強い視線を向けてくるミコトにきなこの姿が重なった。


『自分だけ死ぬのはただの自己満だよ。』


きなこが死ぬ前の記憶。
あるモンスター討伐中に彼女に言われた一言。

それがタケルの記憶に蘇ってきたのだ。


『一人残って格好つけて死ぬような人、私は嫌い。格好つけるならみんなを守って見せなきゃね。』


みんながピンチに陥った時、今と同じように一人で殿(しんがり)を務めようとしたタケルに対して、きなこは笑ってそう告げた。

気づけば、ミコトはタケルの前に立ち、武器を両手に八岐大蛇を睨みつけている。

その背中は当時のきなこの背中と同じだった。


(また格好悪いところを…僕は成長してないんだなぁ…)


タケルは小さく笑う。
そして、彼女の横に立ち、再び正眼の構えをとるとミコトにこう告げた。


「ありがとう…僕は死なないよ。」


ミコトは何も言わずに小さく笑う。


「ゼンさんは相変わらずかい?」

「うん…だけど、さっき変化があったの。私はゼンちゃんが起きてくれることを信じてる。」


振り向かずそう告げるミコトの言葉に、タケルは大きくうなずいた。

最終決戦の時は近い。

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